あり得ないでしょう、遺骨土砂で米軍基地建設
人の心、日本人の心を失った国策
発信続けて国の暴走止めたい
具志堅隆松さん・西尾慧吾さん新春対談
ぐしけん・たかまつ 1954年、沖縄県生まれ。28歳のとき遺骨収集に携わり始め、遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」(ガマを掘る人の意)を設立。2011年吉川英治文化賞受賞。著書に、『ぼくが遺骨を掘る人「ガマフヤー」になったわけ。サトウキビの島は戦場だった』合同出版(2012年)
にしお・けいご 1998年生まれ。米イェール大学在籍。哲学・人類学専攻。2017年から、沖縄戦遺骨収容国吉勇応援会・学生共同代表
山本正治(本誌編集長) 沖縄戦死者の遺骨収集をずっと続けてこられて、今政府が進める遺骨の混じった土砂を辺野古新基地建設の大浦湾埋め立てに使うという、戦死者を文字通り冒瀆する暴挙を止めるために奮闘されている具志堅隆松さんと西尾慧吾さんにお話を伺います。
昨日(21年11月25日)、玉城デニー知事が辺野古埋め立て変更申請の不承認の態度を鮮明にしました。まずそこを話していただければと思います。
知事の「不承認」のしっかりした言い方、よかった
具志堅 私たちは従来、「不承認」にしてほしいということを言っていたのですが、その理由は基地に賛成か反対か以前の、戦没者の遺骨の保護です。そういう意味では本当にうれしいの一言に尽きます。確かに私たちは不承認の理由の一つに「戦没者の遺骨の尊厳を守るために」という人道的な理由も盛り込んでほしいと言っていたんですけれども、実際には盛り込まれなかったんですが。ただ、知事は不承認の理由を述べた後で、戦没者の遺骨の保護について知事自身のしっかりした言い方が出てきたのはよかったと思っています。
西尾 知事がああいう判断を下されたことは行政を預かる身として当たり前の判断をされたんやと思っています。私から言うとすれば、これを沖縄だけの反対意見という感じで矮小化してしまうか、日本全体の問題だという認識を広げられるかどうかの試金石かなと思っています。
たぶん国は変な行政裁判をかけてくるかもしれないし、対抗措置をとるという雰囲気なので。そうなったときに、対抗措置が中心になってこじれてしまうと、あたかもデニーさんが変なことを言っていてみたいな印象操作のようなものが広まってしまうかもしれない。国としては粛々として進められる工事を沖縄県知事が不当にじゃましているみたいにならないように、しっかりと問題の本質というのを日本全体で捉えられるように発信すべきかなと思っています。
山本 ここで改めて、具志堅さんの遺骨土砂問題への取り組み経過を簡単に振り返っていただければと思います。
遺骨を必ず家族のもとに返す
具志堅 遺骨土砂問題の発端は2020年4月、沖縄防衛局が出した辺野古の軟弱地盤改良工事の計画変更を承認してくれという申請です。ここで押さえておかないといけないのは、遺骨収集をやっている個人やグループのゴールというのは遺骨収集して国に渡してそれで終了だったんです。それを、私たちはDNA鑑定をして家族のもとに返してくれということを遺骨収集と同じくらいエネルギーを使ってやってきました。実際、一つのハードルをクリアすると次のハードルを設定されるという、それを乗り越える作業を国との間でやってきて、今沖縄の遺骨は全部DNA鑑定をやって遺族のもとに返す作業が国家事業として取り組まれています。国家事業というほどの熱心さと規模かというと、それは疑いがあるんですけれども。それが沖縄だけじゃなくてアジア太平洋地域で見つかった遺骨の返還にもDNA鑑定する呼びかけが10月から行われているんです。そういう動きが、やっと始まった。
ところが4月の防衛省による承認申請は、その国家事業にまったく逆行する計画で、戦没者の遺骨のある南部地区から土砂を採って埋め立てに使おうという信じられない計画です。私たちが遺骨収集をやっている場所に翌週の日曜日に行ってみると、木が全部伐採されて、採石場になる予定だというんです。心配が現実のものになってしまった。宗教者の会などが一緒にどうにかして止めたいと協力の手を挙げてくれました。
採石場の業者に中止を求めても止められない。それで沖縄防衛局に要請に行ったんです。防衛省は沖縄に戦没者の遺骨が数多く残っていることを知らないで、そういう計画を立てたのじゃないかと思って、南部に行って遺骨がある現状を見てくれと要請しました。防衛局からの回答は「内部で共有したいと思います」と言うだけ。「南部に戦没者の遺骨があるという認識がありましたか?」と3回聞いても答えない。結局、私はなんというか、「もう俺はここから帰らないぞ」と思ったんです。私たち市民団体が、国家行政に要請に行っても「はい」とも「いいえ」とも返事をもらわないで帰ってしまうと、これは相手の勝ちなんですよね。これは相手が意図しているところで、でも、それで負けるわけにはいかない。
それからは宗教者の会と現場近くで慰霊祭を行ったり、いろいろとできるだけ多くの市民に分かるように続けてきました。2月26日には2回目の要請、その時はそのものずばり計画断念を要請しました。沖縄防衛局の回答は2月17日、赤嶺政賢さんが国会で質問したときの菅総理の答弁、それをただ読み上げるだけで、撤回するという内容ではないんです。
ハンガーストライキで多くの人に知ってもらう
具志堅 防衛省が改めることを示さないのであれば、ハンガーストライキを行うことを自分自身で決めていたんです。皆に知ってもらえれば、これはおかしい、間違っているという声を形成することができると思って、まず県庁前でやったんです。反応は大きかったです。たくさんの人が途切れることなく訪ねて来てくれて。マスコミも好意的に報道してくれて、県内では多くの人が知ることとなったんです。しかし、本土では報道も含めてほとんど伝わっていない。
本土の方々に状況を知っていただこうと6月23日の慰霊の日に摩文仁の平和式典会場の前でやりましたが、コロナの影響で県外からほとんど人が来ない。それで8月15日、全国戦没者追悼式がやられる東京に行きました。武道館の前でやろうとしたが許可が下りず、靖国神社に参拝に行く方が数多く通る歩道で訴えました。日の丸が林立する中でしたが、それでも右翼の方たちからの妨害もなく、むしろ見に来て、腕組みながらじっと見て、帰っていくというふうでした。私たちの横断幕をチラッと見て、戻ってくる参拝者が何人もいるんです。説明すると熱心に耳を傾けてくれました。
自治体議会意見書を要請
具志堅 同じ時期に1743の県外自治体の議会に、「沖縄戦没者の遺骨の尊厳を守るために南部からの土砂採集計画を断念するように連署でもって国に上げてください」との要請を発送したんです。これが西尾さんたちの協力で目覚ましいものがありました。私のカウントでは111議会が採択してくれました。
採択に至らなかったところの報告によると、ほとんどが手続き論によるものです。郵送による要請は議長預かりとか閲覧資料として張り出され、審議のテーブルには回らない。全国でも自分の地域の議会に陳情、あるいは要請という形で持ち込んでほしい。地元の人であれば審議のテーブルに載るということになります。全国知事会でも支持してほしい。自分の県の知事さんに「知事会でも声を上げてほしい」と要請していただければ思っています。
山本 西尾さんは具志堅さんの行動を見ながら全国への働きかけを始められたわけで、少し経過を追いながら現状をどう見ておられるか、そして以降の問題についてお話しいただけたらと思います。
こんなに長く運動をしなければならないとは
西尾 意見書を上げる運動については『日本の進路』(21年6月号、8月号)でも報告させていただきました。戦没者の遺骨を使ってまで基地をつくるほうに国は暴走してしまった。日本が国民主権に基づく民主主義国家であれば、日本全体の国民、市民の力で止めるべきことであって、その割にはメディアの報じ方も低くて、市民の関心も全然ない。それはそれですごく問題だろうと思ったんですね。明らかに熱量が沖縄と違うわけです。コロナで現地に入れないということもありましたから、自分の足元からできる運動として地元・茨木市で意見書を上げようということで、6月議会で全会一致となったんですね。
少しでも多く広げようと思ってやってきましたが、正直言って、こんなに長くやり続けるとは思わなかったんです。さすがにここまで人の道に外れたことをやったら、いずれメディアも報道するだろうし、日本全体でもっと抗議の声も上がるだろうと思っていました。戦没者遺骨収集推進法に関しては国政与野党問わず、全会一致で議員提案までして国会で決めた法律なんですね。地方議会でも全会一致で意見書を通してくれないと困るんですけれども、この程度の意見書さえ通らない自治体があるというのは忸怩たる思いというか、なんでここまで無関心でいられるのかなと。
国政では、国民の生活とか生存権よりも、新基地をつくるとか憲法改悪とかが進んでいて、優先順位が本末転倒になってしまっている。遺骨収集問題は国のやり方そのものの大矛盾を突いているのかなという気がしています。これは沖縄のためにやっている運動ではなくて私たち一人ひとりの、日本に暮らす市民が尊厳を守るため、生活を守るための運動として問題提起してきたつもりです。
声を無視する国とどう闘うか
西尾 沖縄の問題というと概して人ごとにされるわけですけれども、全国の100を超える自治体で意見書が上がっているわけで、埼玉県議会とか奈良県議会とか、大阪市、堺市、福岡市という大きい自治体でも全会一致で採択されている。いいかげん国にも気付いてほしいんですが。
ある意味どうしたらいいんかなという悩みがあるんです。ここまで市民の声を無視する国に対して、本当に非暴力的で平和的な手段をもって、意見書を量産したところで国は聞かないとしたら、それにプラスアルファして一体何ができるんだろうと。先ほど具志堅さんが知事会というのをおっしゃいましたが、地方自治の実践として国に足かせをはめていければいいのかと思うのですけれど、国は全部無視するわけですから、具体的にどう抵抗すればいいのか正直困っているのが本音かもしれないです。ただ、国が狙っているのは多分、何もできへんとなって無力感に駆られて市民運動全体が根負けすることだと思っているので、少なくても遺骨収集に絞れば意見書採択というのは実際の成果として表れるわけで、それだけでもまだ市民には力があるって実感する機会なので、声を上げ続けようと思っています。
具志堅 今の西尾さんの話を聞いて、確かにそういうことはうすうす感じてはいますが、何がいちばん必要かというと、国民の世論だと思うんです。沖縄の西銘恒三郎さんという今度沖縄担当大臣になった人が思わず漏らしたことは、一般論として断りを入れながら「それは常識的にないのじゃないですか」という、あれが保守の人の感覚だと思います。
日本軍の戦死者というのは防衛省にとっては先輩であり、戦友です。旧敵軍である米国軍の基地をつくってあげるために、戦友の遺骨を埋め立てに使うというのはこれは戦友に対する裏切りですよ。遺族と国民に対する裏切りです。これは人の心を失っているし、日本人の心を失っていますよ。当時の総理大臣である安倍さんは「美しい日本」と言っているけど、こんな美しくない話は前代未聞ですよ。だから、私は防衛省と安倍さんは戦没者に対しての謝罪、遺族に対して説明責任があると言っているんです。これは右とか左とか関係なく、基地の建設も関係なく、本当に人道に反しているということです。
市民の底力を見せるのはこれからだ
西尾 私も署名活動とかしていると、めっちゃ風が強い寒い中でも足を止めてくれる人が絶対いて、1時間100筆とか署名が集まったりするんです。署名とかやったことがない人が、国はここまでやっているんだったら署名しないとあかんやろうという声が返ってきます。
要はこういう問題があるんだというのをどれくらい見せていくのかだと思うので、仮に意見書にならなかったとしても何でこんなもんがならへんというのをメディアに報じさせるとか、いろんなやり方で問題提起ができると思う。韓国やアメリカなど海外のメディアも注目してきているので、国内外に対する意思表示はしないといけないかなと感じています。
もう一点言うとすれば、21年12月にヤマサクラ81という日米合同訓練があり、関西で伊丹駐屯地が使われました。沖縄が76年間経験してきた地上戦、米軍基地、安保の痛みを、人ごとにできないところまできているわけやし、重要土地規制法も通ったので伊丹で反対運動をしようものなら、すぐ監視対象とかになったりとか、そういうところまで問題が深まってきていると思っています。
衆議院選挙が終わってから、さすがにちょっと、えーっみたいな、またあんな政権が4年間続くのかと食傷気味にもなりましたけれども。市民が底力を出せるかどうか試されるのはこれからかなと思います。政権が腐っているのであれば市民の力で問題提起をしていくしかないんです。たぶん、これまで日本社会で市民運動とかがじり貧になってきていて、政治と市民の間の距離が広まってきた。でも今、市民の生活と国政がこれほど敵対的な関係がある時って本当になかったと思うので、市民の市民による市民のための政治を取り返すための最後のチャンスやと思っていますから、市民の方々と一緒に何かできるということを信じつつ、足元レベルから国の過ちを正していけるような発信を続けたいなと思っています。
具志堅 政治家あるいは官僚は国策を遂行できることが実力と考えているかしらないけれど、それをやるために、民の声がないかのように、その声にダメージを受けていないかのように貫き通すことが共通しています。彼らはいかに打たれ強いかというポーズをしてみせるんですけれども、そもそもこんな理不尽極まりない、非人道的なことが通るわけがない。客観的にこのケンカに負ける要素は本当はないんですよ。私は明るい、勝てるという実感というか、根拠のない実感を持っているんです。人間だったらこういうことはないだろうという、ただそれだけで勝っていると思っているんです。国内で保守系とか革新系だとか言っても結局人間だから言葉は通じるんだから、理解してもらえると思っているんです。人間は信じるに値すると。そういう意味で、叱られるかもしれませんが、私は無責任な楽天主義ですね。
山本 ありがとうございました。皆さん、今年も頑張りましょう。