ミサイル配備に揺れる国境の島・与那国の声 狩野 史江

島を守るのは平和な外交

与那国島の明るい未来を願うイソバの会 狩野 史江

 政府の無責任な政策により「台湾有事は日本有事、台湾の傍らにある与那国島は危険」という大多数のマスコミの取材や報道に翻弄され、住民は不安に苛まれています。
 昨年「キーン・ソード23」の日米共同訓練で島に米軍が訓練のため入り、戦車が公道を走行するという報道に、住民有志は日米共同訓練の中止要望書を町長・町議会・米軍に対して提出しました。しかし、何の回答もないまま米軍が入り、巨大な戦車が空輸されてきました。


 2007年に祖納港奥の小さく静かなナンタ浜に米軍の掃海艇2隻が入ってから15年、在沖縄総領事ケビン・メアは22年のこの日のことをもくろみ、公電を打っていたのでしょうか。(注:このケビンの件は、本誌25ページ田里千代基さんに詳しい)
 巨大な戦車に抗議し、少し前に出ようとしたら「危ないですから」と言われたが、カーブを曲がれないほど巨大な戦車の方がよっぽど危ないのです。「戦車を走らせるな!」と叫びながら、ここまで来てしまったのかと涙が出てきました。
 いつもは放牧されている馬たちが一頭もいない南牧場の中を巨大な戦車が行くさまは、「ここは戦場なの」と異様な光景に怒りが湧きました。「馬たちは危ないので餌場に隔離されている」とのことでしたが、「馬たちの南牧場、危険な戦車、牧場に入れないで!」。基地との共存は馬たちにとってもストレスなのか、テキサスゲート(馬が集落へと出ないよう車道に築かれた溝)に集結して動かず、車が身動きできないことが多々あります。馬たちが体を張ってストライキしているような気がしてなりません。

どこにもない国境の島・与那国の自然、文化……無限の可能性

 国は年末に国会で審議することもなく安保3文書を閣議決定し、与那国島に新たにミサイル基地増設・空港滑走路延長・軍港の開設を発表しました。基地を誘致した人びとも、「ミサイル基地はとんでもない、米軍も困る」と声を上げています。
 町議会は、早々と避難基金条例を賛成多数で可決し、シェルター設置要請を国会に提出したというニュースに残念でなりません。住民はシェルターや避難基金ができることを願い安心するのでしょうか。
 町民が不安に思っている「ミサイル基地は造らせない」「米軍との共同訓練も困る」と要請するのが先ではないでしょうか。新たなミサイル基地用地も南牧場を予定しているようですが、南牧場から馬を追い払おうとしているのか気がかりです。南牧場は映画『Dr.コトー診療所』の名ロケ地で、紺碧の海と与那国芝の緑と馬が一目で見える、かけがえない癒やしの景勝地なのです。
 2001年ニューヨークで同時多発テロが起きた時、「次は沖縄の米軍基地が狙われるぞ!」と騒がれ、修学旅行やツアー等すべてがキャンセルという事態に見舞われ、沖縄県経済は3年間ダウンしたと言われているほどです。
 与那国での自衛隊基地誘致に反対を訴えたのは「基地は狙われる。環境破壊で地球温暖化に拍車をかける」というのが、理由でもありました。
 日本は唯一の被爆国として、沖縄戦の非業な歴史からも二度と戦争はしないことを決意したはずです。戦争にならないように対話し、平和交流でお互いの国の信頼を積み上げていく努力をしてほしいと思います。
 吉岡秀隆が演じた『北の国から』のロケ地、北海道富良野の麓郷は今もファンが絶えない素敵な場所でした。『Dr.コトー診療所』も同じ吉岡さん主演で「北の国から」に並ぶ名作。16年ぶりの映画は約180万人の観客動員数の人気ですから、南牧場に訪れるファンも絶えないでしょう。どこにもないこの絶景を大切に守っていきたいものです。
 「人口増加と経済効果」を理由に誘致した自衛隊基地でしたが、島に愛着を持っていた移住者が分断や将来に対する不安から去っていく人が続出し残念でなりません。現在、人出が足りない状況になっていますが、Iターン・Uターンの希望者もたくさんいるようです。しかし、住む家がないというミスマッチが長年続いています。移住者用住宅を早急に造り、島を支える人が安心して住み続けられる環境を整えれば、島も活気づいてくるでしょう。
 島唯一の大型ホテルが基地建設作業員の宿舎として借り上げられ、本来の観光客が宿泊できない状況にあります。冬の時期は悪天候も多いため、飛行機が欠航することもあり宿泊施設増は不可欠です。ホテルが再稼働できるよう援助が急務です。
 与那国島は、最西端の国境の島。どこにもない与那国島の絶景、海底にも広がる景観ポイント、ハンマーヘッドシャークの群れ、在来の与那国馬、与那国織、国指定伝統芸能民謡、カジキ漁、ダイビング、バードウオッチング、星空、無限の可能性を生かすためにも、何よりも自然を大切に守っていきたい。(民宿さきはら荘代表)
 イソバ(サンアイ イソバ)15世紀末から16世紀に実在したとされる与那国島の伝説の女性酋長。巨体と怪力の女傑で、琉球王国配下の軍勢が与那国島に攻め寄せた際には、これを撃退したという