朝鮮半島情勢 緊張打開の道筋を考える

3.問題解決の道筋

 朝鮮半島情勢の緊張が増幅することを放置すれば、第2の朝鮮戦争を招きかねない。米国は朝鮮に圧力をかけ続けてその自壊を導くシナリオを描くが、2015年のいわゆる8月事態(韓国軍兵士が地雷爆発で負傷したことをきっかけにして起こった全面衝突の危機。南北最高位レベルの膝詰め談判によって辛うじて危機を脱した)に鑑みても、米国の思惑どおりになる保証はゼロだ。問題解決の緊要性はかつてなく大きい。以上1.及び2.を踏まえ、実質問題と取り組み方について基本的考え方を提起する。

実質問題

 実質問題としては、1.で指摘した情勢緊張の3つの原因(米朝相互不信、朝鮮の核開発及び人工衛星打ち上げ問題、米国の朝鮮敵視政策)の綜合的解決が必要だ。「綜合的」でなければならないのは、3つの問題が絡まりあっていて、切り離しは不可能だからだ。いずれの一つのみを優先させようとする一方による試みは、必ず他方による抵抗で挫折する。
相互不信の解消を実現するために取り組むべき課題は、停戦協定を平和協定に代えることであり、それ以外にない。米国の朝鮮敵視政策は朝鮮に対する不信に基づくものであるから、平和協定推進は同時に米国の朝鮮敵視政策の転換を促す意味をもつ。
 朝鮮の核開発及び人工衛星打ち上げ問題に関しては、問題点の整理が必要だ。朝鮮以外の国々の最大の関心は、朝鮮に核兵器開発を断念させ、NPT体制に引き戻すことにある。朝鮮の最大の関心は国家としての生存・安全保障に対する米国の確証取り付けだ。
 8月事態(前述)以後、朝鮮は米国に平和協定締結を提案し、米国がこれに応じれば、核問題の交渉に応じることを示唆している。つまり、米朝平和協定締結と朝鮮のNPT体制復帰とをパッケージにする取り組みを進めることで、双方の要求を満たすことができる。
朝鮮の人工衛星打ち上げに対する米国の拒否反応は、打ち上げ用ロケットが長距離弾道ミサイルにほかならず、核弾頭を搭載すれば軍事的脅威となるという警戒に基づく。しかし、核開発を伴わなければ、人工衛星打ち上げに目くじらを立てる理由はなくなるはずだ。したがって、上記パッケージを実現することにより、安保理決議で 朝鮮の宇宙条約に基づく権利の行使を妨げる必要性は消滅する。
結論として、中国が最近提起している「半島の非核化と停戦協定を平和協定に代えることを併行して推進する」提案は、以上の諸点を取り入れることによって説得力を持つことになるはずだ。

取り組み方

 国際的取り組みとしては、理論的には、関係諸国の協議に基づいて、まったく新しい方式をつくり出すことも考えられる。しかし、情勢の緊迫性に鑑みれば、新方式を編み出すために時間を費消する余裕はない。
これまで試みられた3つの方式のうち、朝鮮に対する圧力行使を主眼とする安保理決議方式の破産は明らかだ。また、枠組み合意を実現した米朝直接交渉方式は理想的だが、朝鮮はともかく、米国が応じる可能性は乏しい。したがって、中国が提案している、9・19合意を基礎に6者協議を再起動させる方式が、過去における一定の実績に鑑みても、もっとも現実的選択だ。
 ただし、中国の提案に米国韓国及び朝鮮が簡単に応じる状況でないことは2.で見たとおりだ。中国もそのことを弁(わきまえ)えており、「関係国のより良い提案があれば、議論したい」(2月23日にケリー長官と共同記者会見に臨んだ王毅外交部長発言)としている。
 米中合意の実現に基づく新しい安保理決議が採択され、3月には米韓合同軍事演習が開始される。朝鮮は当然激しく反発するだろう。この試練を何とかしのぐことができることを前提として、この夏から6者協議による問題解決の取り組みが本格化することを希望的に展望することができるだろう。

【浅井基文(あさい・もとふみ)さんのプロフィール】
 1941年7月 愛知県生れ。63年 東京大学法学部中退/63年4月 外務省入省。 国際協定課長(78年~80年)/ 中国課長(83年~85年)/地域政策課長(85年~86年)/  オーストラリア(71年~73年)、ソ連(73年~75年)、 中国(80年~83年)、イギリス(86年~87年)など外国に勤務。88年4月 文部省出向(東京大学教養学部教授)/90年3月 外務省辞職。
 90年4月 日本大学法学部教授/92年4月明治学院大学国際学部教授/05年4月広島市立大学広島平和研究所所長等(11年3月 退職)

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