沖縄県立芸大ハラスメント問題

構造的な問題、誇り持てる大学に

 沖縄県立芸術大学(波多野泉学長、那覇市)で、長年にわたり学内でハラスメントが横行していることが昨年8月、地元紙の報道などで明るみとなった。玉城デニー知事も「非常にショッキング」と話すなど、波紋が広がっている。報道を受けて、卒業生を中心に実態の解明と大学の抜本的改革を求めて声が上がっている。卒業生へのアンケートなどを行っている卒業生有志3人に話を聞いた。(編集部)

大田弥生(大田、以下同) 「縁を切ることは命を絶つことと同じ」。本来、相談者の不安に寄り添うべき大学の窓口でこのような言葉が出たとされることに、私は強い憤りを覚えました。
 ハラスメントの真偽は現在も調査中ですが、深刻な悩みを抱えて窓口を頼った学生に対し、このような言葉が投げかけられていたのだとすれば、それは当事者をさらに追い詰める二次的な苦痛にほかなりません。これは教員個人の資質にとどまらず、相談・支援体制という大学の組織構造そのものが機能していないのではないかという疑念を抱きました。卒業生として看過できないと考えた私は、竹内さん、渡邊さんに連絡を取り、アクションを起こそうと呼びかけました。
渡邊朋子(渡邊) 私もこの報道に触れましたが、在学中から同様の噂を耳にしていたため、驚きよりも「またか」という思いがありました。今回、行動に踏み出そうと考えたのは、「もし自分の子どもが県芸に進学したいと言ったらどうするか」と自問したことがきっかけでした。母校を安心して勧められる環境にしなければならない、その思いから、共に行動を起こすことにしました。
竹内直(竹内) 私も在学中に感じていた問題意識と通じるものがあり、静観することはできませんでした。
 まず、最初のアクションとして、22人の連署で抗議要請書を大学側へ提出しました。ほどなく理事長名で「お詫び状」が届きましたが、形式的で、問題に向き合う姿勢は感じられませんでした。昨年8月末のことですが、それから20日くらい後に大学の対応がいかに不十分であったかを示す問題が起きました。
渡邊 その問題というのが、私の子どもが通う小学校で起きたことでした。まさか自分の子どもの学校で行われた「琉球古典芸能」の授業に、ハラスメント疑惑で調査対象になっている人物が講師として招かれているとは思いもしませんでした。子どもから講師の名前を聞いた瞬間、本当に耳を疑いました。
 私はすぐに学校や教育委員会、県芸事務局を訪ねて、保護者としての不安を伝えました。あろうことか、大学側はその事実を把握しておらず、「個人の活動なのでどうにもできない」と答えるだけでした。この状況を前に、一保護者として黙って見過ごすことはできないと感じ、「賛同者」から「代表」として活動に加わることを決めました。
竹内 県芸側から「お詫び状」で一時は静観も考えました。しかし、小学校での出来事もあり、9月に質問状を提出しました。その後、県芸側とやり取りを重ねる中で、事務局長のハラスメントに対する著しい理解不足が露わになりました。
 UN Women(国連女性機関)はセクシュアルハラスメントを性暴力の一形態と定義しています。私たちはこの定義を踏まえて見解を尋ねましたが、事務局長はハラスメントの定義そのものに明確に答えられず、さらに「性暴力には当たらないでしょう」と返答しました。大学のトップがこの認識では問題に向き合う姿勢が欠けており落胆を覚えました。
大田 当該教員の学外活動について、大学側は「学外活動を法的に制限するのは難しい」として本人の自粛に委ねる姿勢を示しました。授業継続の基準や管理体制も説明されなかったため、11月に再質問状を提出し、教員ユニオンにも問題提起しました。12月には当該教員が琉球大学でも非常勤講師を務めていることが分かり、同大学へ意見書を提出しました。さらに、沖縄県議会の全会派と県の担当部局にも説明に伺いました。
 ここまでくると問題の根にあるのは、ハラスメントを見過ごす県芸の姿勢そのものだと感じています。
竹内 今回の対応には、県芸の根深い体質が表れているように感じています。私自身の在学中にもハラスメント問題が表面化し、裁判にまで発展する事案も起きていましたが、学生が意見を述べる場はほとんどありませんでした。
 そうした状況を変えようと学生会を立ち上げ、学生の要望を集めて大学との交渉を重ねました。すべてが解決したわけではないものの、一部の要望は認められました。一方で、大学上層部の圧力は強く、交渉では「運営に口出しするな」と言い放つ教員もいるほどでした。
 今は当初の学生会はなくなり、理事長・学長の肝いりで新たな「学生会」ができたと聞いています。それが事実なら、やはり看過できません。

問題は構造的、
法人化問い直すべき

大田 潮目が変わり始めたのは、卒業生アンケートの結果が大きく報道され「放置できない」という声が広がったことでした。1月末には県議会へ陳情書を提出し、複数の議員がこの問題を取り上げてくださいました。問題が公の場でようやく可視化されつつあると感じています。
 また、県の担当部とも3度にわたり意見交換を行い、前部長・現部長からは「組織風土がよどんでいる」「構造的な問題として捉える必要がある」との認識が示されました。
 一方で、私たちが求めた「理事長・学長への権限集中という構造の見直し」に対しては、「大学の自治」を理由に慎重な姿勢を見せています。だからこそ、県が設置した評価委員会でこの構造上の問題を正式に扱い、現状を正確に把握したうえで知事へ報告すべきだと伝えました。こうした理事長・学長への権限集中や中立性に疑問が残る評価体制といった構造そのものが、現場で声を上げにくい状況に直結しているのだと思います。
渡邊 特に卒業生は、大学からの依頼を含めて教員から仕事を得る機会が多く、生活や活動の基盤が沖縄にあるため、名前を出すこと自体に強い抵抗を感じる人が少なくありません。それでも今回、何人かの卒業生がリスクを顧みず声を上げてくれました。その背景には、県芸の卒業生であることを誇りに思いたい、そして後輩たちにもそう思ってほしいという強い思いがあります。
竹内 県芸は2021年に公立大学法人へ移行しましたが、それが意思決定の権限を特定の執行部に集中させる構造を作ってしまったと考えています。
 私が今いる京都市立芸術大学でも非常勤職員へのパワハラが問題になり、有志がユニオンに加入して労使交渉に至るまでに7年もかかりました。しかし大学側は交渉を一方的に打ち切り、当時の理事長・学長は説明責任を果たさずに退任してしまった。このように全国的にもさまざまな問題として現れています。
 沖縄県が独自に設立した県立大学を法人化したことの意味を、もう一度きちんと考え直さなきゃいけない時期に来ていると思います。
大田 私たちの取り組みに対しては、教育・報道・行政の現場をはじめ、さまざまな方から励ましの声をいただいています。提出した陳情書は県議会で「継続審議」となり、今後も重要案件として扱われることになりました。こうした動きが一過性のものに終わらないよう、次の世代が安心して学べる環境の実現につなげていきたいと考えています。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする