菅政権の予算案――国民の命守らず 経済最優先・大軍拡

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農林漁業家族経営を終わらせ、次は中小企業もつぶす効率化

『日本の進路』編集長 山本 正治

 1月18日、通常国会が始まり、菅首相は初めての施政方針演説を行い、政府予算案(20年度補正と21年度)も提出された。
 菅首相の演説でも、政府予算案でも、コロナ感染症対策や生活困窮の国民や企業への具体的対策、予算は極めてわずかである。国民の命を守る政治は全く見えない。
 ところが、中止されているにもかかわらず「Go To トラベル」の補正予算は1兆円余も計上され、組み替えされない。厚労省医療関係費は削減されたが、「病床削減や病院の統合により病床廃止」には財政支援を195億円と大幅増。社会保障関係費でも高齢化に伴って当然増やさなければならない予算を1300億円も削減、「(一定の年収以上の)75歳以上の後期高齢者の医療費負担の2割への引き上げ」といった具合である。
 農林漁業だけでなく、今度は中小企業や地方銀行などをつぶす攻撃だ。他方、デジタル化と脱炭素を成長戦略に、財界が望む大企業や投資家のために莫大な支援。産業再編で失業など労働者や下請け企業が犠牲になる。しかも、大軍拡。特措法改悪などで強力な国家をめざす菅政権の危険な策動を打ち破らなくてはならない。
国民の命を守らず 何を「防衛」するのか
 軍事費は、7年連続で過去最高の5兆3422億円(SACO分などを含む、デジタル庁付け替え分も)、前年比1・1%増(防衛省分のみ)。アメリカの軍事企業から大量に高額軍事品を買い、日本の国民生活が犠牲にされる。
 その特徴の一つは、「多次元統合防衛力」という、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力の獲得強化である。たとえば、米軍やJAXAと連携した監視衛星(SSA・宇宙設置型光学望遠鏡)の整備費の一部として659億円が計上された。宇宙作戦隊を含む宇宙作戦群も新設された。
 同時に、「敵」基地などを狙う巡航ミサイル(例のように防衛省はスタンド・オフ防衛能力と言い替えている)などの整備を進める。「離島奪還」「南西諸島配備増強」等々、中国を事実上の「敵」とする戦争挑発だ。
 「米軍再編関係経費」として2930億円も計上。不要不急の典型、沖縄県民をはじめ国民の批判の的の辺野古沖埋め立て経費などだが、グアムでの「士官用隊舎」整備等にも財政難のなかで441億円も。さらに交渉中の、米軍への「思いやり予算」もとりあえずということで2017億円計上されている。
 軟弱地盤で実現不可能な辺野古沖埋め立ては即刻見直せ。
 国民の命を犠牲に、中国敵視の戦争準備、米軍と軍需企業奉仕の大軍拡予算を許してはならない。

農林漁業の家族経営は崩壊の危機に

 昨年12月1日、新漁業法が施行された。漁業協同組合などが持っている漁業権を奪い取る。「適切に管理」されていない漁場ということで、企業が養殖や海上風力発電などに新規参入できるようになった。どこかで聞いたような言い草だ。そう、19年4月に施行された「森林経営管理法」である。いわく、「適切な経営管理が行われていない森林の経営管理を、意欲と能力のある林業経営者に集積・集約化、それができない森林の経営管理を市町村が行う」と。
 かくして、山の木々は大規模な「バイオマス発電」の燃料とされ、これからは風力発電の風車が海上に林立するようになる。本号で、鈴木宣弘教授が暴露している。
 家族経営農業は崩壊寸前である。2000年に、約234万戸あった販売農家(経営耕地面積が30a以上又は農産物販売金額が50万円以上)は、20年間で半減以下の102万戸に。従事者の平均年齢は67・8歳(ともに20年現在)、あと何年もつか。
 歴代自民党政権は、農業からも、森林からも、海からも零細な家族経営を放逐、大企業の利益に差し出した。これでは、「地方の活性化」は不可能だ。
 菅首相は、農産品の輸出で「農業を成長産業に」などと言う。農産物や飼料などを10兆円も輸入しながら、10年後に5兆円の輸出をめざすという。そのころ企業農業は繁栄しても家族農は離農させられているだろう。

中小企業つぶし、まずはコロナ廃業を放置。地銀つぶしも

 しかも次は、「中小企業も無駄だ! なくせ」と言うのだ。
 菅首相は演説で、中小企業の経費の一部を補助する「持続化補助金の見直しを通じて生産性の底上げを図る」と言い、さらに「地域金融機関の経営基盤を強化し、統合などの支援を日銀とも連携しつつ進める」と宣言した。
 「中小企業淘汰論」を唱えるデービッド・アトキンソン氏が政府の成長戦略会議の委員に座った。米ゴールドマン・サックスの元幹部だった氏は、「経営者に任せていても再編・統合が進まない以上、国が主導するしかない」と言い放つ(読売新聞インタビュー)。
 とんでもないことだ。だが、話だけではない。コロナ禍で中小企業を支えるのにいくらかは役立ってきた「持続化給付金」や「家賃支援給付金」すらも、感染爆発のさなかに打ち切られた。これまでも申請しても給付されていない企業が大半だった。「中小企業はつぶれろ」と言う政権の意思が反映している。
 それに「地銀つぶし」。
 小企業はとりわけだが、今多くの企業が、自治体が利子を負担し実質無利子、信用保証協会が保証を付ける地銀からのコロナ関連融資で息をつないでいる。
 1月14日、福井県を地盤とする福井銀行が県内の福邦銀行の子会社化を発表した。マスコミは、菅首相がめざす地方銀行再編政策の「第1号か」と報じた。「福井銀行は県内シェアトップだが、取引層は中堅・中小企業が多く、零細企業は福邦銀行や地元信用金庫がカバーしている」とも伝えた。競争力のない地銀や信金など弱い金融機関は淘汰され、地域の資金循環で成り立ってきた地域の中小企業も淘汰されることになる。

米ハゲタカの餌食に

 1月8日の日経新聞は、「日本で不良債権投資、米KKR系 コロナで増加見込む」との見出しで米ハゲタカファンドの動きを報じた。「不良債権の売り手は地銀や信用金庫などを想定する。コロナ対応の緊急融資の結果、過剰債務を抱える企業が増えている。今後、一定割合が不良債権化する恐れ」と。ハゲタカはこの「不良債権」、実は技術力を持った中小企業などに食らいつき、荒稼ぎしようとしているのだ。
 バブル後の90年代から2000年代にかけての不良債権処理も、米ハゲタカファンドにさんざんに食い物に。アトキンソン氏は、まさにハゲタカの手先以外の何ものでもない。
 「経済性、効率性」のキャンペーンにだまされてはならない。ましてや米ハゲタカに日本の宝である中小企業をこれ以上食い荒らさせてはならない。

企業利益のための「脱炭素+デジタル化」成長戦略

 菅首相は、昨年10月の所信表明演説で、「50年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにする」と表明した。日本も環境対策にようやく重い腰を上げたかなどと見る向きもあった。
 だが、施政方針演説で政府の狙いは明瞭に。「実質ゼロ」は、ヨーロッパが先行し、中国も動き、トランプ前大統領が背を向けていたアメリカもバイデン大統領で踏み込む。首相の狙いは、日本企業を支援し世界の流れに立ち遅れないようにすることだ。
 首相はさらに、「環境対策は経済の制約ではなく、投資を促し生産性を向上させ、力強い成長を生み出す、その鍵となる」とあけすけだ。地球環境対策の「脱炭素社会の実現」、技術革新に伴う「デジタル化」は、環境投資で「過去最高水準、最大10%の税額控除」などと大企業のための「成長戦略」「投資戦略」なのだ。デジタル化も同様だ。
 日本経団連は昨年11月、「ただコロナ発生以前に戻るだけでは、もはや持続的な成長を望むことはできない。新しい、サステイナブル(持続可能)な資本主義の形を追求することが、新政権に課せられた最大の使命である」と、「新成長戦略」を要求していた。
 「脱炭素」「デジタル化」が錦の御旗となって、規制は次々撤廃される。労働の規制緩和も進められ、労働者には大失業時代となる。自然もさらに荒らされる。
 政府は小型原発開発だ。福島第一原発(フクイチ)事故後の10年間に世界の多くの国が電力の再生可能エネルギーシフトを進め、世界発電量に占める太陽光や風力などの再生エネ比率は26%に。ところが、日本は17%にすぎない(国際エネルギー機関。いずれも18年時点)。国内約140基の石炭火力発電所に依存したからだ。同時に企業は、原発再稼働準備のために合計5兆円超の投資を行った。原発事故があろうが、CO2を排出し続けようが、企業利益第一だからにほかならない。
 菅首相は施政方針で、「安全最優先で原子力政策を進める」と約束した。これならば企業や投資家は安心だ。しかし、フクイチ事故がたとえなくても、「核のゴミ」処理のめども立たない原発が「持続可能」なはずはない。
 「成長戦略としての脱炭素社会」追求は、あくまで「企業利益最優先」だ。
 いったい世界中で誰が、大量に生産される、例えばEVを買えるのか。今日の世界の根本問題、大多数の貧困化、したがって需要不足の問題は未解決のままで。こうした生産は、かつての水俣病に象徴されたような「公害」を引き起こし、さらに原発依存がフクイチ事故を引き起こしたように、国民の命を危険にさらす犯罪行為を生起させるだけである。

戦後の日本は限界に。新しい日本が求められる

 しかも、デジタル庁での「デジタル化」は、民主主義を掘り崩す個人情報の国家による集中掌握であり、中央・地方のデジタル一体化で地方自治もさらに形骸化する。コロナ特措法は、権限集中、私権制限であり、罰則を伴う外出禁止、集会禁止の「戒厳令」への一歩に歯止めはない。
 菅首相は演説で、学術会議委員選任問題には触れなかった。国民の不満と怒りの高まりを、学問への権力介入、民主主義破壊と監視国家化、強権国家の実現で乗り切ろうと策動している。政権は、安倍前首相の「桜前夜祭」をはじめとする疑惑と政権私物化、犯罪行為に蓋をしたままである。
 さらに日本経団連やマスコミは、財政赤字を国民に押し付けろと要求を強めている。
 こうしたなかで全国知事会など地方6団体と全国の自治体病院関係団体、それに国民健康保険中央会などが連名で昨年11月、次のような「要望書」を出した。「これまでは効率的、効果的な医療体制、無駄のない医療体制が主眼に置かれていたが、コロナ禍後には、かつて経験したことのない急激な社会変化が予想されることから、単に効率性、経済性のみを追求するのではなく、わが国が、これまで推進してきた医療改革を抜本的に見直し、国民や医療者から求められる医療体制に再構築するべき」。経団連風の、利益のための「新成長戦略」と明確に一線を画した方向である。
 これはコロナ感染症で命の危機に直面し、生活の糧を失い生きる道を失っている多くの国民が、国政全般に望んでいることだ。地方6団体という、国民に一番身近な行政機関のこの要望は画期的だ。
 世界は戦争の危険も含む激変のさなか、歴史的転換期である。アメリカ追随の日本、企業利益だけが優先される「効率性・経済性第一」の日本は限界である。自立した、国民の命と暮らしを優先する政治をめざそう。

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