ウクライナの劣化ウラン弾

ウクライナの大地を劣化ウラン弾で汚染させるな!

チェルノブイリ子ども基金共同代表 小寺 隆幸

《劣化ウラン弾がウクライナで使われようとしている》

 3月20日、英国防省はウクライナに供与する戦車チャレンジャー2の弾薬の一部に劣化ウラン弾が含まれると表明した。翌日、プーチン大統領は、「核の成分を使い始めたものとしてロシアは対応する」と言明、ショイグ国防相は「潜在的な核衝突」であると言うなど、意図的に核兵器と結び付け牽制した。それに対し英国政府は「劣化ウラン弾は数十年にわたって使用されてきている通常兵器」であると核兵器に結び付けることを非難した上で、「人体や環境への影響は低い」として供与を正当化したのである。
 だが両者とも全く欺瞞的である。英国防省はイラク戦争で兵士に劣化ウランのリスクを知らせるカードを配っており、危険性を認識している。一方ロシアは、ジュネーブ人道的地雷除去国際センターの2022年報告に、ロシアがウクライナに劣化ウラン弾を持ち込んだと書かれているにもかかわらず、隠蔽している。


 4月25日に英国防省は劣化ウラン弾を含む弾薬数千発をウクライナ側に引き渡したと発表した。今後、ウクライナによる反転攻勢では、市街地で双方が劣化ウラン弾を使用することになりかねない。チェルノブイリ事故で放射能に汚染されたウクライナが再び汚染され、住民とりわけ子供たちに、そして両軍の兵士に甚大な健康被害と環境汚染をもたらす。だが戦闘に勝つことを至上目的にしているウクライナ政府は、劣化ウラン弾の危険性に目を瞑っているように思える。

《劣化ウランの危険性と規制の動き》

 天然ウランの99%は核分裂しないウラン238であり、核兵器製造や原子力発電のために天然ウランの0・7%にすぎない核分裂性のウラン235を濃縮して取り出す。あとに残る大量のウラン238が劣化ウランである。核分裂はしないがα線を出し続け、半減期は45億年である。劣化ウランは鉄の2・5倍の比重があり、砲弾にすれば貫通力が極めて高い。そこでアメリカ政府はこの膨大な量の放射性廃棄物を管理する代わりに無料で軍需産業に払い下げ、戦車砲弾や戦闘機の機関銃弾を作らせた。それを米軍やNATOは湾岸戦争(1991)、ボスニア(95)、コソヴォ(99)、イラク戦争(2003)で大量に使用したのである。
 劣化ウラン弾は戦車の装甲に当たると発火し放射性微粒子となって飛散する。それを吸い込めば体内でずっとα線を出し続け、がんを引き起こす可能性がある。また重金属としての化学的毒性も有している。それが使われた結果、各地で数年後から白血病やがんが多発した。例えばイラク南部のバスラでは、湾岸戦争から7年後の1998年から小児がん患者が急増し、2005年には戦争前の8倍になった。またイラク戦争後、ファルージャ総合病院では12年時点で、03年以降の新生児は平均で15%が先天性異常と報告されている。
 このような事実が明らかになる中で、国連環境計画UNEPは03年にイラク戦争での劣化ウラン弾による汚染場所周辺では「ダストの吸入は、ウランの化学毒性と放射能毒性による健康への危険性を引き起こす可能性がある」とし、また地中に埋もれた不発弾の腐食による地下水の汚染の危険性も指摘した。そして22年にはウクライナでの劣化ウラン弾使用に懸念を示している。
 劣化ウラン弾規制の動きは徐々に進んできた。1996年、国連人権小委員会で、劣化ウラン弾は「無差別的破壊をもたらす非人道兵器」であるとし、「その製造と拡散を抑制する必要性」を訴える決議が採択された(賛成15、棄権8で、反対は米国のみ)。ヨーロッパ議会においても、2001年、劣化ウラン弾使用のモラトリアム(一時停止)を求める決議が採択され、その後も同様の決議が繰り返し(03年、04年、06 年、07年、08年)採択されている。
 03年10月にはウラン兵器禁止を求める国際連盟ICBUWが創設された。そしてベルギー議会では07年3月、「予防原則」の観点から、ウラン兵器の製造・売買・輸送・配備・使用等を禁止する「劣化ウラン弾禁止法案」が全会一致で採択された。「予防原則」とは1992年の「国連環境開発会議」(地球サミット)で採択された「環境と開発に関するリオ宣言」に明記されたもので、「重大あるいは取り返しのつかない損害の恐れがあるところでは、十分な科学的確実性がない場合でも対策を遅らせてはならない」という原則である。
 欧州議会でも2008年に次の内容を含む決議が採択された。
 「戦争における劣化ウランの使用は、国際法、人道法および環境法に謳われている基本的な規則および原則に反している」「加盟国に対し劣化ウラン兵器を使用しないよう、また、劣化ウランが影響を及ぼさないという保証が与えられない地域に軍人や民間人を派遣しないよう要請する」
 また国連総会においても、07年以降、劣化ウラン弾問題に注意を喚起する決議が繰り返し圧倒的多数によって採択されてきた。国連決議に一貫して反対しているのは、米英仏イスラエルの4カ国のみであり、日本は賛成、ロシアはずっと棄権してきた。
 今回の英国の供与と欧米の容認は、この間の取り組みへの裏切りである。

《国際ネット署名へのご協力を》

 それに対し私たち6人(嘉指信雄・ICBUW運営委員、豊田直巳・フォトジャーナリスト、佐藤真紀・国際協力アドバイザー、鎌仲ひとみ・映画監督、生田まんじ・ミュージシャン、小寺隆幸)は「イギリス政府のウクライナへの劣化ウラン弾の供与に反対する声明」をまとめ、原水禁、原水協はじめ34団体と290人の賛同を得て4月12日イギリス大使館に提出し、院内集会を行った。その映像はYouTubeで見ることができる (https://www.youtube.com/watch?v=Owk0jIrOY-c

230412_イギリス政府のウクライナへの劣化ウラン弾の供与に反対する院内集会と記者会見 – YouTube
 そしてさらに次の4項目(要旨)の国際ネット署名「ウクライナの大地を劣化ウラン弾で汚染させるな」を4月24日から展開中である。
 ①日本は、劣化ウラン弾の非人道性をサミット参加国に向けて訴え、国際世論を喚起すること。
 ②イギリスは、供与したものを直ちにイギリスに撤収すること。
 ③ロシアは、ウクライナにある劣化ウラン弾をロシアに撤収すること。
 ④ウクライナは、イギリスから供与された劣化ウラン弾を使用せず、イギリスに返すこと。
 これには平岡敬、秋葉忠利、小出裕章、今中哲二、池内了、鈴木達治郎、森瀧春子氏ら39人の日本人と、ICBUW共同代表のモーア氏(ドイツ)、放射線研究者ヴァルタニアン氏(イラク)、イタリア代議院(下院)副議長で元環境大臣のコスタ氏、ベルギーで「劣化ウラン弾禁止法」を制定させたヴェルヤオ氏、元国際平和ビューロー共同代表ブライネス氏(ノルウェー)、湾岸戦争帰還兵のアメリカのカイン氏、広島平和文化センター元理事長のリーパー氏ら18人の海外の方が呼び掛け人となり、10言語で署名を進めている。
 そして5月16日、3カ国の大使館と内閣府に署名を提出し、院内集会を開催した。署名は今後も続ける。国際的な反対の声が広がる中で、ウクライナ政府が使用を思いとどまることを願っている。