食料・農業政策の大転換が求められる
2/14 自治体議員連盟が対政府要請行動
農民が地域や東京でトラクターデモといった運動が広がる。農業と農村は行き詰まり、しかも、世界が戦争や異常気象などで深刻な食料危機を迎えている中、「食料自給の確立を求める自治体議員連盟」は2月14日、国会内で食料・農業・農村基本計画に関する要請行動を行った。全国から議員連盟の自治体議員たち20人近くと支援者、それに衆参の国会議員9人と14人の国会議員秘書も参加した。政府側からは農水省を中心に文科省、国交省の代表が参加した。この要請行動は、那覇市で1月末に開催された第20回全国地方議員交流研修会の第2分科会「農業・農村を守り、食料自給を確立するために」での討論と確認を踏まえたもの。
冒頭、議連を代表して発起人の北口雄幸・北海道議が、「議員連盟は、現在、47都道府県、180自治体の議員312人で組織されている。食料生産の課題は農業問題にとどまらず地域経済の問題であり、消費者・生活者に直結する問題でもある。そういう思いで各議員が参加している。昨年4月には食料・農業・農村基本法が四半世紀ぶりに見直しされたが、それに先駆けて3月21日に当議員連盟で要望書を提出した。そこでは食料自給率の問題や農家の皆さんが持続的に安心して農業に従事できるよう直接支払いの拡充などを含めて7項目の要望を提出した。なかなか厳しい回答だったが国会議論の結果、基本法が成立してしまった。それに沿って今年度中に基本計画が具体的に策定されると承知している。その基本計画の策定に向けて、地域住民、農民、消費者の皆さんの声を直接受けている私たちがこれを届けることがきわめて大事だと、要請行動に踏み切った。国会議員の方々のご尽力に感謝しながら、この国の食料・農業をしっかり守っていくための有意義な議論が展開できることをお願いする」と述べた。
次いで参加の議員たちが、農水省、文科省、国交省の代表に8項目の要望書を手交し、議連発起人の今井和夫・宍粟市議会議員が要望書を読み上げた。
続いて議連顧問の鈴木宣弘・東京大学大学院教授が要望書を補足し、政府側の「食料・農業・農村基本計画 骨子」(案)に示されている不十分点を指摘した。例えば骨子では食料自給力の確保(人、農地、技術、生産資材)を強調しているが、食料自給力の指標がどれだけ確保されるかに基づいて必要な食料自給率が決まるわけだから、自給力と自給率の関係性を整理し明確に示す必要があると批判した。その他いくつかの問題点を挙げて、ただしこれらの問題は財政の壁と闘うことなしには解決しないと思うので、行政の皆さんは頑張ってくださいと激励した。
参加した自治体議員の発言に移り、「5年も持たないかもしれない厳しい状況だ。農業崩壊を回避するために抜本的な政策転換が必要だ」「農水省の役員は、まず地方の農業現場に足を運び、厳しい実態を間近に見ろ」など厳しい意見が相次いだ。「この40年間で農水予算が米国7・5倍、欧州4・7倍、ところが日本は4割減」(小沢和悦・宮城県大崎市議)、「中山間地が農地の4割。年金で農業を支えている農家が多数で、辞めるときは何も言わず辞めていく。静かな悲劇を止める必要がある」(今井和夫・兵庫県宍粟市議)などの意見も。
また、参加の国会議員のうち6人が発言、自治体議員を激励するとともに政府に厳しい要求を突きつけた。
政府側答弁と意見交換は1時間を超えた。昨年の要請行動で見せた一方的な政府側答弁でなく、かれらの発言からは議連側の意見に共感する印象と財政の壁に苦渋する実態も垣間見られた。今回のような運動を、さらに文字通り超党派に広げ世論の高まりを促せば食料・農業政策を大転換させる展望をうかがわせる要請行動だった。
発起人の西聖一・熊本県議が「令和のコメ騒動で消費者も農政に注目している。農家の中ではトラクターデモも計画されており、農政の転換の声が高まる。農水省はこれに応えてほしい」のまとめで閉会し、各党国会議員・政党への要請行動に移った。
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食料・農業・農村基本計画に関する
食料自給の確立を求める自治体議員連盟の要望書(一部略)
自給率38%という異常に低い日本では、食料・農業問題は農業者だけの問題ではなく、消費者・国民の命の問題として真剣に考える必要があります。
しかしながら、財務省の財政審議会は、昨年秋に「自給率の重視は不適切」「企業的な大規模化でコスト削減」「備蓄米の削減」「農業予算は高水準、早期に是正すべき」などの答申を出しました。
農水省は、この答申を食料・農業・農村基本法改正や基本計画の骨子案の大前提としています。昨年の令和コメ騒動をみても、国民の食料を安定的に確保する政策になっていないことは明らかではないでしょうか。
農業予算は、総予算が増加しているにもかかわらず40年前の6割で、以降減り続けており、「農業予算は高水準」との指摘は事実と異なります。農業予算の削減が農業を疲弊させ、自給率の低下を招いています。今後5年から10年で担い手は激減し、中山間地域だけでなく、大規模なコメ生産地すら維持が困難になると各地から悲痛な声が上がっています。農政を転換しなければ、自給率はさらに低下せざるを得ません。
食料危機の時代、国内生産を促進し自給率を向上させ、国民の命である食料を安定的に確保することは独立国としての責務であり、国防であり、食料安全保障です。昨年総選挙で、与野党とも農業食料予算の大幅な増額を公約に掲げました。食料農業問題は、消費者・国民の命の問題として、政党間での共通認識ができつつあり、本気で訴えれば国民の合意は可能です。
日本農業の再生の最後の機会として、農業予算を大幅に増額することを前提に、食料・農業・農村基本計画に関して、以下の事項について要請します。
記
1.国内生産による食料自給の達成に向けて、年度ごとに食料自給率の目標数値を明確にし、それを実現するための必要な予算と工程表を明確にすること。
2.国民の食料を確保するためには、農地と農業者を守り、農業で暮らしていける直接支払い制度の拡充と政府買い上げによる需要創出政策等、予算増をともなった施策を早急に導入すること。
3.有事の際の増産命令や罰則規定等を定めた食料供給困難事態対策法は廃止すること。
4.国民の食料を安定的に提供するためには、多様な農業経営体が必要であり、規模拡大や効率化のみの補助要件でなく、家族経営が主体の農業者も、持続可能な農業経営ができる仕組みづくりを進めること。
5.食料は命の源であり、その源は「種」である。大事な種を国内で生産・循環させる仕組みを早急に確立すること。
6.みどりの戦略に示されていた農地面積の4分1である100万haを有機農業へと拡大するロードマップを早急に具体的に明らかにすること。学校給食の意義を捉えなおし、文科省予算も含めて必要な財政措置を講じること。
7.日本の人口減少は、将来の農業生産体制にも大きな影響を与えると同時に、山村集落の維持も困難になる。よって、これ以上農家戸数を減らすことなく、新規就農者への支援も拡充すること。
8.水田の多面的機能に洪水被害を防ぐ「田んぼダム」機能がある。防災の観点から、多面的機能支払交付金を国交省予算も含めて拡充すること。