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[持続と循環の食料自給経済へ]奈須 りえ

地方にも都市部にも求められる地域循環経済

大田区議会議員 奈須 りえ

 鈴木先生のご講演は、これまで進められてきたグローバル化を総括した非常に意義深いものでした。
 NHKスペシャルが報じた「2050に起きるかもしれない食料を求める暴動」はそれだけでも、大きな衝撃でしたが、先生が出された試算は、それよりずっと前2035年に日本が飢餓に直面する可能性をリアルに示しており、食料自給への不安を具体的な危機として私たちに突き付けました。先生は、食料自給率がここまで下がり、飢餓の危機にさらされている背景にある「TPPなど自由貿易協定」と「一連の法改正(種子法廃止→農業競争力強化支援法→種苗法改定→農産物検査法改定等)」など、この間、法や制度が支えてきた公の役割を規制緩和により壊し、市場経済の自由競争にさらすことで、グローバル資本に利益をもたらす構造をつくってきた政府を厳しく批判しておられ、大変に共感いたしました。地方議員としてこの間の制度改正から、農業など一次産業だけでなく、都市部においてもグローバル資本の投資対象が拡大し弊害が生じていることを実感してきたからです。

 2000年以降、公共分野の民営化が始まり、福祉分野への営利企業の参入が可能になりましたが、今や、地域の小規模事業者が淘汰され大資本が市場を広げつつあります。規制緩和により、商店街から個人商店が次々姿を消し、商店街そのものが姿を消している地域もあります。公共施設の使用許可権限を与え維持管理を可能にする指定管理者制度が導入され、公園や図書館まで営利企業が参入しています。さらに、命に関わる水道事業までグローバル資本の投資の危機にさらされています。
 私たちの人権を守り、暮らしを守ってきた制度や法律を改廃し、日本の構造や統治機構を壊してきた結果、私たちが働き生み出す「利益(富)」が地域に再投資されず、場合によっては海外流出し、格差と貧困が拡大しています。先生が指摘されている農業はじめ一次産業や公共・非営利セクター、個人事業主や小規模事業者や日本のシステムが地域循環経済を可能にしてきましたが、それを構造改革により壊してきたのです。
 その上、意思決定に係る民主主義の根幹まで壊そうとしています。国家戦略特区は、実質的な法令の改廃など意思決定を、国会ではなく一部の大臣や民間事業者などに委ね、日本の議会制民主主義を形骸化させましたが、さらにスーパーシティで、行政情報、個人情報、企業情報等の一元化と、それを使った事業提案・執行を可能にしています。自治体では、公民連携という名目で、行政と企業が行政情報に基づき政策立案するようになっていますが、ここに住民や議会は不在です。
 国は、感染拡大防止を名目に、テレワークや遠隔教育・医療などを進めていますが、それらの多くは、コロナ以前から、求められてきた規制緩和のメニューに入っています。先生も指摘されている、コロナに乗じた「火事場泥棒」的ショック・ドクトリンは食料(農業)にとどまらない、日本の構造改革の総仕上げの段階に入ったと言ってよいのではないでしょうか。
 今、主権を国民とした憲法は私たちの手にありますが、グローバル資本家がこの国の主権者となってしまう可能性があります。国民が手を結び、緩和されてきた規制の網をかけ直すことで、グローバル資本の暴走を抑止し、主権者のための統治機構をつくり上げる時にきているのではないでしょうか。