日中国交正常化と沖縄「施政権」返還の50年

沖縄を再び戦場とさせてはならない  
日米「2+2」、対中戦争準備を確認か

参議院議員(会派『沖縄の風』代表) 伊波 洋一

 今年は、日本と中国の国交正常化から50年であり、沖縄の施政権が米国から日本に返還された50年目の年でもある。しかし、年明け早々の1月7日に開かれた日米の外務・防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会(日米2+2)」で、日米両政府は、南西諸島で台湾有事を想定した対中国戦争の準備作業に入ることを確認したと言える。


 共同発表文書では、「日本は、ミサイルの脅威に対抗するための能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する決意を表明した」と発表。昨年末に、米海兵隊と自衛隊が原案を策定したと報じられた米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦(EABO)」に基づく共同作戦計画について、「同盟の役割・任務・能力の進化及び緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展を歓迎した」として策定作業に入ることを合意した。さらに、「日本の南西諸島を含めた地域における自衛隊の態勢強化の取組を含め、日米の施設の共同使用を増加させることにコミットした」と共同発表文書で述べている。どう見ても戦争計画ではないか。

岸田政権は安倍・菅政権を引き継ぐのか

 南西諸島に「尖閣防衛」の名目で建設してきた自衛隊ミサイル基地や既存の自衛隊基地施設および配備された自衛隊部隊を米軍が最大限に活用して「台湾有事」の共同作戦を展開する。奄美大島や宮古島、石垣島など有人島で水が自給できる軍事拠点化の可能性は約40カ所としている。菅政権が急いで成立させた「重要土地及び国境離島の調査規制法」で特別注視区域に指定可能な島々である。
 2012年末に再登場した第2次安倍政権(7年8カ月)は、日本国憲法9条を〝解釈改憲〟した「集団的自衛権の行使」を実行するために、「平和安全法制」などの〝戦争法〟を次々と成立させた。菅政権の1年1カ月で、「台湾有事」で米海兵隊と共同作戦行動を行うところまで行きついた。
 岸田文雄首相が安倍・菅政権を引き継いだ。岸田氏は総裁選を勝ち上がるために安倍・麻生両元首相と妥協したことは明らかだ。その岸田政権での「日米2+2協議」であった。果たして、岸田政権は、「台湾有事」に米海兵隊と共同作戦行動を行うのか?
 1月17日に第208回国会が開会し、岸田首相の施政方針演説があった。最後の部分で、「われわれ政治・行政が、自らを改革し、律していくことが求められている。その最大の原動力は、国民の声です。丁寧に耳を傾ければ、そして国民と共に歩めば自ずと改革の道は見えてくる」と語った。施政方針の冒頭では、「一度決めた方針でも、より良い方法があれば、躊躇なく改め、柔軟に対応を進化させていく所存です」と語っている。
 岸田首相は中国との関係について対決姿勢ではなく、「地域の平和と安定も重要。中国には、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めていきます。同時に、対話をしっかりと重ねて、共通の課題について協力し、本年が日中国交正常化五十周年であることも念頭に、建設的かつ安定的な関係の構築」を目指すと語った。
 私たちは、「台湾有事」での日本と中国との戦争を避けるため、政府に対する戦争反対の声を各地で一層大きくしていかなければならない。

〝真珠湾〟に突入してはならない。引き返すならば今だ

 昨年12月8日は、旧日本軍の真珠湾攻撃80周年であった。山本五十六連合艦隊司令官が対米戦争に反対していたなど、当時の日本政治を振り返る特別番組が放送された。当時、日中は全面戦争に入っており、対米戦争が敗北することを知りながら、山本五十六司令官は真珠湾奇襲作戦を実行したとされる。東条英機首相も日米の国力差、特に石油資源の差で、戦争が長引けば敗北するとの報告を受けていた。しかし、日中戦争は既に日本兵十数万人の戦死者と数十万人の負傷者を出しており、米国の要求する中国からの撤退はできないとして太平洋戦争に突入したとされる。
 ここでなぜ真珠湾攻撃を取り上げたのかというと、安倍・菅政権が取り組んできた対中戦争政策は、引き返すことができない段階に近づきつつあると思うからだ。
 先の「日米2+2協議」で確認された米海兵隊の新たな運用指針「遠征前方基地作戦(EABO)」に基づく共同作戦とはどのようなものなのか。
 米海兵隊と自衛隊による「台湾有事」を想定した日米共同作戦計画原案は、昨年12月24日に共同通信社がスクープして報道された。その概要は、台湾有事で米海兵隊が鹿児島から沖縄・与那国島まで続く南西諸島に臨時の攻撃拠点を置き、米軍は対艦攻撃ができる高機動ロケット砲システム「ハイマース」を拠点に配置し、自衛隊に輸送や弾薬の提供、燃料補給などの後方支援を担わせる。海兵隊は相手の攻撃をかわすため、拠点となる島を変えながら攻撃を続ける、というもの。
 すでに在沖海兵隊は伊江島訓練場において訓練を、沖縄各地や鹿児島県、高知県など西日本各地でも空軍特殊部隊のMC130輸送機が編隊で低空飛行訓練を繰り返している。
 米軍は「日米共同作戦」に大部隊を投入しない。既存の自衛隊基地や民間施設などを小部隊が共同使用する。「台湾有事」が近いと判断されれば、中国のミサイル攻撃を想定して在日米軍の主要部隊は日本から撤退する。北海道から南西諸島まで日本列島全体が中国ミサイルの射程圏内に入っているからだ。航空機や艦船を保全するためにグアム島より遠くの、ハワイや米本土に撤退させる。一部の空軍や海兵隊の航空機部隊をグアム以東のいくつかの臨時拠点に配置して米海兵隊のEABOを担わせる。この部隊が南西諸島の軍事拠点から島伝いに移動して「台湾有事」で東シナ海の中国艦船を攻撃する。
 具体的にはオスプレイで海兵隊部隊が南西諸島の島々の飛行場に侵入して確保し、第7艦隊の司令部艦に連絡して、空軍MC130輸送機の着陸を誘導し、高機動ロケット砲システム積載車両を着陸機から降ろして目標の敵艦に発射し、直後にMC130輸送機に戻して飛び立たせ、海兵隊部隊もオスプレイで逃げ去るという作戦である。
 一方、自衛隊は、石垣島、宮古島、沖縄本島、奄美大島に陸自ミサイル基地を建設して、地対艦ミサイル部隊や地対空ミサイル部隊の他に警備部隊を配置し、島から動くことなく地対艦ミサイル攻撃を行う。敵の上陸では地上戦を戦い、本土からの援軍も想定している。
 石垣島に約4万9千人、宮古島約5万2千人、奄美大島約6千人の住民が住んでいるが、住民保護の取り組みは示されておらず、住民が巻き添えになる可能性が極めて大きい。
 安倍首相は政権に戻った翌年2013年9月、米国ハドソン研究所での演説で、「集団的自衛権について憲法解釈を見直す」と明言し、「日本がアメリカの安全保障の弱い環であってはならない」と南西諸島での基地建設を表明して、南西諸島への自衛隊ミサイル基地等の建設に着手した。南西諸島での自衛隊ミサイル基地建設は、尖閣防衛のためでなく「台湾有事」に日本を関与させて米国の台湾覇権を守ろうとする米軍戦略に沿う形で進んできた。

米国の策略で中国と対立させられてはならない

 2012年以降のアメリカの対中戦略は、米中全面戦争や核戦争を回避するために、米国は中国の領土・領海を攻撃しないこととされ、台湾防衛のために琉球列島を防衛ラインとする戦略に変わった。13年には、中国の領域に対する縦深攻撃を実施しない、中国が「敵に教訓を与えた」と宣言して戦争を終わらせることを狙いとする「オフショア・コントロール戦略」が発表された。
 中国のインフラを破壊しないことにより、紛争後の世界貿易の回復は促進される、経済的現実としてグローバルな繁栄は中国の繁栄に多く依存する、と同戦略は述べている。
 以上を読むと、アメリカは中国が「敵に教訓を与えた」と宣言して戦争を終わらせる場所として南西諸島を想定しているとも考えられる。
 沖縄では、共同通信社のスクープ記事で台湾有事の際に自衛隊と米海兵隊が南西諸島を攻撃拠点にする日米共同作戦計画原案が報じられ、県民の中に怒りが広がっている。山城博治氏や県内研究者が「命どぅ宝 沖縄・琉球弧を戦場にさせない県民の会」(仮称)を1月11日に超党派で立ち上げ、記者会見では日米共同作戦を県民ぐるみで阻止する取り組みを呼びかけた。
 私は、参議院外交防衛委員会で、南西諸島への陸自地対艦ミサイル部隊配備などの新基地建設は、アメリカが東アジア覇権を維持するための台湾防衛戦略に日本を関与させ、日米共同で中国の「台湾有事」に対処しようとするもので、尖閣防衛のためではないと指摘してきた。
 もし日本領土から米軍もしくは自衛隊のミサイルが中国艦船に向けて発射されたら、1972年の日中共同声明以来の日中関係が破綻する。
 72年の日中共同声明では、日本政府は、中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認し、内政に対する相互不干渉に合意している。
 中国との懸案事項の対処は、粘り強い日中外交交渉によるべきであって、決してアメリカの軍事力に頼るべきではない。
 日本政府は、台湾有事への対処ではなく、なによりも尖閣問題の解決を行うべきである。

18年安倍首相訪中時合意をベースに

 一番の解決策は、日中国交回復時に戻って、尖閣問題を棚上げにすることに合意し、これまでに日中で合意された案件を大切にして日中平和友好条約を維持できるようにすることだ。
 安倍首相は、2018年10月に訪中した際、2010年中国漁船の海上保安庁監視船への衝突事件と日本政府による尖閣・国有化を契機に、日中関係が冷え切った8年分の懸案のほとんど全部といえる31案件について合意した。
 外務省ホームページで「安倍総理の訪中」を検索すると出てくる。31案件は、以下のとおりで、例えば19年から5年間で3万人の青少年交流を推進していくことになっていた。
 (1)政治的相互信頼の醸成・3件、(2)海洋・安全保障分野における協力及び信頼醸成・8件、(3)経済分野等における実務協力の推進・12件、(4)対中ODAに代わる新たな協力・2件、(5)国民交流の促進・領事分野の協力・5件、(6)地域・国際情勢・1件。
 しかし、トランプ米政権が仕掛けた米中貿易摩擦問題により、日中関係改善の取り組みはストップしてしまった。その後の新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが、人的交流をストップさせたので、18年10月の安倍訪中での日中合意の案件は、多くがストップしたままだ。
 岸田首相には、安倍・菅政権のつくった「台湾有事」で日本が滅びる道ではなく、日中関係を正常化するために安倍訪中での合意を再確認して実行することで、尖閣問題を解決することを求めていきたい。

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