中国はどこへ行くのか?

歴史を画する「3中全会」を読む

北東アジア動態研究会主宰 木村 知義

 中国は歴史の新たな段階に歩みを進めることを力強く宣明した。
 世界注視の中で開かれた中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の「決定」を読んで抱く感慨である。
 「3中全会」において「改革をいっそう全面的に深化させ中国式現代化を推進することに関する中共中央の決定」を採択したことは7月18日の会議閉幕と同時に発表された「コミュニケ」で知ることができたが、21日には「決定」の全文が新華社によって報じられた。華字2万2000字に及ぶ長文の「決定」を読み込んでみると、新たな歴史の長途へと歩みを進める中国の姿が詳らかに見えてくる。

 「3中全会」というと、1978年12月に開催された第11期3中全会が、「改革開放」へと舵を切り中国の歴史を大きく変えることになったことで、われわれの記憶に刻まれているが、今回の「3中全会」は、その次の新たな高みにステージを上げるという意味で中国革命の歴史にまた一つの画期となることを予感させる。指導者を冠して時代の歩みを大きく捉えるならば、1949年の新中国誕生によって新民主主義から社会主義化をめざした毛沢東時代、文化大革命の苦難と曲折を経て、改革開放、社会主義市場経済による高成長をめざした鄧小平時代、そして、絶対的貧困を基本的に解消して小康社会を実現し、次の社会発展のあり方へと階段を上る習近平時代という区分ができる。
 今回の「3中全会」は、中国が、中国革命という長い過程における新たな歴史段階に立ち至ったことと、これから進む道筋を中国国内にとどまらず広く世界に示したという意味で、時代を画する「3中全会」となったことを、まず知る必要がある。
 「決定」では「改革を全面的に深化させる」ことと「中国式現代化を推進する」ことを一体不可分の命題として追求していくことを、「3つのジャンル」、「15の部分」、総計「60項」にわたって詳細に説いている。「改革を全面的に深化させ、中国式現代化を推進する重要性と必要性」について総論的に提起した第1の部分が「第1ジャンル」、第2から第14部分の詳細な各論が「第2ジャンル」、改革における中国共産党の指導強化と党建設の制度改革の深化、清廉な政治を行う党風の確立、反腐敗闘争にかかわる取り組みについて述べる第15部分が「第3ジャンル」となっている。
 大方の日本のメディアは、「中国式説明では世界に通じず」、「目新しい政策や具体策が見えず」といった論評に終始したが浅薄に過ぎる。全60項に及ぶ「決定」に分け入ってみると、今回の「3中全会」に向けて、中国が抱える諸課題について稠密な調査、研究と分析、検討が重ねられてきたことが読み取れる。
 論点は多岐にわたるが、中国における現代の社会主義にかかわる提起は、中国の現在を理解するうえで核心をなす重要な意味を帯びている。「揺るぐことなく公有制経済をうち固めて発展させ、揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励・支援・リードし、各種所有制経済が法に基づいて生産要素を平等に使用し、市場競争に公平に参加し、法律による保護を同等に受けられるようにし、各種所有制経済の優位性の相互補完と共同発展を促す」と、公有制経済と非公有制経済の調和のとれた発展をめざすことを掲げる。
 マルクスが提起した資本主義の揚棄としての社会主義は「生産手段の社会化」が根幹をなすことはいうまでもないが、中国は、社会主義市場経済の下で、独自の論理に基づいて、このすぐれて現代的な命題に立ち向かおうとしている。しかも、すでに崩壊したソ連・東欧型の「社会主義」ではなく、中国の歴史と伝統、文化、思想、哲学に根差す独自の社会主義の姿を創造的に切り拓いていこうという、まさに前人未到の挑戦となっているのである。さらに言えば、ひたすら生産力の向上、発展の道をひた走って高成長をめざした鄧小平時代に積もり積もった矛盾、格差や腐敗という「負の遺産」に対して立ち向かうことと合わせ、「共同富裕」という「分配論」に分け入って新たな中国の社会像を模索することで、現代の中国的社会主義のさらなる深化、発展をめざすというのである。
 「決定」とともに新華社によって公開された習近平氏による「『改革全面化に関する党中央決定』の説明」は実に興味深い内容を含む。
 「中国の特色ある社会主義制度の整備はダイナミックなプロセスであり、必ず実践の発展に伴って絶えず発展し、既存の制度を絶えず整える必要があり、新しい分野の新しい実践では制度の革新を推進し、制度の空白を埋める必要がある」と述べて、中国の特色ある社会主義をめざす道は、まさに現在進行形の、中国革命のたえざる探究の途上にあることを物語っている。そして、今回の「決定」は2035年までに社会主義現代化を実現させるという目標のため、主に今後5年間の重要な改革を推進するためのものであるとした点も重要なポイントである。

もう一つの「民主」を実感

 もう一つ、習氏の「説明」のなかで注目すべきことは「決定稿の起草プロセス」にかかわる言及である。2023年11月に中央政治局が「3中全会」の文書起草グループを設けることを決定したことに始まり、12月8日に起草グループの第1回全体会議を開いて作業がスタートしたこと、7カ月余りに及ぶ調査・研究とあわせて広く意見を募り、テーマ別の論証を展開し、検討、修正を重ねたことが明かされている。11月27日には党中央委員会が通知を発して「3中全会」の議題について各地域、各部門の幹部、大衆から意見を募り、それらの意見、提案をふまえて「決定稿」が起草され、今年5月7日に「党内の一部と古い世代の同志に送付」して意見を募るとともに、各民主党派、全国工商連の責任者、無党派の代表者の意見を聴取、関連企業と専門家、学者の意見を聴取したことなどが述べられている。こうして各方面から「1911条の修正意見と提案」が提出され、これらの意見、提案を取り入れながら221カ所を修正したことが詳らかにされている。加えて、政治局常務委員会は3回、政治局は2回、それぞれ会議を開いて全体会議に提出する決定稿を作成したというのである。
 このように「3中全会」の準備過程が語られる時、中国が「民主」というものをどう位置づけ、どう形あるものとしようとしているのか、その一端が垣間見えてくる。日本における政策立案、決定過程と比べてみると、すべからく、われわれが欧米流の「民主主義」という狭隘な尺度でしか見ていないことに気づく。
 「3中全会」を読むという営みによって、またもや、われわれにとって中国とは何であるのか、中国はどこへ行くのかという根源的な問いと向き合うことになる。新中国の成立を重要な契機として、中国は、まだ見ぬ「中国の特色ある現代の社会主義」への長途の途上にあり、そこでの不断の格闘と試行錯誤を重ねながら新たな社会の姿をめざして歩みを続けている。こうした世界史的な意義を持つ今次「3中全会」であるという認識を深めることが、中国理解を時代にかなったものとしていくことになると考えるのである。
 中国を知ることは、すべからく、日本のこれからの行く道を誤ることなく定めるために不可欠だということを銘記しておきたい。