朝鮮半島情勢 緊張打開の道筋を考える

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国際問題研究者 浅井 基文

浅井基文いま、朝鮮半島では、国連安保理のかつてない朝鮮制裁決議採択、さらに実戦さながらの史上最大規模の米韓合同軍事演習がまもなく始まるなど、一触即発の緊張が高まっている。東北アジアの緊張打開に、いま、何が求められるか、国際問題に詳しい浅井基文さんに緊急にご投稿いただいた。
月刊「日本の進路」編集部

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)は、1月6日に第4回核実験を行い、また、2月7日には人工衛星を打ち上げた。これに対して大韓民国(韓国)は、開城工業団地の操業全面停止を含め、朝鮮に対する強硬対決姿勢を打ち出した。また、米韓は3月開始の定例合同軍事演習を史上最大規模で実施する構えであり、3月以後の朝鮮半島情勢は再び一触即発の危機を迎える。
 これまでの朝鮮の人工衛星打ち上げ及び核実験に対しては、国連安保理は毎回非難及び制裁の決議を採択しているが、今回、米韓日は従来以上に厳しい内容の決議採択を目指している。これに対して中国(及びロシア)は、制裁決議採択には同意しつつ、6者協議再開による問題解決を目指すべきだという立場だ。
 本稿は、最初に、1950年に勃発した朝鮮戦争以来の半島の歴史を踏まえて朝鮮半島情勢の緊張原因を確認する。次に、これまで試みられてきた国際的取り組みの実効性及び問題点を検証する。最後に、問題解決のための必要な道筋を提起する。

1.朝鮮半島情勢の緊張原因

 第二次世界大戦後の朝鮮半島情勢は、米ソによる38度線を境にした南北分断で固定化され、1990年まで米ソ冷戦体制のもとで身動きできない状況が続いた(私たちは、日本の朝鮮植民地支配が米ソによる南北分断を招いた事実を忘れてはならない)。
 冷戦体制そのものは1991年のソ連崩壊によって崩れたが、朝鮮半島情勢は、1953年に締結された休戦協定によって辛うじて戦火再発を回避する不安定な状況のままだ。むしろ、1990年代以後、朝鮮の核政策に神経をとがらせた米国歴代政権は、朝鮮半島の軍事的緊張を持続、激化させて今日に至っている。
 朝鮮の核政策は、1980年代にソ連から提供された実験原子炉の導入に端を発する。朝鮮は、1985年に核不拡散条約(NPT)に、1992年には国際原子力機関(IAEA)との保障措置協定に署名し、NPT体制の枠組みのもとで原子力の平和利用を推進する姿勢を示した。
 ところが1993年、米国は朝鮮の核開発を問題視し、これを受けてIAEAは朝鮮に対して特別査察を要求した(第1次「核疑惑」)。朝鮮はこれに反発してNPTを脱退した。するとクリントン政権は、疑惑がある核施設を破壊する軍事作戦計画を進め、朝鮮半島は一触即発となった。
 この危機は、韓国の金泳三大統領が米国の軍事力行使に断固反対したこと、有事法制をもたない日本が米軍の発進・兵站基地としての機能を担えなかったこと、カーター元大統領が金日成主席と直談判したことなどによって辛うじて回避された。そして米朝は、1994年にいわゆる米朝枠組み合意を締結し、米国を中心とする国際機構(KEDO)が朝鮮に対して軽水炉原子炉(及び建設完了までは発電用重油)を提供し、朝鮮は独自の核開発計画を放棄するパッケージが成立した。これを受けて朝鮮はNPT脱退を撤回した。
 ちなみに朝鮮は、1998年に最初の人工衛星打ち上げを行ったが、米国はミサイル発射実験と受けとめたものの制裁には動かなかった。
 しかし、イラン、イラクとともに朝鮮を「悪の枢軸」と決めつけたブッシュ政権のもと、米国務省は2002年に朝鮮のウラン濃縮に関する情報を発表し(第2次「核疑惑」)、重油提供を一方的に停止した。これに反発した朝鮮は再びNPT脱退を宣言し、半島情勢は再度緊張した(最近発表された中国専門家文章は、朝鮮はウラン濃縮計画の存在は認めたが、濃縮活動そのものを認めたのではないと指摘し、朝鮮側主張を裏付けた)。その直後にブッシュ政権はイラク戦争を開始し、朝鮮の同政権に対する警戒はさらに高まった。
 事態に危機感を抱いた中国が韓国及びロシアの賛同も得て動き、米日も同調せざるを得なくなって、朝鮮半島の非核化及び同半島における平和と安定の実現を目指す、朝鮮を含めた6者協議が2003年に起動した。そして、2005年の協議では共同声明(「9・19合意」)採択という成果を達成した。ところがその直後、米財務省はマカオの銀行を通じた朝鮮のマネー・ロンダリング摘発を発表した。朝鮮は、これを9・19合意違反として激しく非難し、6者協議は中断に追い込まれた。
 その状況下で朝鮮が2006年にミサイルの連続発射実験を行ったことに対して、アメリカ主導(中露も同調)で「朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止…することを要求」する国連安保理決議1695が採択された。朝鮮はこれに核実験(第1回)で対抗し、再び米国主導で朝鮮に対する経済制裁を行う安保理決議1718が採択された。
 なおこの年にブッシュ政権は、ならず者国家(朝鮮を含む)に対する核先制攻撃の可能性を織り込んだ「おあつらえデタランス」(tailored deterrence)戦略を公表した(韓国も2010年に対朝鮮先制攻撃の可能性を織り込んだ「積極デタランス」戦略を採用)。
 その後、中国の努力もあって6者協議は再開された。そして、2007年から2008年にかけて、9・19合意実施のための具体的措置について合意が得られた。
 2009年、朝鮮は宇宙条約に加入した上で、第2回目の人工衛星打ち上げを行った。これに対して安保理議長は、ミサイル技術を利用した打ち上げそのものが安保理決議1718違反とする非難声明を発表した。これを不当とした朝鮮は第2回核実験を行い、さらに安保理決議1874が採択されるという応酬がくり返された。
ちなみに、以上のパターンは2013年から2014年にかけてもくり返された(人工衛星打ち上げ→安保理決議2087→朝鮮の第3回核実験→安保理決議2094)。本年(2016年)の展開は以上の延長線上にある。
以上に概観した朝鮮半島戦後史から、半島情勢の緊張原因として、次の3点が重要だ。
 第一、朝鮮半島情勢は休戦協定で辛うじて戦争が回避されてきたが、朝米の相互不信で、些細なきっかけが本格的軍事衝突に拡大する可能性が常に存在していること。
 第二、朝鮮は当初、核開発(原子力の平和利用)及び人工衛星打ち上げ(宇宙の平和利用)について、NPT及び宇宙条約に基づく権利の行使として行おうとしたのに、米国は朝鮮の目的は核ミサイル開発にあると決めつけてかかったこと。
 第三、日本を含め、朝鮮半島の緊張激化の原因は朝鮮の挑発にあるとする見方が支配的だが、米国の朝鮮敵視政策こそが真の緊張原因であること。

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