「台湾は中国の一部」原則を堅持すれば危機は避けられる
『日本の進路』編集部
日米共同統合演習「キーン・ソード25」が10月23日から11月1日まで、沖縄・奄美を中心に北海道まで全国で展開された。「仮想敵」は中国である。直前の14日には、中国人民解放軍が「『台湾独立』勢力に対する強力な懲罰だ」と台湾沖で大規模演習をした。
マスコミは、キーン・ソードについてはほとんど取り上げず中国軍の演習だけを大々的に報道し、反中国世論を煽っている。
「台湾有事」を誘う頼清徳「台湾総統」と米日の策動は新しい局面を迎えたかの状況である。「不測」の事態があり得る緊迫の状況だ。
日中不再戦へ、侵略戦争の反省を踏まえ国交正常化の原点に戻る国民的合意と外交確立が急ぎ求められる。
実戦そのもの
「キーン・ソード25」には日米両国、それにオーストラリア、カナダも加わっている。その規模たるや自衛隊・米軍合わせて人員約4万5000人、艦艇約40隻、航空機約370機と発表されている。さらに豪、加以外に仏、独、印、伊、リトアニア、オランダ、ニュージーランド、フィリピン、韓国、スペイン、英国およびNATOからオブザーバーが招聘されている。
開始前の10月20日には、米国とカナダの軍艦が台湾海峡をデモンストレーション通過した。先んじて9月末に海上自衛隊艦が初めて台湾海峡を通過している。
これまで日本は「台湾は中国の一部」との両国合意の原則を厳守し中国主権を重んじて海峡通過を避けていたが、この原則的政策を放棄したのだ。7月18日には日本の海上保安庁と台湾海巡署(海保に相当)が千葉県沖で合同訓練を実施した。これも1972年の「日台断交」後初めてであった。
日本政府は日中国交正常化後、台湾との関係を「民間及び地域的な往来」に限定してきた。この台湾政策はいつの間にか明らかに変更されている。そしてキーン・ソード25だ。「台湾独立」の中国挑発策動は新たな次元に移ったかのようである。
「台湾独立」を加速する頼「総統」
台湾の頼「総統」は10月10日、演説し独立を煽り立てた。いわく、「中華民国は中華人民共和国とは互いに隷属しない。中華人民共和国に台湾を代表する権利はない」「私たちは中華民国を守り抜いてきた」「中華民国の存在は始終揺らぐことがない」等々。最後は、「私たちは、(台湾の)国家の主権を守る」と演説を締めくくった。
日本語にしてわずか6000字弱の演説で、「中華民国」を10回、「国民同胞(ないし国民)」を16回も連発して独立を扇動した。「一中一台」ないし「二つの中国」の、新たな「台湾独立」の主張である。
中国側が厳しく反応しないはずはない。台湾は、中国の「核心的利益の核心」だからである。
われわれは地域の緊張激化は望まず平和的統一を望んでいる。しかしあくまでも問題は中国の内政である。14日の台湾包囲軍事演習は主権国家として当然の対応と言える。
「平和的統一」を進める中国の対応
中国国防部は演習の目的について、「『台湾独立』に打撃を与えること」と限定し、「台湾同胞に向けたものではない」とも明言した。そして、「関係者は『台湾独立』への支持に耽ることを止め、台湾海峡の平和と安定の破壊を止めねばならない」と米日政府に警告した。
演習は1日で終了した。翌日、中国外交部は次のように声明した。「中国側は常に、地域の平和と安定の維持、保護に努めてきた。地域の国々は、このことに着目すべきだ。もしも台湾海峡の平和と安定に関心があるのなら、まずは『台湾独立』に固く反対することだ」
「地域の平和と安定」を望むわが国は、この提起を真剣に受け止めるべきだ。
中国文化旅行部副部長(副大臣)は9月末に会見を開いて、「国慶節の休日中(10月1日~7日)、(台湾の)馬祖島・金門島へ向かう(中国人)観光客はピークを迎えるだろう。大陸の住民が、できることなら早期に台湾本島へ旅行に行けるようになることを願っている」と声明した。
演習にもかかわらず台湾市民の生活は平穏、冷静だったとも報道された。中国が実施を事前に通知せずに当日発表したことについて、台湾の専門家は「大規模演習によって緊張を一気に高めることを避ける狙いもあると分析した」と台湾の「国営」通信社は伝えた。他の専門家はペロシ米下院議長訪台時(22年8月)に比べて「実弾演習もないなど」「今回の演習には当時ほどの緊張感はない」と述べたとも伝えた。
在台湾の日本企業も台湾海峡の平和と安定を頼「総統」に求めている。台北市日本工商会は10月4日、「両岸(中台)の交流や対話を継続」し、安定した関係の構築を求める要望書を提出した。
頼「総統」など台湾の一部と米国支配層、およびそれに従うわが国の一部勢力だけが、中国を戦争に引きずり出して強国化を抑制し、あわよくば瓦解させようとして「緊張」を作り出している。
中国「機雷封鎖」まで唱えるマスコミ
中国軍の大規模軍事演習についてわが国マスコミは異常だった。
右傾化激しいマスコミの中で「琉球新報」紙は、絶えず正論を主張し最も進歩的との評価も高く、われわれも日頃から信頼している。ところがその同紙でさえ社説で、「選挙という民主的な手続きによって台湾民衆に選ばれた総統や政権を武力で威圧する行動」を容認できないという。「台湾に近く、米軍基地を抱える沖縄は安全保障上、深刻な影響を受ける」というのは当然というか、分からないではない。だが、「選挙という民主的手続き」が万全でないことは、自民党政権の辺野古対応だけ考えても分かることだ。
どうやって危機を打開するのか、平和と安定をどう実現するのか、歴史と両国関係も踏まえて踏み込むべきだ。
読売新聞や産経新聞の社説はひどい。読売新聞は「米国と日本は、今回の中国軍の部隊運用を詳細に分析し、必要に応じて防衛計画の見直しを進めることが欠かせない」と論じる。台湾の問題だから、わが国には「台湾防衛」など権利も義務もないのに「防衛計画」の見直しが必要だと。しかし、中身は一切触れない。
産経新聞はその「計画」に踏み込む。「米軍などが大陸の主要港湾への航路に機雷を撒くなどすれば、海を介した中国の輸出入の大半は途絶する。中国共産党独裁体制を覆す騒乱も予想される」と。食料やエネルギー供給が途絶え、騒乱も起こすことを狙う驚くべき計画だ。日米のどこかにあるのであろうか。事態は文字道り危険な水域だ。
石破首相「共同声明」堅持を明言
こうした中で石破茂首相は10月10日、ラオスでの中国李強首相との首脳会談で「台湾問題において『日中共同声明』を堅持するという日本の立場に変更はない」と明言した。首相となった石破氏の言動には厳しい評価がある。だが、この表明された立場は極めてまっとうで断固支持できる。
しかし、日本外務省の発表にはこの立場の表明は一切ない。日本マスコミでもどこも取り上げない。明らかに報道管制である。
7月の上川外相(当時)の同様の発言には外務省は直ちに抗議し取り消しを迫った。石破首相発言についての中国側発表に外務省は抗議していない。首相発言は事実なのであろう。
「日中共同声明」堅持は日中関係、東アジアの平和と安定、発展の基礎である。アメリカ一辺倒でなく、「アジアに生きる日本」へ進路を切り替える時である。