「対中国外交の転換を求める」問題提起 羽場 久美子

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相互信頼と発展が日中関係の基礎
――戦争を避けるために――

青山学院大学名誉教授 羽場 久美子

 私からは、少し情報過多になるかもしれませんが、事実から、近隣国の相互信頼と発展が日中関係の基礎になるということを提起したい。それが戦争を避けるための基本になるというお話をさせていただきたいと思います。


軍事衝突を避けること

 今、最も重要なことは何かと言いますと、軍事衝突を避けることです。もし、偶発的な事故が起こったとしても、それを契機に戦争を始めるということをしない。今、柳澤先生もおっしゃられましたが、世界戦争は全て偶発的な事故から起こっています。一昨日、NHKのニュースで「中国もアメリカも戦争をしたくはないが、偶発的事故は起こるかもしれない」と言われて、私はそこまで言うかと思ってしまいました。
 歴史的にも、偶発的な事故から多くの戦争は始まったのだ、ということをまず認識していただきたいと思います。尖閣に中国の兵士が上陸するとか、台湾で有事が起こるとか、今、普通に言われていますけれども、そこから戦争へとつなげてはならないということをまず言っておきたいと思います。なぜ、こういうことを言うかというと、今、アメリカも中国も着々と戦闘準備を開始し軍備を拡大しているからです。
 アメリカは、Quad(クアッド:日米豪印の安全保障同盟)、AUKUS(オーカス:米英豪の軍事同盟)、さらにはFive Eyes(ファイブアイズ:米英豪カナダ、ニュージーランドによる諜報機関)などにより、次々に軍事的な同盟・協力関係を強化しています。そして沖縄に与那国や宮古島、石垣島までも含めてミサイル、軍備配備を拡大しようと計画しているということが、沖縄の方々からも報告されています。
 中国を取り巻く戦闘態勢は、アメリカがアフガニスタンから兵を撤退し、イギリスなどの支援を受けつつ、東アジアに続々と軍を集めている、という恐ろしい状況がすでに水面下で始まっています。問題はメディアが中国の軍事行動を一方的に報道して、アメリカの軍事行動について一切触れないことです。一昨日のニュースでも言われましたように、中国の軍用機や軍事用のドローンが、台湾の防空識別圏の内側に入ったり出たりということを繰り返している。それは明らかに、下の海にアメリカの潜水艦や空母が急増しているからなのですが、それには触れていない。こうした軍事拡大競争は相互にやめるべきで、極めて危ないチキンゲームになると思います。

衰退するアメリカ

 緊張の背景はどこにあるかと言うと、単純なこと、そしてとても重要なことですが、アメリカの経済的な頭打ち、ないし衰退ということです。
 英国のシンクタンク、経済ビジネス・リサーチ・センターが2020年、昨年の12月に、中国が28年までにアメリカを経済的に追い抜く、GDPで追い抜くという調査結果を出しました。これはIMFの予測を5年前倒しで達成すると言われています。このようにあと10年しないうちに、中国経済がアメリカ経済を追い抜く。そしてインドも30年には日本を追い抜くと言われています。
 つまり、アメリカも日本も、中国・インドに抜かれ経済的な衰退に向かっているということが、国際経済分析の中で言われています。そうした状況の下で、両者が協力して中国を抑え込もうとしているのです。ただし、これで戦争しても、どちらの国にとっても利はない、アメリカがさらに衰退する契機になるかもしれないということは、アメリカも重々承知しているわけです。
 こうしたなかで、バイデンは6月のG7主要7カ国首脳会議で、コロナ後の世界に、「価値の同盟」を準備すると言いました。この「価値の同盟」というのは、自由主義、民主主義、市場経済ということで、明らかに、同盟国を集めることにより、中国の封じ込めを行うことを意図しています。そうしたなかで、「新冷戦」が始まるのか、ということが言われたりするわけです。
 けれども、これに対して欧州は非常に警戒してきました。ヨーロッパはこの間、多くの国が中国を重要な貿易相手国としてきた。日本も同じです。経団連や経済同友会など、経済は中国と結ばなければ成り立たないと言っています。特にコロナ後の経済の復興は中国やアジア諸国と連携しなければあり得ないと言われています。
いかなる時代をつくっていくべきか
 にもかかわらず、今やアメリカの側につくのか、それとも中国と経済関係を維持するのか、という二者択一を迫られている。自由経済の切り崩しと、同盟強化が始まっているのです。どちらを選ぶか? 私の提案は、両方やればいい、と思っています。つまり、経済は中国と連携をしながら、アメリカとも政治同盟を続けるということを、歴史的にも安倍政権の下でもやってきた。それが継続できるのだ、ということです。中国を敵としない、それが日本経済の発展にとっても極めて重要だと思います。
 われわれはコロナ後の、21世紀の前半をつくる新たな10年に向けて、いかなる時代をつくっていくべきなのか。ここ50年、100年後を考えると、アメリカの一国による覇権はゆるやかに終わりつつあります。
 トランプはMAGA(Make America Great Again)と言いました。ここのアゲインという単語が重要なんです。アメリカを再び偉大に。つまりトランプの支持者も自分たちは今、かつてのようにアメリカ一国の覇権はないことを認識しているからアゲイン(再び)なんですね。アメリカ自身が衰退を認め始めている。こうしたなかで何をなすべきか、ということを考えたときに、一国ではできないから、「価値の同盟」による中国の封じ込めというのは極めて危険です。そうではなくて、成長する中国やインドと結んで、経済、IT、AI、医療技術などを締め出すのではなくて、共同して新しい未来と繁栄を共につくっていくべきではないかと思います。

アメリカによる中国封じ込めの戦略

 アメリカによる中国の封じ込め戦略ですが、クアッド、クアッドプラス、オーカス 等の組織が次々と今、前面に出てきています。クアッドというのは4カ国同盟、米日豪印で、ちょうど菱形で、いわゆる一帯一路という中国の陸路と海路の間に楔を打ち込むような形で、対抗戦略を図っています。西に延びる一帯一路を阻止するうえではインドを巻き込むことが重要だと、アメリカは画策しています。なので、「インド・太平洋」なのです。ところが、日本ではあまり報道されないのですが、インドは2030年には日本を抜き、2040年~50年にはさらにアメリカを追い抜く。ですから経済では、中・印が世界を支配するというような時代が近づいているなかで、アジアの旧植民地諸国がアメリカの言うことを聞くだけの時代は終わったのを、アメリカは認識できていないということです。
 インド・太平洋と言いますが、インドは非同盟を標榜し、必ずしも中国に対抗してアメリカと結ぶというわけではない。近年中国も、冷戦期の非同盟の再建としてインドなどBRICS諸国に接近しています。つまりクアッドは十分機能していないのです。
 もう一つはクアッドプラスです。クアッドプラスというのはクアッドの4カ国に、韓国、ニュージーランド、ベトナムさらに台湾が加わって、クアッドを強化するということです。アメリカは一国ではもはや中国とその西の同盟国に対抗できないので、このようにアジアの国々を次々に巻き込みながら、中国封じ込めの政策を図ろうとしている。しかし中国との貿易量も多く、中国を敵に回したくない国がアジアには多い。
 だから、AUKUS(オーカス)なのですね。オーカスというのは、アメリカとイギリス、オーストラリアです。これはまさにアングロサクソンによる軍事同盟です。アジアの国が入っていない。
 その結果、アメリカの原子力潜水艦をオーストラリアが導入することが決まり、フランスは、自国のディーゼル潜水艦がほごにされ、アメリカと決裂したことは有名です。オーストラリアが核を保有することになり、原子力兵器が中国を取り巻く。これは大きな変化なのにメディアはどこもそれを強調しない。
 欧州の多くも、そしてインドも、必ずしもアメリカの同盟に協調しているわけではない。しかしメルケル後のドイツ・EUも変化してきており、核大国フランスもAUKUSに加わってアジア・太平洋に進出しようとしている。米欧の国々全てが150年前のようにアジアを取り囲もうとしている。こうしたなかで、アジアで日本だけがこれに加わり中国包囲網に参加するのは極めて危険です。
東アジアで紛争が始まるとどうなるか?
 東アジアで紛争が始まるとどうなるか。トランプは、北朝鮮の長距離核ミサイルを爆破させました。1万キロ先に到達する大陸間弾道弾については破壊させましたが、短距離核、中距離核を使う可能性は拡大した。つまり、アメリカに届かない核は使ってもいいよということで、2019年ロシアとも中距離核戦力全廃条約破棄を通告したんですね。
 これは具体的にどういうことかと言うと、アメリカに届かずに東アジアで局地戦争をする分にはかまわないということです。アメリカが今、考えているのは、アメリカは可能な限り安全な場にいながら、アジア人同士にアジアで戦争させる。アメリカの戦略は、局地紛争がアメリカやヨーロッパに及ばないことです。北朝鮮の中距離ミサイルは日本、東京が標的です。これは、オンラインでアメリカの学者と研究会をやっている時に、アメリカの研究者が公然と言ったことです。
 長距離核でない局地紛争が始まった場合、アジアでアジア人同士が戦う、そして東アジア経済が壊滅して米欧は安泰という状況が21世紀の半ばに起こる可能性があります。
 図は日本の地政学的位置なのですが、北をちょうど90度西に回した地図です。これを見ていただくと、日本の地政学的な位置が3千キロにわたって大陸封じ込めの要塞になっている、ということが分かります。中国封じ込めに日本が加担すれば、日本列島にとって、戦う相手は中国だけではない。北にロシア、正面に北朝鮮、南は中国、この3カ国全てを相手に、日本はこの細い島国で戦えるでしょうか。日本は、核を持つ3国に対し、最前線の位置にあって、日本が対空ミサイルを配備し、アメリカを守っている。アメリカが日本を守っているのではない、ということです。
 東アジアで、ロシア・北朝鮮・中国との対抗を日本が一手に引き受ける形になるのです。ご存じでしょうか。新冷戦について、アメリカのNATO軍の元最高指令官が「2034」という小説を書きました。それによれば、三つのレッドライン=尖閣、南シナ海、台湾があり、そこで有事が起こるという小説です。NATO最高指令官だった人のリアル小説です。
 それを起こさないためにどうしたらいいと書いてあるか。中国が勝てると思わないよう米軍の軍事力の維持、拡大をする。中国が台湾を攻撃すれば中国経済のデカップリングをする。すでにアメリカが始めていることを小説と称し、書いているのです。

戦争を仕掛けるのは中国かアメリカか

 最後になります。戦争を仕掛けるのは中国かアメリカか。おそらく中国ではない。なぜなら、このままいけば2028年から30年には中国がアメリカを抜くと、米英のシンクタンクが言っているからです。そうしたなかで、中国があえて戦争に向かうでしょうか。ただし「偶発的な事故」はあり得る。偶発的な事故があったときに、戦争に発展させないということが極めて大事です。偶発的な事故をどこが仕掛けるかは分かりませんが、それに中国も日本も乗ってはならない。戦争が始まったら、アジア人同士のアジアでの戦争になることが明からだからです。豊かで勤勉な東アジアで、アジア人同士の核ミサイルの戦争は絶対に避けなければなりません。一発で東アジア経済圏は壊滅です。

限定局地戦争でなく経済発展を

 最後に、限定局地戦争でなく共同して経済発展をすることが重要です。必要なことは相互信頼、対話、そして戦争をせず共同発展をすることです。日本の役割は米中をつなぐブリッジとなることです。たとえ偶発的な事件が起こっても、私たちは戦争をしない。そして、日本はアジアの経済発展を支えて、中国と共にリードする。日本と中国の経済力と勤勉さと、ITや技術力によって共同発展と繁栄をすることこそが私たちの任務だと思います。

補足発言

「学術会議問題」の核心は戦争目的研究の拒否

 西原先生、「対立超克理論」の提起、不戦の宣言、ありがとうございました。ほぼそれと重なる形になりますが、アピールにもあるように、今最も重要なことは、近隣国と緊張を高めない、対話を継続することです。
 軍事力で決着をつけない。しかしそれが徐々に破られようとしている現実があることを認識しなければならないということです。
 私は学術会議の会員、そして連携会員を務めております。日本学術会議は1949年に創設されました。そして、東大や京大を含めて、科学者が戦争に動員されたことを反省して1950年に、戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わないということを声明しました。1950年、67年、2017年の3回にわたり、絶対に戦争に加担する行動や考えをとらないということを宣言しました。
 なぜなら2015年に防衛省が「安全保障技術研究推進制度」として研究費を3億円出して軍事研究を募集し、16年には6億円、17年には110億円と多大な資金を軍事研究に投入していったからです。その意味で20年、戦争や政府の考えに反対する学者6名が学術会議への任命を拒否されいまだ戻ってきていないということ、これに抗議することは、日本の大学が軍事研究に向かわないうえで極めて重要なことなのです。
 ちょうど今年、ノーベル平和賞で命を懸けて自由報道を守った人たちが受賞しました。たとえ政府であっても、戦争や近隣国との対立や軍拡を推進する場合には私たちは命を懸けても闘っていかなければならないのではないかと思います。
 言えなくなる前に声を出すこと、警告をし続けること、戦争をしないこと、始まってもそれに反対し続けること、それを少なくとも私たち自身、研究者のモットーとしたいと思いますし、ここに集まってくださった方々とも平和を守るという思いを共有したいと思います。

 

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