食料自給問題も気候変動も貧富の差も
打開策はただ一つ。われわれ国民が変わることだ
令和の百姓一揆浜松実行委員会代表 藤松 泰通

去年、小泉進次郎農水大臣が備蓄米を放出し、現在まで続くコメ余りの状況とアメリカ産米の輸入枠を拡大、民間の米輸入も前年比で大幅に増えました。これは農家を疲弊させ離農を加速化し、日本の食料自給能力、そして国防力を衰退させるものです。政治家に必要な深謀遠慮も感じられず、一時的な人気取りでしかなく、実際は日本農業の未来に残る、大きな禍根を残すものでした。
鈴木憲和前農水大臣は「価格にコミットしない」と言いながらも、備蓄米を買い戻す方針を決めました。しかし、コメの民間在庫が過去最高ということもあり、米価の下落はそのスピードが鈍化するくらいで結局は下落し続けると思います。
一部では当初、備蓄米の買い戻しを高市首相に提言したところ、拒否されたという報道もありました。今回、一度は見送られた備蓄米の買い戻しが実施されることになりましたが、米国産ジャガイモの輸入解禁を容認することと引き換えに、今回の備蓄米買い戻しについて何らかの合意がなされたのではないか――と、つい邪推したくもなります。もちろん、これは私の推測に過ぎません。
内閣改造で鈴木農水大臣から簗和生大臣に代わりましたが今後の農政の行方を注視したいと思います。
最前線の農家が「全滅」!
備蓄米も重要ですが、このままいけば、最初に職を失い、食えなくなるのがわれわれ農家です。それは、もう現実に始まっています。そして農家が減れば、消費者も食料価格の高騰や供給不安を受けざるを得ません。特に、農業人口の大きな割合を占める70歳代の農家が、あと数年のうちに離農することになれば、その流れは一気に加速する可能性があります。
食料生産の最前線にいるのが農家であり、その前線にいる兵士が「このままでは全滅です!」と言っているわけです。後方がその情報を真に受け取らないということでは、当然その戦は負けるでしょう。農家は農業を辞めて別の職に就くことができますが、何より、農業を辞めた元農家も、現場を知る故に結局は消費者として自分自身が食料問題の影響を受けることを分かっています。
だからこうして声を上げているわけであり、何も儲けたり、良い思いをしたりしたいわけではありません。
農業は自然が対象
よく「農家だけ優遇されて」と言われます。しかし、他の産業、例えば製造業は原材料を注文し、生産工程を経てその過程が順調に進めば、無事に計画通りの商品数が出来上がります。だが、農業は天候、自然という人間にはどうすることもできないリスク要因があります。
人間は空気、水がなければ生きられず、その次に「食」となります。工業製品は生活を豊かにするために重要であっても、生きるために絶対不可欠とは限りません。しかし、人も動物も、食べなければ生きていけません。
また日本農業は大規模農業ほど海外からの輸入資材に依存しています。今回のホルムズ海峡封鎖などの海外有事、軍事的な衝突だけではなく、輸入資材の輸出先国の気候異常などでも影響を大きく受けます。そうなると飢えるのはこの国に住むすべての国民です。
大雨、干ばつ、台風、高温、地震が起こるということを農家の企業努力でどうにかなりません。もしそれができれば、それはもう神ですよね。
AIに「AIがさらに進化したAGI(汎用人工知能)、そこからさらに進化したASI(人工超知能)となれば、天気予報を100%的中させることはできますか?」と質問したところ、答えは「No」でした。AIは「100%は不可能ですが、90%は現実的に可能」という返答でした。天気は不確定要素が多過ぎて、またそれは常に変化していて、予測は不可能だと。過去の膨大な気象データがあるにもかかわらず、線状降水帯や台風の進路を完全に予測することができないことからも、それは分かります。
気候危機と戦争の中で
過去にないことが起こるのが自然です。常に変化することこそが自然だからです。逆に、変化しないものは不自然であり、生き物であれば環境の変化に適応できなければ生き残ることはできません。
日本の農政も政治も、農家も、国民も、そして世界も今、変化しなければ、この地球規模の気候変動に対応することはできないのだと思います。食料不足や水不足、世界規模の戦争や異常気象が起こったとして、そうなったとしても一部の富裕層は生き残り、淘汰されるのはわれわれ庶民です。前線に駆り出されるのはわれわれ庶民であり、貴重な食料や水は権力者、支配層が取ったあとの最後に回ってきます。
権力者、支配層の地位は、一般庶民の、権力欲も支配欲もなく、ただ毎日をつつましやかに生き、何げない日常の時間に感謝し、生きる、善良な多くの人たちによって成り立っています。それをないがしろにするのはまさに思い上がりも甚だしい、人類社会を脅かす愚行です。それは結局、権力者、支配層側も破滅への道ですが、愚かだとそこに気づくことことができません。それ故に支配層には高い倫理観、人間性、強靱な精神力、高い英知、洞察力、誠実さが必要なのだと思います。
江戸時代の武家政権、幕府には問題もありますが、長い平和の中で、後世に続く日本独自の文化や価値観が培われたことも事実です。平和だからこそ教育や文化は育ちます。逆に、食料不足などで社会が不安定になれば、教育は後回しにされ、さらに社会が乱れていくでしょう。また教育も今以上にレベルが高かったのだと思います。これらは平和だからこそ生まれ、充実します。
社会を変える行動を
8月に愛知学院大学教授の関根佳恵先生をお呼びしてアグロエコロジーや世界の農業政策に関する講演会を開催させていただいたのも、世界的な農業の動きと潮流を若い世代の学生たちに知ってほしい、感じてほしいという思いからでした。(詳細次ページ)
学生たちは自分たちで農に関わる活動をしており、その発表をしてもらいました。報告を聞いて若い世代が農に関わる姿には大きな可能性を感じました。こうした活動が、ごく一般的な学校教育の一部になれば、日本の地方や農村部の未来は、もっと明るいものになるのではないでしょうか。
愚かな支配層にいいようにされないためには、大多数であるわれわれ庶民が変わることだと思います。それには知識は無論、それよりも何が大切で何が真実なのか、それを見極め、実践、行動していくことだと思います。知識はそれを元に行動し、何かを生み出して初めて意味を持ちます。陽明学などの「知行合一」という言葉には、「本当に知っていることは、必ず行動に現れる」、「知っていて行わないのは、まだ本当に知っているとはいえない」という解釈があります。この知識と行動が切り離されてしまっている現代の教育では社会を変える行動は生まれにくいのではないでしょうか。
「稽古」は「古を稽ること」であり、これは「古人の知恵や道を学び、それを自分の身につける」ということです。温故知新もありますが、稽古の方がより実践的、身体にて学び、身につける感覚だと思います。
そのような深い学びを通して実践することができる身体、自分を創り上げることだと思います。AIや技術が発展しても、人間自体の性能が衰えていけば、AIに支配されるのは時間の問題だと思います。
現場の実情を知らずに、机上の空論、数字のみで判断するような人間は近いうちにAIに取って代わられるでしょう。
このAIの脅威、食料自給を巡る問題、気候変動や世界的な人間性の劣化と欠如、貧富の差、これらの問題を解決する打開策はただ一つ。われわれ庶民、国民が変わることだと思います。
ふじまつ・やすみち
藤松自然農園代表。静岡県浜松市にて無肥料・無農薬・不耕起・草生の自然農法で固定種・在来種の野菜とお米を育てている。
