きれいな環境、生きられる故郷を守り、子孫に残す
輪島市門前町 舘谷富士夫
原発と産廃の建設過程は似ていて、地域の共同体を分断させる手法もほとんど同じであることに気づいた。私は石川県志賀町に立つ志賀原発の隣町に住んでいる。輪島市門前町の家の前には、「志賀原発はもうやめよう ここから27km」と書いた2m×4mの大きな看板を国道沿いに掲げている。本題に入る前に反産廃の闘いに向け、住民はなぜ、建設当時も今も権力に取り込まれてしまうのかを考えてみた。そのことを冒頭述べさせてもらいたい。
狙われた過疎地、政治的弱さ
石川県能登半島の付け根に北陸電力志賀原子力発電所がある。かつて、半島の突端、珠洲市にも原発立地計画があった。建設の賛否を巡り住民が対立、祭りもできないほどコミュニティが分断させられた。原発マフィアも「産廃マフィア」も自然豊かな過疎の地を、狙い撃つようにして大型迷惑施設をつくろうとするが、考えつく理由をいくつか挙げてみる。
住む人々が朴訥で反対運動を起こしにくいと見て取れば、触手を伸ばしてくる。加えてこれといった産業がなく、少子高齢化も進み、自治体の財政力も乏しい。そんな地域が今まで狙われてきた。
原発も産廃も着手の決定的な条件は候補地の首長と議会が保守一色であることだ。さらに言えば、自民党を中心とした保守勢力が地域の利権を長年にわたり支配しているかどうかを狙いどころとしている。
いったんターゲットが定まれば、原発の場合だと原子力ムラからのふんだんにある原発マネーで、手初めに政治家たちを懐柔、次に地域のボスたちを手なずける。そして傀儡となった彼らにバラ色の夢を住民に語らせ、潤沢な税収、交付金、補助金などで財政力を上げ、電気料金は安く、道路などのインフラは整備され、庁舎、学校、文化会館、温泉施設など箱物が建設ラッシュとなり、結果雇用が増えるなど原子力がもたらす豊かな未来の夢を見させて、住民は取り込まれていく。
建設反対運動が起きても、地域振興を説き、大盤振る舞いの金がらみで抑え込む。全国の原発54基のそれぞれの地域で廃炉を求め、反原発の闘いが続いているが、各地のプロセスには大きな違いはない。
輪島産廃問題では、大都市から処分場に持ち込むえたいの知れない化学物質を含む産廃を、遮水シートは頑丈だから50年、100年ゴミを積み上げても耐えられると産廃業者はうそぶく。安全・安心と業者は繰り返すが、ならばビルが林立する大都会近郊の山間地に理解を求め、産廃適地を探す努力を、まずすべきだが、そんな話はついぞ聞いたことはない。
関東の大手産廃業者タケエイは東京周辺で引き取り手がない危険な化学物質を含む、より単価の高い産業廃棄物を10トントラックに載せ、CO2をまき散らしながら何百キロも走ることになる。毎日トラック数十台が年間7万トン、48年間345万トンを3期に分けて能登半島の奥、世界農業遺産にも認定されるほど自然豊かな地、輪島市門前町大釜に運び込む。
限界集落化と巨大産廃処理場、地方は捨てられる
輪島市は輪島塗や朝市、曹洞宗の古刹總持寺祖院など観光業が中心となって経済が回っている。ある意味、他に何の産業もないから、足元を見られ、関東の大手産廃業者に付け込まれたことは、悔しいが否定できない現実である。国内最大級のゴミ捨て場は管理を含めると60年にわたり、東京ドーム4杯分の産廃345万㎥が運び込まれ、総事業費は125億円。過疎に苦しむ5世帯の限界集落脱出と引き換えに巨大迷惑施設建設がありであれば、全国1万5千とも言われる限界集落の大半はゴミ捨て場と化すだろう。世界農業遺産を身売りする取引に問題はないか。民意を無視し県と市と業者が決めてよいか。このまま過疎脱却のためなら、どんな迷惑施設も受け入れる、日本列島第1の産廃処分場を進めてよいか。これらの疑問が全国的な関心事となって問題視され始めている。
輪島市に吸収合併されてから、門前町の65歳以上の比率はうなぎ上りで老齢化率は約50%となり、いわば町全体が限界集落状態にあるのが実情だ。中でも過疎が進み消滅集落となった、大釜5世帯の住民は土地を産廃業者に売って、先祖の墓も埋まる苦渋の選択で生活再建を果たせたとしている。一方、ゴミ捨て場周辺に住む市民はたまったものではない。60年もの長期間、巨大ゴミ捨て場と一緒に生活する周辺住民の苦汁は、どう解決してくれるのか。
建設を推進した梶文秋市長と自民党拓政会の市議らは未来に生きる周辺住民の生活環境の悪化の責任をどう取るのか。取れるのか。これから高齢化率もさらに上がれば、住み続ける住民は、ゴミ捨て場と過疎のとの二重の苦しみを受けることになり、泣き面に蜂の生活を余儀なくされることになる。
棄権呼びかけ、投票の秘密を阻害した市長
石川県輪島市門前町大釜の産業廃棄物最終処分場計画を巡り、建設の是非を問う住民投票が2月19日にあった。輪島市の梶文秋市長は告示前から「建設に賛成なら投票しないのも選択肢のひとつ」と発言。棄権をあおる言動は、「投票の秘密」を阻害し、投票妨害だと批判が集中、物議をかもした。
市の住民投票条例第6条には「住民投票は市長が執行するものとする」とある。問題は、条例を執行する側のトップでありながら、一方で「投票に行くな」と有権者に呼びかけ、市職員、請負関係にある建設土建業、小売業らの家族を心理的にコントロールし、住民投票の不成立を狙ったことにある。これらは民主主義の破壊そのものではないか。
行政と業者を裏で操る産廃ビジネスの暗躍。梶市長のやっていることは、関東の大手産廃業者タケエイの営業所長と見まがう変節ぶりだが、市長には悔い改める最後の機会、タケエイとの環境保全協定の締結が残っている。国内最大級の巨大産廃施設誘致の企てはある意味、建設ありきで用意周到に仕組まれてきた。なぜ住民の理解が得られないままに産廃業者タケエイが11年にわたり執拗に建設計画を進められたのか。2011年に輪島市議会で2度目の反対決議があり、輪島市民の約6割、1万4千人の反対署名が県に提出されてもタケエイは建設計画を断念しなかった。撤退に追い込まれなかったのは谷本正憲県知事、宮下正博自民党県議、梶文秋輪島市長、そして自民党輪島市議団拓政会ら建設推進派の心強い後ろ盾があったからにほかならない。
勝てなかったが負けてはいない
住民投票の結果は残念ながら、市条例の50%条項に阻まれ、市長と自民党拓政会の議員らの思惑どおり不成立で終わった。しかし、投票率42・02%の数字は、これからの闘いにとっては必要で十分な激励票だった。全有権者2万4815人の約4割、1万人の市民が建設反対の意思を明確にしたことの意義は大きい。推進派の執拗で陰湿な投票妨害にあらがっての投票行動だけに、堂々と投票所に足を運んだ有権者の皆さんの「きれいな環境を子孫に残す」勇気ある決意は尊く輝かしい。
建設に異議を唱える住民の熱は今なお冷めず、「勝てなかったが、負けてもいない」として引き続き来春の市長選、再来年の市議選でも反対を掲げ、産廃計画を白紙撤回させるまで闘う構えを、3月12日の「住民投票総括集会」(主催=輪島の産業廃棄物処分場を考える会)で再確認した。原発再稼働を許さない闘いのように、産廃反対の運動形態は変わるだろう。道理も正義もない大型迷惑施設に揺るぎない建設反対運動の継続が求められる。建設はもとより産廃搬入を差し止めるシーンも想定しながら、皆さん共に頑張りましょう。