国際環境の激変と地方・地域、自治体の課題

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山本 正治(本誌編集長)

 安倍首相は今も「アベノミクスの成果を地方に」などと欺いている。日本経済は「緩やかな成長」が言われるが、国民は貧しく家計消費は伸びず、需要は海外依存、大企業の海外収益依存度は5割を超える。
 主要先進国は、どこもリーマン・ショック前の成長を超えることはない低成長傾向が続くが、なかでも日本は先進国の中で最低の成長にとどまっている。国内の需要は乏しく、バブル崩壊後の「失われた20年」を脱していない。
 安倍政権のアベノミクスで、大企業と資産家は極度に豊かになったが、地方はますます疲弊し、貧困化と格差が拡大し持続可能性が問題となっている。
 今、世界は貿易戦争が激化し、しかも、AI(人工知能)を中心とする史上例を見ない「第4次産業革命」と呼ばれる激変が進行している。トップ企業といってよいトヨタ自動車の豊田章男社長に言わせると、「まさに未知の世界での、生きるか死ぬかの戦いが始まっている」のである。
 トップ企業すら「生きるか死ぬか」の危機である。直撃される地方、地域経済と人々の暮らしへの打撃度は計り知れない。地方政治も厳しく問われることになる。
 激しい競争にさらされた企業家たち財界人の悲鳴、それに日経新聞を中心にマスコミにも今年に入って危機感に満ちた情報が毎日のようにあふれるようになった。しかし、与野党の政党・政治家たちも、地方自治体首長たちをはじめ地方政治に携わる人々も極めて関心が薄い。これでは「戦い」にさらされる地方・地域、人々は「死ぬ」以外になくなってしまう。
 地方・地域、自治体の課題について問題提起してみる。

1 急速に進む貧困化と格差拡大。地方も、大都市も、限界に

 国立社会保障・人口問題研究所が3月に発表した地域ごとの人口予測は衝撃的だった。27年後の2045年の都道府県人口は、最も減少する秋田県では約4割減少、現在102万人の総人口は60万人に、しかも、二人に一人は65歳以上の高齢者となる。全体として東北地方の高齢化の進行度合いは深刻で、65歳以上人口の割合が高い上位5県はすべて東北地方が占める。
 秋田県では、今も毎年人口の1%以上が減り、昨年は1・4%の減少だった。出生が減り高齢化で亡くなる人が増え自然増減はマイナス1%、企業撤退と農業などでは暮らしが成り立たず転出超過で社会増減がマイナス0・4%である。
 他方、大都市圏でも事態は深刻。東京都は、毎年1%近い人口、とりわけ青年男女が増えている。にもかかわらず昨年、ついに東京都も自然増減がマイナスに。若者のほとんどが非正規雇用で低賃金、暮らしは大変、結婚もできず、子育てどころではない。行政は保育や教育などへの負担が大きく、他方、高齢化も急速に進み、介護や医療需要の急増期も迫っている。

労働者の貧困化、大都市と地方との格差も拡大

 人口減少、それにはいろいろな要因があるとはいえ、一番基礎的でこの傾向を条件づけているのは、国民、とりわけ青壮年層の貧困化であることは論をまたない。地方でも都会でも若者が食えなくなっている。
 県民経済計算(14年度版)で「一人当たり県民雇用者報酬」を見てみると、どの都道府県も急速に低下している。2000年を100とすると、14年の全国平均は93・1。秋田県は84・4で、東京都でも96・3にとどまる。
 毎月勤労統計データで実質賃金を見ると、00年を100として、昨年17年の全国平均は91・5にしかならない。特に安倍政権になってからの急落が顕著で特徴的である。
 しかも地方と東京都との格差はますます開いている。00年の東京都の1人当たり雇用者報酬を100としたとき、最も少なかったのは青森県と徳島県で62・6にすぎなかった。それが14年には、下の方から佐賀県50・9、秋田県54・9、沖縄県が56・0で、大幅に差が開いている。
 平均すると東京都の労働者も悪化しているが、地方の労働者の賃金条件はさらに急速に悪化しているのである。もっとも実質賃金指数の推移で比較すると、地方の道県よりは東京など大都市圏の方が悪化している。

県民は貧しく、法人企業だけが豊かになって「県民所得」は増加

 商工業者や農民なども入れた県民全体ではどうか。「一人当たりの県民所得」では一見違ったようにも見える。
 東京、神奈川など首都圏の「一人当たり所得」は減少している。14年(00年を100として)に東京都90・3、神奈川県93・6と大幅に悪化している。逆に、東北6県では、00年を100とすると14年で最も伸びが鈍かった秋田県でも101・8、岩手県は109・9で増加している。増えている府県が26府県もある。
 それらの県では、県民は豊かになったか? 違う。分母である人口減少の結果である。秋田県の県内総生産は00年に3兆9401億円だったが、14年には3兆4585億円にとどまる。県内生産は減少し、県民所得も減少している。人口も増えて、一人当たり所得も増加しているのは愛知県と沖縄県だけである。
 ところが安倍首相は今年の年頭会見で、「有効求人倍率は、北海道から沖縄まで、47全ての都道府県で1倍を超えています。これは高度成長期にも実現できなかったこと」などと自慢げに語った。深刻な事態をとらえていないことだけは間違いない。

 00年と14年を比較すると首都圏と地方との格差はわずかだが縮小している。東北で一人当たり県民所得が一番少なかったのは青森県で、東京を100とすると00年には47・2だったが14年には53・3で格差は縮小した(なお、全国で一番所得が少なかったのは沖縄県で00年に41・4だったが14年には47・2で、ここも東京との格差は縮小した)。
 しかし県民所得は、雇用者報酬、企業所得、それに財産所得から成り立っている。企業所得でも、個人企業として扱われている農家所得、それにその他の非金融個人企業所得は大幅に減少し、民間法人企業所得だけが大幅増加である。
 秋田県の県民所得で、01年を100とすると14年の労働者の賃金所得は72・5、農林水産業個人(企業)所得は61・2、その他の産業の個人企業所得は71・7といずれも大幅減少だが、民間法人企業所得は実に150・4に増加する。配分比率でも賃金配分(労働分配率)は57・1から46・4%に10・7ポイントも減り、農林水産業個人所得は1・7から1・1%へ、その他の産業の個人企業所得も2・6から2・1%へ減り、民間法人企業所得が13・4から22・6%へと9・2ポイントも増えている。「県民所得」とは言っても、企業の所得であって県民に分配されているわけではないのである。

貧困と格差を急拡大させた安倍政権・アベノミクス

 国民経済計算(16年度)で全国を見ると(次頁グラフ参照)、01年を100とすると16年の農林水産業所得は89・5、その他の産業で非金融の個人企業所得は46・8にすぎない。すでに見たように雇用者報酬も減って、法人企業所得と財産所得だけが大幅に増えているのである。
 国民所得のうち労働者の賃金が占める割合(労働分配率)は、12年が60・2%であったが16年には58・3%とわずか4年で2ポイント減少した。農林水産業家所得のシェアは同じ0・6%だが、商工自営業者所得は2・7から2・4%に減った。逆に、民間法人企業所得は12・8から15・2%へと増加、家計への配当所得も1・6から1・9%に増加。
 法人企業所得は急増し、資産(株式配当や土地や株の含み益)も大幅に増加した。財務省の法人企業統計によれば資本金10億円以上企業(非金融)は、12年から16年までの4年間で売上高をわずか0・4%増やしただけだが、経常利益を実に63%も増やした。株価は5年間で倍ちょっとに、地価も大都市圏だけでなく地方中核都市を含めて上がり始め資産家たちは笑いが止まらない。これこそがアベノミクスの結果だ。

東京都内でも貧富の格差が急拡大

 東京都の中心部、区部の中でも貧富の格差が急拡大している。『新・日本の階級社会』を著した橋本健二氏によると、1975年には最も所得が多い千代田区と少ない足立区の比は2・29倍にすぎなかった。2000年代に入ると格差が拡大、14年にはトップの港区と足立区との格差は5・12倍に達したという(課税対象所得額の比較)。東京都と沖縄県でも約2倍の差だから、首都東京の内部格差の大きさは異常なほどである。「勝者総取り」といわれる今日社会の姿を表している。
 労働者や農林水産家、商工自営業者の貧困化が急速に進み、地域間の格差もさらに急速に進んだ。それは安倍政権、アベノミクスの下でさらにテンポが速まった。貧困と格差がこのまま進行すればこれは明らかに持続不可能である。

2 日本の直面した課題。支配層も現状にとどまれなくなった!

 アベノミクスの時期に地方はますます疲弊、貧困化と格差拡大が進んだ。しかも今、世界は貿易戦争と史上例を見ないAIを中心とする産業革命で激変が進行している。日本はこの世界的激変の大波に洗われ始めている。地方、地域経済と人々の暮らしも直撃される。国の政治も地方政治も問われる。

①トランプ政権が始めた貿易戦争は日本の進路の分岐点

 アメリカの「貿易戦争」のターゲットは中国だが、最大の貿易赤字国というだけではない。中国がめざす強国化の重要な柱である2025年に「世界の製造強国」へという目標達成を阻止しようとする技術覇権争奪こそ核心である。したがって緩和することはなく、特にここ数年は非常に緊迫した状況となろう。
 日本もトランプ大統領に「(安倍首相が)米国をだませたとほくそ笑んだ日はもう終わりだ」と言われたように深刻な影響が避けられない。
 戦後、対米従属を選択したわが国財界主流は、まず農林業を犠牲に差し出して、独立に不可欠な食料やエネルギーの自給・安全保障を放棄し、民族の生存を他国に委ねてしまった。その後も繊維産業に始まって貿易摩擦のたびに中小企業、地場産業、地方・地域、国民を犠牲にしてきた。
 そうした中でも大企業は外需依存で、対米従属政治に守られてアメリカなど世界市場で利益を稼いできた。しかし1980年代以後、「ドル安・円高」攻撃もあって輸出大企業は生産拠点の多くを海外に移転させて利益を拡大し、地域・国内経済を空洞化させた。
 今、そうやって膨大な利益を享受し、国内にも生産拠点を維持し対米輸出で荒稼ぎしてきた自動車産業などが狙い撃ちに遭っている(25%の関税追加を検討中と報道されている)。しかも、産業革命の大試練が始まっている。
 対米従属の下での「経済発展」路線では、大企業もやっていけなくなっているのである。対米路線をめぐって支配層、大企業の中にも葛藤が避けられないだろう。
 経済主権の確立、国民経済の再建が問われる。

②「第4次産業革命」—-世界的な競争に立ち遅れる日本、焦る財界

 世界中で、「第4次産業革命」と言われる技術革新が進み、AIとすべてのモノがインターネットでつながるIoTを中心に経済も社会も、政治や軍事も、世界の姿は文字通り激変のさなかにある。
 すでにふれた豊田章男氏は日本自動車工業会会長への就任会見で、「自動車産業を取り巻く環境は、電動化や自動化、技術革新などで、異業種も巻き込んだ100年に1度とも言われる変革期。次の100年も車やバイクがモビリティの主役でいられるのか、まさに未知の世界での、生きるか死ぬかの戦いが始まっている」と述べた。国家主権を売り渡しても企業利益に狂奔してきた企業家だが、まさに試練である。
 自動車産業は地域の中核産業であり、自動車などの企業誘致に頼ってきた地域にとって、文字通り「生きるか死ぬか」の試練の時なのである。
 技術革新は都市一極集中をさらに加速し、地方の衰退に拍車をかけ日本社会は持続不可能になりかねない。
 労働市場でも「勝者総取り」の傾向をさらに促進すると予測される。AIロボットで「数年以内に仕事の30~40%を技術で置き換えることができる」と言われるほどである。
 技術革新は時代の流れとはいえ、誰がその技術を握り、誰のために使われるか、地域経済と共存できるかどうかが問われている。
 多くの地方自治体は、今後どうやって地域経済を維持するか深刻な事態で、地域発展戦略の全面的な見直しが避けられない。

③金融危機が迫った中でわが国財政は深刻な事態に。危機への対処能力が失われ、むしろ危機の根源に

 金融危機後、世界経済は各国中央銀行のマネー垂れ流し、それをもとにする巨額の財政出動で辛うじて支えられてきた。この結果、先進各国政府も、新興国を中心に企業も借金まみれで、金融は極めて不安定となっている。
 とりわけわが国は、先進国ではGDP比世界一の借金国家で、一般政府(国・地方自治体・社会保障基金)の債務残高は1290兆円余(17年度末)となっている。
 アメリカが1990年代に、悪名高い「日米構造協議」で日本に630兆円もの公共投資を要求し、対米従属の自民党政権はそれを受け入れた。90年度末に地方債残高は、歳入総額の0・65倍にすぎなかったが5年後には0・92倍に、15年後の2005年度末には1・51倍に急増した。その後、15年度末に1・43倍に減少し、臨時財政対策債を除くと0・93倍にまで減少した。アメリに強要され政府が地方に押し付けた公共事業費の負担の大きさがわかる。
 歴代自民党政権は、直接に米国債を買ったりもしてアメリカに搾り取られるとともに、さまざまな補助金や法人税と所得税の大幅減税等で大企業を繰り返し支援した。特に安倍政権の5年間で政府債務は約160兆円も増加した。安倍政権は、実質的に黒田日銀に国債を買い取らせて「機動的な財政運営」などと言って財政赤字を膨らませ、法人税減税など大企業優遇で「景気」を辛うじて維持してきた。
 この状況がいつまでも続けられないことは明らかである。金利が上昇すれば、中央政府と自治体の公債費の激増が避けられない。危機への対処能力が失われ、むしろ危機の根源になりかねない状況となった。
 政府と財界は、地方交付税改革、社会保障費の削減、公共サービスの「産業化」など地方財政の圧縮を迫っている。さらには経済財政諮問会議では、地方の財政基金について「これが国に戻ると、プライマリーバランスの比率が2%変わる」(18年4月24日、新浪剛史・サントリーホールディングス社長)などといった暴論まで出ている。
 一方、全国市長会の研究会は、19年の消費税増税を延期せず、かつ連続的に引き上げるべき、といった提言を出した。市長たちが住民負担増を求めるような、こうした提言をするとはいかなることか? 
いずれにしても、この程度のことでは対処不可能である。抜本的な対策が必要となっている。

④対米依存の安全保障政策の全面的な見直しも避けられない

 アジアの政治状況は流動化し始めた。衰退するアメリカは、間もなくGDPでも上回るといわれる中国の対抗を阻止しようとしてさまざま画策している。特にこれからの数年間、中国は経済的にも軍事的にも強国化を集中的に進める時期であり、東アジアは緊張し、戦争の危険と隣り合わせとなる。
 朝鮮半島情勢では南北関係が劇的に緩和局面となった。しかし、分断をつくり出してアジアを支配してきたアメリカの動きは武力行使も含めて予断を許さない。
 同時に、アメリカはICBMでなければ朝鮮の核ミサイルを「容認」する可能性もある。そうなれば、わが国対米依存派が期待するアメリカの「核の傘」など気休めにもならない。アメリカはわが国に軍拡と武器購入をそそのかしている。
 アジアでは、「板門店宣言」に象徴的だが、アメリカの乱暴な介入に対抗して、アジアのことはアジア人が決める流れもますます強まってくる。
 このようにわが国の安全保障環境は激変している。支配層の中にも、日米安保条約の信頼性に疑問が広がっている。安倍政権は、歴代自民党政権の「日米同盟と専守防衛の自衛隊」という安保政策の見直しを進めている。空母保有など「敵基地攻撃能力」をもって、対米従属の下での軍事大国化でアジアに覇を唱えようとしている。そうした中で憲法改悪にも突っ走っている。
 国民が望むのは、平和にアジアと共生する自主的な安全保障政策である。沖縄県民は、地方自治と民主主義の旗を掲げて、米軍基地に反対し平和な沖縄の発展のために奮闘している。横田基地などへのオスプレイ配備や秋田県などへのイージス・アショア配備等、また、危機をあおって全国で進められている避難訓練をやめさせるなど、全国の自治体で、平和を守りアジアと共生するための努力が問われる。
 ――戦後の、対米従属国家日本は完全に限界にきている。自民党政権も、官僚体制も、「制度疲労」を露呈。支配層も現状に堪え得なくなっている。
 新しい日本が避けられない。安倍首相は今年の施政方針演説で「新たな国創りの時」と言ったが、何一つ新しい国づくりは提唱できなかった。戦後の「国づくり」、すなわち対米従属国家の見直しなしにはそれは不可能である。
 地方は限界を迎えている。京都大学と日立製作所のチームはAIを活用し昨年9月、「技術革新」はさらなる都市一極集中を促進し地方は衰退し、今後8~10年以内に日本は持続不可能となると予測し、「地方分散型」の日本を提唱した(本誌4月号「AIを活用した持続可能な日本の未来に向けた政策提言」今井良典教授を参照)。
 地方政治が問われている。

(以下次号)
3 安倍政権の国内政治、地方政策 
4 われわれの課題

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