『日本の進路』編集部
自国のことは自国が決めアジアと仲良くする もうひとつの日本を 多くの国民が憲法違反の安保関連法に反対し、連日、国会を包囲するなかで、安倍自公政権は9月19日未明、この戦争法を成立させました。
安倍首相自身は「支持が広がっていないのは事実だ」と、多くの国民が安保関連法に反対しているのを承知しながら、国民の意思を踏みにじって強行しました。安倍政権は国民のためではなく、アメリカの顔色をうかがい、一握りの多国籍大企業や富裕層のための政治をやっているのです。
安倍政権の対米従属ぶりを安保外交政策で検証します。
アジア・リバランス戦略と第3次アーミテージ報告
アメリカのオバマ大統領は、2011年11月、中東とアジアににらみをきかす2正面作戦を修正し、アジア重視のリバランス(再均衡)戦略を打ち出しました。イラク、アフガニスタンでの軍事費負担に耐えられず、中東から撤退せざるを得なくなったからです。アジア重視は、急速に台頭してきた中国をけん制し、発展するアジアでの権益を確保するためです。
これを受けて、リチャード・アーミテージ元米国務副長官が書いた小論が翌12年7月22日の読売新聞「地球を読む」欄に載りました。見出しは、「米『アジア重視』、同盟国・日本に覚悟迫る」でした。アーミテージはこの小論で、「米国の『再均衡』の努力は、『タダ乗り』への招待状ではない」と述べて、日本に「TPP参加」、「原発維持」、「断固たる軍備の近代化」、「集団的自衛権行使」を要求しました。日本の協力なしにアジア・リバランス戦略の成功はおぼつかないからです。
8月10日、アーミテージはジョセフ・ナイ元国防次官補との共著で、「日米同盟」と題する戦略国際問題研究所(CSIS)報告を出しました。いわゆる「第3次アーミテージ報告」です。
この報告書は冒頭で、「日米関係が漂流している。日米双方が台頭する中国と敵対的意図をもつ北朝鮮に直面している時に、日米同盟の健全性が危機に瀕している」、「日本は世界の一級国家の責務を認識して日米同盟強化へ向かうのか、それとも二級国家への転落に甘んじるのか、決断を下すときだ」と迫っています。そして、日米同盟強化のために次のような要求を列挙しています。
- TPP交渉への参加に加えて、包括的経済エネルギー安保協定のように包括的な協定を追求すべきだ。
- 日米間の機密情報を保護するために、防衛省の法的能力を強化すべきだ。
- 普天間の海兵隊飛行場問題は時間と政治資本を消耗したが、未来に照準を合わせれば解決できる。
- 集団的自衛権の禁止は日米同盟の障害だ。
- 航行の自由を保証するため、米国と協力して南シナ海の監視を増やすべきだ。
- 平時から緊張、危機、戦争状態まで、安全保障上のあらゆる事態において、米軍と自衛隊が全面協力するための法制化を行うべきだ。
- ホルムズ海峡を閉鎖するイランの意思表示に対して、日本は掃海艇を派遣すべきだ。
- PKOへのより充実した参加を可能にするため、武力で一般人や他の平和維持隊を保護すべきだ。
- 原子力は日本の包括的な安全保障に欠かせない。原発再開。
[アーミテージ報告原文]
安倍政権は米国の要求を実行
安倍首相は就任直後の2013年2月下旬、訪米してオバマ米大統領と初の日米首脳会談を行い、公約を破ってTPP交渉参加を決定しました。安倍首相はさらに、オバマ大統領に「防衛費の増額・防衛大綱の見直しに取り組んでいる」、「集団的自衛権についての検討を開始している」、「普天間飛行場の移設を早期に進めていく」、「前政権の原発稼働ゼロ方針は見直す」等と述べています。 首脳会談後に、戦略国際問題研究所(CSIS)で演説をおこないました。演説の冒頭で「第3次アーミテージ報告」をとりあげ、「アーミテージさん、日本は二級国にはなりません」と決意表明。最後も「日米両国が地域と世界により一層の法の支配、より多くの民主主義、そして安全をもたらすことができるよう、日本は強くあり続けなくてはなりません」、「私はそのために、防衛計画大綱の見直しに着手しました。防衛省予算は増額となります」と、日米同盟強化で締めくくりました。
安倍政権は以後、「アーミテージ報告」の要求を実行しました。
- 2013/12/6 特定秘密保護法の成立
- 2013/12/27 仲井真弘多知事に辺野古埋め立て申請を承認させる。翌年の8月17日、辺野古ボーリング調査開始。
- 2014/04/01 武器輸出三原則を廃止し、防衛装備移転三原則を閣議決定。
- 2014/07/01 集団的自衛権行使の容認を閣議決定。
- 2015/06/23 海上自衛隊とフィリピン軍、南シナ海で海自のP3C哨戒機を使った共同訓練を実施。
- 2015/04/30 安倍首相、米議会で安保関連法案を夏までに成就と約束、5月15日国会提出、9月19日成立させる(内容は左記)。
- 集団的自衛権を行使する。
- 平時から戦時状態までシームレスに(切れ目なく)自衛隊と米軍の協力活動を大幅に拡大する。
- PKOでも、国連やNGOの職員、他国軍の兵士が襲われたら、駆けつけて武力を行使する。
- 安倍首相は国会でホルムズ海峡での機雷掃海を主張したが、米国がイラン核合意履行のメドがたつと、「想定せず」と答弁を変更。
- 2015/08/11 川内原発1号機、再稼働。川内原発2号機も10月15日に再稼働予定。
もうひとつの日本を
このように、安倍政権はアメリカのアジア・リバランス戦略に従い、「アーミテージ報告」の要求を忠実に実行してきました。対米従属政治によって、日本の国民は、とりわけ米軍基地が集中する沖縄の人々は永年にわたって苦しめられてきましたが、安倍政権によって対米従属政治はエスカレートされ、アジアの平和は危うくなり、自衛隊員がアメリカのために血を流さなければならないところまで来ました。
国民の怒りは高まり、安保関連法案に反対する国民の運動が飛躍的に拡大しました。国会周辺では、5月26日前後から始まった安保関連法案に反対する抗議集会の参加者は、日がたつにつれて千人単位から万人単位の規模に増加し、8月30日の国会前デモは12万人にのぼりました。学生たちの活動はめざましく、SEALs(シールズ 自由と民主主義のための学生緊急行動)の行動は、国会終盤に1万人を超え、その訴えは多くの人々の共感を呼び、全国に学生・青年の抗議集会やデモが広がりました。安保関連法案に反対する闘いは沖縄の辺野古新基地反対や原発再稼働反対の闘いとも結びつき、共同行動も発展しました。安倍首相は安保関連法案を成立させましたが、逆に安倍政権に反対する広範な世論と運動を生み出してしまったのです。
アメリカの言いなりになって、民主主義を踏みにじり、アジアの近隣諸国と対立して平和をおびやかしかねない国。世界経済も国内経済もますます怪しくなる中で、ひとにぎりの大企業や富裕層が繁栄を謳歌する一方で、大部分の国民の暮らしが厳しくなって、未来に希望が持てない国。こんな日本でよいのかという怒りがさらに広がっていかざるをえないでしょう。 「止めよう!辺野古埋立て9・12国会包囲」で、島ぐるみ会議事務局長の玉城義和さんが「安倍内閣が進める軍拡路線あるいは周辺諸国と敵対するような国でなく、東アジアと仲良くするもうひとつの日本を作るべきだというのが、共通の願いではないか」と述べています。そのとおりだと思いました。そんな「もうひとつの日本」をめざして、広範な国民各層が連携して国民運動を発展させる時代がきているのではないでしょうか。
(月刊『日本の進路』編集部)