「対中国外交の転換を求める」問題提起 柳澤 協二

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『台湾有事』は人ごとではない

国際地政学研究所理事長(元内閣官房副長官補) 柳澤 協二

 私は防衛官僚でしたが、軍事の専門家でも中国問題の専門家でもない。しかし、戦争というのは別に軍事だけでやるものではなく、軍事と政治と経済・社会と、そういうものの総合的作用として戦争があることははっきり言えます。


台湾を焦点に一気に危険な状況に

 しからばそれをどうやって防ぐのかということは、軍事だけでなくて政治と社会といろんな要因を考えていかなければいけないわけです。そこで、今日の状況を見ていますと、特に今年入ってから米中対立が台湾を焦点に激化している。そういう状況を見まして、本当にヤバイなという感じを受ける。
 というのは、政治と軍事と経済という三つの大きな要素で見ますと、政治ではずっと、特にオバマ政権の中頃までは、中国に対してアメリカはいわゆる関与政策を展開しようとしていた。しかしだんだん、中国は普通の国じゃないぞ、俺たちと全く話が合わない異質な国なんだという感じが出てきて、そして、トランプ政権になっていろんな対抗策を出すようになってきているわけですね、政治的に。
 昔、台湾は国共内戦延長上で軍政の独裁国家だった。その時アメリカは1954年に米華相互防衛条約を結んで、反共の防波堤としての台湾を防衛しようとしていた。しかし、71年に米中が関係改善をして79年に国交回復をする。その後88年に李登輝が総統になって、96年には総統が民選になるわけですが、その頃からアメリカは民主化された台湾を、民主主義を守るというシンボルとして考えるようになる。中国の方は、一貫して国共内戦の延長線上で国家の統一のシンボルとして台湾を見ている。これは、妥協の余地のない対立です。
 けれども1979年に国交回復をしたときに、それ以来、専門家の人の見方はいろいろ、「合意ではない」とか、「原則ではない」とかいろいろややこしいんだけど、つまり「政治的な暗黙の合意」として、「中国は一つ」である、ワン・チャイナ。そして、「台湾の独立は認めない」という暗黙の合意があったが故に、政治的には妥協し難い対立でありながら戦争に至ることはなかった。

政治も軍事も、経済も対立管理の要因が失われた

 それが今、特に、中国も香港で大弾圧をやったので、「一国二制度」だと言っても誰が信用するかという話になる。だから大本の原因は中国にある。しかし、一方的に中国に原因があるかというと実はトランプ政権以来のアメリカも、台湾旅行法を作って政府高官の交流のレベルを上げるとか、台湾が国際機関に加入することを促進する法律を作っている。さらに、議会の方では台湾に対する防衛コミットメントを明確にしろという法案も出ている状況です。
 つまりアメリカの方が、政治的な現状変更をサラミスライスのようにじわりじわりとしている。それに対して中国は、他にやりようがないものだから軍用機を飛ばしたり軍事的な行動によって不満のシグナリングをするという状態が続いている。これって、めちゃくちゃ厄介、物騒なんですね。何か間違えたらぶつかるかもしれない状況が生まれている。つまり政治が戦争にならないようにコントロールする背景が一つ失われてきている。
 そして、軍事でいえば1995年の頃は、私は防衛庁の情報の仕事をしていて、橋本龍太郎総理とよく会っておりました。その頃は中国の第4世代の戦闘機スホーイ27がいよいよ50機になったか、なんて話です。しかし、第4世代の戦闘機が50機になったというようなのは軍事的には全然脅威ではなかった。当時の中国というのは。今それが、去年のアメリカ国防総省の報告書によれば海軍の艦艇が350隻、米軍は290隻で、中国は世界最大の海軍になっている。中距離弾道ミサイルは1250発あるがアメリカはゼロだと。こういう状況になって軍事バランスが当時と全く逆転している。それが軍事の面ですね。
 そして、経済はというと、市場経済であり相互交流で成り立っているんだけれども、それをアメリカは切り離そうとしている。実は台湾は、高性能半導体の世界シェアの9割くらい持っているんですね。その供給網を中国からデカップリングしようというのがアメリカの政策です。
 経済の相互依存があるから何とか対立を管理しようという動機もなくなって、むしろ経済が競争の場となっている。
 こういう状況の中で、これまで戦争しないようにしてきた要因が失われてきている。だから私はすごく物騒だと思っているんです。だから台湾有事というのはあるかもしれないが故に、何とかそれを防がなければいけないというのが今最大の課題だと思っています。

戦争をするというリアリティーがあるか?

 ところが日本の有力な政治家の方が、「台湾が攻撃されたら、そりゃ日本も守らなければいけない」と気楽におっしゃっている。「台湾を防衛する」ということは、それは中国と戦争するってことですよ。中国と戦争する覚悟があって言っているのか、というのが全然見えないわけです。
 そして、中国が弾道ミサイルを持っているなら日本も持たなくてはいけないとか、防衛するためには敵の基地を攻撃しなければいけないといった議論が気軽に出てくるんです。
 しかし、本当に米中の戦争になれば、ミサイルの撃ち合いですね。そして、今は宇宙とかサイバーを含んだ戦争になる。こういう戦争がどういう結果をもたらすのか誰も経験したことがないわけですね。そして、どこまでやるかも分からない。当然、日本にはミサイルが飛んでくるでしょうし、それ以前に経済が恐らく成り立たなくなるような状況になる。
 中国にとっても、そうなればとても中華民族の偉大な復興の夢なんて言っている場合じゃなくなるわけです。お互いそういうことを分かってるはずだから合理的に考えると戦争なんかできないと言う人もいる。だけど、これだけ対立が激しくなってお互い不信感を持って前線兵力が対峙していると、何かのきっかけで戦争になりかねない、というのは歴史の教訓です。
 一発の銃声がもとで第一次世界大戦も始まったわけですね。それから日中戦争の盧溝橋事件だってどちらからか分からないけれども二発の銃声。それが、その後15年間の日中戦争につながっていくわけですね。前線兵力が対峙している状況での、現場における錯誤や誤算というのが戦争につながりやすい、そういう危険な状況にわれわれがいる。
 そんな中で、だったら日本も防衛しなければいけないねっていうことになっていく。それって戦争するということだろうと思うのですが。日本人が戦後と言うときの戦争って何だと言ったら1945年に終わった戦争ですよ。以来、75年戦争をしていない。だから本当の戦争の意味が分からない。政治家も含めて戦争すればどういうことになるのか分かってない人たちが気軽に戦争のことを語る。これって、ものすごく危険なことだと思うんです。

中国にも米国にも「言うべきこと」を言う日本に

 そこで、先ほどお話にあった憲法9条があるからというのは、私は、それはそれでいいとも思う。だけど、憲法9条というのは「何したらいかん」ということが書いてあるだけです。私たちが今欲しい答えは、「何をしなければいけないか」だと思うんですね。
 何をしなければいけないかという時、敵基地攻撃をしなければいけないという答えがある。それがなぜ間違いかと言えば、それは戦争をするということだからです。憲法前文にある「いかなる国も自国のことのみに専念してはいけない」のであって、お互いのことを考えていかなければいけない。それが憲法の精神だと思います。そういう外交がどうあるべきかということを考えていかなければいけないと思っています。
 岸田さんの所信表明を読むと、中国に対しても主張すべきことはちゃんと主張すると言っています。それはそれでいいのです。中国に対して主張すべきことは主張するべきですが、もう一つ、アメリカに対しても主張すべきことを主張しなければいけないんですね。
 何を言うべきか。両大国に向かって言えることは何か。日本だからこそ言えることは何か。いかなる国も自国のことのみに専念してはいけないのであって、世界中がコロナで苦しんでいるときに、おまえのところが悪いとか、俺のワクチンの方がたくさん出回っているとか、そんな言い争いをしていて何なんですかと。そんなことで大国の責任を果たせるのですかっていうことを、日本が発信していく。さらには米中双方に対して、間違っても戦争だけはしてならんぞということを言っていく。そういう外交が極めて重要だと思っています。

補足発言

政治でコントロールする

 西原先生がおっしゃっていた「超克の理論」、実は私も同じようなことを考えているんですね。ミサイルからどうやって安全になるかを考えるときに、ミサイルというのは基本的には落とせない、「先にやった者勝ち」の兵器なのです。
 これは戦争の技術の上で、相当大きな変化になっているわけですね。相手がたくさんのミサイルを持っているとすると、こちらもミサイルを持って撃ち合えばいいという「抑止力」論が幅を利かしている。ところが、ミサイルを撃ち合ったら、その時点でミサイルから安全ではない。
 本当にミサイルから安全になるためにはどうしたらいいのか。ミサイルを撃つということは戦争するということなんですから、相手がミサイルを撃つような戦争にしないということが一番確実な安全策だということです。戦争は政治の継続、政治目的達成のための手段です。ですから、その政治が、いかに対立をコントロールするかということが一番確実な安全策なわけです。そして私は個人的には、何としてでも自衛隊員に無駄な戦争で無駄な犠牲を出してはいけないと思っている。それが私の一番の思いなんです。

 

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