3・11から15年

原発回帰と核政策を問う

NPO法人ピースデポ代表・長崎大学客員教授 鈴木 達治郎

 東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きた2011年3月11日から、まもなく15年がたつ。昨年発表された第7次エネルギー基本計画の冒頭には、「福島原発事故の経験、反省と教訓を肝に銘じて、エネルギー政策を進めていくことが、エネルギー政策の原点である」と述べられている。しかし、実際には「原子力発電への依存度をできる限り低減する」を削除して、「原発を最大限の活用する」原発回帰の政策となった。
 一方、2月8日に選挙で圧勝した高市政権は、「非核三原則見直し」や「憲法9条改正」をすでに示唆している。果たして、日本の原発や核政策は事故の教訓や被爆体験を忘れてしまったのだろうか。今こそ、冷静に原発・核政策の検証が必要だ。

合理性を欠く「原発回帰」

 原発の必要性について、エネルギー基本計画では、人工知能(AI)や情報産業による電力需要の増加を一つの根拠としている。しかし、過去のエネルギー政策の経験によると、電力需要予測は外れることの方が多い。2016年からの実績を見ても、実際の需要は予測を常に下回っており、今後も技術革新や生活様式の変化、産業構造の変化などで、政府の予測通りの需要増になるとは限らない。実際、ここ数年電力需要は低下傾向にあり、10年から23年までに約10%以上(約900TWhから約800TWh)減少している。
 原発を最大限活用する根拠に挙げられる最大の根拠が「供給安定性」と「温暖化対策」である。だが、これも限定的な効果しか期待できない。頻発する地震による停止や、再稼働の計画に不確実性が増しており、計画通りの発電容量を確保できるかどうかの予測が難しくなっている。平均稼働率も24年現在で30・6%にとどまっており [1]、安定したベースロード電源としての信頼性にも陰りが見える。
 温暖化対策としては、既存の原発が稼働して火力発電を代替すれば確かに効果があるだろう。しかし、実態として原発の稼働を維持するために再生可能エネルギーの出力を抑制することになると、温暖化対策への貢献は限定的になる。さらに、原発の新設には、少なくとも20年はかかると言われているので、新設した場合、早くても効果が出るのは2045年以降になってしまう。要は、新規原発は温暖化対策として「間に合わない」のである。
 さらに根拠が弱いのが「経済性」だ。原発の経済性に関しては経済産業省の発表でも、すでに21年時点で「最も経済性の高い電源」ではなくなっている。24年に発表された発電コスト評価でも原発は太陽光よりも高く、「最も安い電源」ではないとされる [2]。
 今回、古い原発の更新が認められ、福島原発事故以降、初めて建て替えの意向を示す電力会社が登場した。だが「投資の回収の予見性を確保することが重要なので、国の政策に基づく事業環境整備などが必要となる」と述べている [3] 。
これに対し、政府も原発の新設支援に向け、建設費の回収を確実にすべく新たな料金制度の導入を検討し始めた。これでは、経済性がないことを証明したことも同然で、新設は国民負担の増加につながると懸念されている。

核リスクを高めてしまう「核抑止」強化

 2026年1月、原子力科学者会報が毎年発表する「終末時計」が、ついに85秒になり、昨年よりさらに人類の終末に近づいた [4]。その最大の要因として挙げられているのが、核兵器の脅威である。日本の周辺でも、中国、北朝鮮が核兵器開発を進めており、世界的な核軍拡が北東アジアでも進んでいるのが現状だ。この増大する「核の脅威」に対応して、日韓米は、「拡大核抑止力」いわゆる「核の傘」の強化に取り組んできた。
 そういった流れの中、昨年10月に発足した、高市政権は、日本維新の会との連立政権合意文書 [5]において、「憲法9条改正に関する両党の条文起草協議会を設置する」と明記されていた。また、新聞報道では、国家安全保障戦略などの「安保三文書」の改定を早期に進め、その中で、「非核三原則の見直し」議論を与党内で開始させる検討に入ったと言われている。事実、高市氏は、24年の自民党総裁選の際、非核三原則について、「米国の拡大抑止の下にあるのであれば、『持ち込ませず』については、しっかりと議論しなければいけない」との考えを示していた [6]。
 このような、核抑止政策の強化は、本当に安全保障の向上につながるのだろうか。これに対し、非核三原則や核政策に詳しい共同通信の太田昌克氏は、「三原則見直し論は合理性に乏しい」との論説 [7] を発表。中国や北朝鮮への抑止力強化のために、「核の持ち込み」は必要ない、としたうえに、「新たに核兵器が配備された基地は有事に敵の攻撃対象となり、住民の危険が格段に増す」と指摘している。

「原発・核依存症」からの脱却をめざせ

 このように、「原発回帰」政策も、「核抑止の強化」政策も、冷静に考えれば、合理性に欠ける政策であることがわかる。ではなぜ、政府は原発や核抑止に固執するのであろうか。両者に共通しているのが、いわゆる「依存症」と呼ばれる社会構造の問題だ。
 英国の国際政治学者ウィリアム・ウォーカー教授は、核保有国が核兵器を放棄できない理由として、核保有国の意思決定者が「核に埋め込まれた(nuclear embeddedness)構造の中にあるからだ」 [8]としており、その社会構造が根本的に変化しない限り、核兵器への依存症は治らない、としている。似たような社会構造が、原発を取り巻く制度や政策にも存在する。山本義隆氏は、核燃料サイクルという日本の原子力政策の要ともいえるプロジェクトを詳細に分析し、その背景には「核ナショナリズムとも言うべき、国家主義的構造が存在している」と指摘し [9]、このような硬直した社会構造の下での政策は、経済合理性や社会合意などが置き去りにされてしまう、と重ねている。
 今こそ、市民社会がこのような「社会構造」に立ち向かわなければならない。60年代や80年代に起きた、反核運動、福島原発事故直後に起きた日本の脱原発運動は、その後の核政策・原子力政策の転換を実現したことを忘れてはいけない。その原点は、被爆体験と事故の体験を忘れないことだ。

[1] 石川公一、「国内原子力発電2024年度の設備利用率は30.6%」、2025年1月10日。https://www.jaif.or.jp/journal/japan/26300.html
[2] 経済産業省発電コスト検証ワーキンググループ、「発電コスト検証に関するとりまとめ(案)」、2024年12月16日。https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/cost_wg/2024/data/05_05.pdf
[3] NHKニュース、「関西電力 美浜原発敷地内に建て替えに向け調査再開へ」、2025年7月22日。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250722/k10014870711000.html
[4] Bulletin of Atomic Scientists, “Doomsday Clock: It is now 85 seconds to midnight”, January 27, 2026. https://thebulletin.org/doomsday-clock/#nav_menu
[5] 「自由民主党・日本維新の会 連立政権合意書」、2025年10月20日、https://storage2.jimin.jp/pdf/news/information/211626.pdf の末尾にある
[6] 毎日新聞、「高市首相、『非核三原則』見直し議論へ。『持ち込ませず』が焦点」、2025年11月15日。https://mainichi.jp/articles/20251114/k00/00m/010/391000c
[7] 太田昌克、「『非核三原則』見直し論:乏しい合理性」、長崎新聞、2025年11月18日。
[8] W. Walker, “On Nuclear Embeddedness and Irreversibility” (working paper, Program on Science and Global Security, Princeton University, February 2020): 7. https://sgs.princeton.edu/sites/default/ files/2020-02/walker-2020.pdf
[9] 山本義隆、「核燃料サイクルという迷宮」、みすず書房、2024.