高市首相「存立危機事態」発言撤回を求める緊急集会
日中関係悪化に強い懸念
国会議員・有識者ら120人が国会内で緊急集会



高市首相に「存立危機事態」発言の撤回を求め、日中国交正常化の原点に戻ることを主張する緊急院内集会が2025年12月2日、参議院議員会館で開催された。集会は「広範な国民連合」が事務局を担当する実行委員会の主催で、元政府外交官や現役国会議員二十数人(一部代理秘書)を含む各界の有識者ら120人が参加した。東京・杉並区議の松尾ゆりさんが司会進行し、東アジア共同体研究所所長・元外務省情報局長の孫崎享氏が、問題提起を行った(詳細別項)。日中共同声明の基礎を揺るがし、東アジアに戦雲を広げかねない高市発言に対し、即時撤回と平和共存の道への回帰を強く訴える集会となった。
台湾問題という「難問」
続けて、元外務省条約局長の東郷和彦氏が発言した。「日中共同声明の原点に戻れ」という集会の趣旨に全く賛成と述べた後、要旨次の点を指摘した。
国交正常化交渉で台湾問題について「理解し、尊重する」では不十分だということを当時外務省の栗山尚一条約課長などは見切っていて、共同声明に「ポツダム宣言第八項」を提案した。周恩来は、日本は中国の台湾領有に反対しないという意味だと了解して合意に至った。日本には日米関係の中での台湾問題の経過もあり、双方のバランスを取るにはどうしたらいいかと血の滲むような思いで考えた案だった。そのバランスを取る難しさが今に至るまで続いているのだと思う。
もう一つ、台湾問題では、こうした共同声明第三項を堅持すること、さらに平和的解決を望むこと、この二つはセット。具体的な問題が起きた際には、高市総理のようなことは絶対に言わず、「さまざまな状況下で考える」という曖昧な答弁以外しかできない。
だが高市総理は「出兵することはあり得る」と、具体的に言及してはいけない部分に足を踏み込んでしまった。これは中国から見ると、自国の内政に踏み込んできて戦争をやるつもりなのかと激怒するのは当然。そのため、今のような事態になってしまった。本当に心配している。
より本質的には、わが国は核保有国となって中ロに加えて北朝鮮に囲まれており、しかも、弱くなった米国との関係もある。このなかで自立と安全保障をどう確保するか。検討が急がれる。
国会議員らが政権の安全保障政策を痛烈批判
集会には現職の国会議員が多数出席し、高市発言と現政権の安全保障政策に対する強い批判を繰り広げた。
平岡秀夫衆議院議員は、高市首相の言動は日本の政治を任せるに足らないと述べ、国民に対して歴史を学び、将来を考える視点を持つよう求めた。有田芳生衆議院議員は、高市発言が「沖縄と本土を戦場にする」ものだと警告を発した。発言直後からクルーズ船が宮古島への寄港を取りやめるなど、すでに日本経済に1兆円を超える損害が出ていることを指摘し、若年層への危機感の伝達を急ぐべきだと訴えた。川原田英世衆議院議員は、国内報道が歴史的事実と両国関係の重要さを語らず、排外主義が強まっている現状に危機感を共有。国民の不安を利用して戦争に導く手法がナチス・ドイツの歴史と重なると批判した。
沖縄の風代表の伊波洋一参議院議員は、「南西諸島を戦場にする」準備が進められている現状を報告した(詳細別項)。同じく沖縄の風に所属する髙良沙哉参議院議員は、「高市発言は、国内的には危機感を煽り、防衛費の大幅増額、あるいは安保3文書の改定に向けての世論形成に狙いがあったのかなと思うが、国際的には外国からどう見られるかを考えなかったとすれば、それだけで外交の失敗。しかし、それにしては批判の国内の声、国民世論が弱いことに大変な危機感を持っている」と述べた。
同じく沖縄の屋良朝博衆議院議員は、高市発言が外交上の失敗、安全保障政策上の失敗であることはいろいろの指摘通りだと前置きした上で日米地位協定問題に触れた。「こんな対等でない国はアジアに他にない」と問題の根源が従属的な日米関係にあると指摘、片務的な日米地位協定を変える必要性に言及。「自分たちの足で立つ外交、防衛を行うべきだ」と警鐘を鳴らした。
立憲民主党の日米地位協定研究会幹事長も務める津村啓介衆議院議員は、核大国である米中ロの間のホットスポットにあり、しかも、朝鮮半島では戦争状態が続いているし、台湾問題も間近な日本である。石破前首相は地位協定改定を唱えたが、高市首相はそれすら言わずに一気に地域の緊張を高めたと厳しく批判。
社民党参議院議員のラサール石井さんは、「文字通り新しい戦前になりかねない恐ろしい状況だ。勇ましいことを言うのが愛国者ではない。自国民の血を一滴も流させない。相手国の血も流させないのが真の愛国者だ」と危機感と闘いの決意を述べた。
佐々木ナオミ衆議院議員は、「戦争をしない国を創ることが政治の一番の課題だ」、松下玲子衆議院議員は、「戦前になってしまった。戦争をさせない政治を」とそれぞれ決意を述べた。
東京大学の学生や大西広慶応大学名誉教授などに続いて、羽場久美子氏が強い言葉で警告を発した(詳細別項)。
最後に、緊急アピールを満場の拍手で確認して、高市首相に「発言撤回」を強く要求し世論と運動を強める決意の内に集会を終えた。
