「高市期待感」に対抗できなかった野党陣営
広範な国民連合常任世話人 大谷 篤史(全国農団労)
2月8日投開票の第51回衆議院議員総選挙結果は自民が316議席を確保し、単独で定数の3分の2を上回る結果となった。一方、反自維政権の受け皿と見られていた中道改革連合は、公示前167議席(立憲144、公明21、その他2)から49議席へ大幅に減らした。参政とみらいが、それぞれ15と11議席を獲得した。また、初の衆院選に臨んだみらいが381万票を獲得したことは、一定の支持を得たものとみてよいだろう。
得票数(比例区)を見ると、自民は2102万票(37%)を獲得し、前回、昨年参院選と比べて大きく伸ばした。参政は前回から239万増と大きく伸ばした昨年参院選と比べると大きく減らしている。参院選で参政や国民民主などに流れた元々の自民支持の保守層が、再び自民に回帰したと言える。
大幅に議席を失った中道は大きく後退し、昨年参院選での立憲・公明合計の1261万票から見ても大きく支持を失い、低迷を脱却できなかった。決定的な敗因は小選挙区において自民249議席に対し中道が7議席しか取れなかったことだ。
この選挙結果は、国民がどのように考え、行動し、投票したことによってもたらされたのか。その投票行動を分析することは、私たちの運動発展につなげる上で重要である。
高市高支持率の背景に
あるものは?
この有権者の投票行動を見る前に、少し情勢に触れたい。
足元の経済情勢を実質GDPで見ると2025年10︱12月期は前期比0・2%増(年率換算)になっている。しかし、7︱9月期がマイナス2・3%減と落ち込んだことを踏まえると、経済が落ち込んだまま改善の見通しがない状況にある。株高に沸き立っているものの、国民の生活は苦しくなる一方である。
その原因を外国人に求める排外主義などに同調する人たちが増える中、昨年10月に高市政権が誕生し、約70%の高支持率で推移している。是非はともかく排外主義的な世論が、高市氏の昨年の「存立危機事態」発言にみられるような対中国敵視を好意的に捉えていると考えられる。
また、「高齢男性ばかりが率いてきた古い政治の体質を変えてくれる」「日本のことを思って頑張っている」というような国民の声を見ると、現状を変えてくれるという漠然とした期待感が背景にあると言える。
さらに、高市氏自身が女性であることを最大限活用したことも、期待感を生み、経済的弱者である自分たちの代弁者としてのシンパシーを感じたのではないだろうか。
高市氏の人気投票にした自民の選挙戦術
高市首相は「高市早苗が、内閣総理大臣で良いのかどうか、決めていただく」「日本列島を、強く豊かに。今、着手しなければならない」と政権選択選挙を前面に押し出す選挙戦として位置づけた。
議席数だけからこの選挙結果を見れば、この選挙戦術が功を奏したのは間違いない。
選挙戦においては、マスコミやSNSを活用して、徹底的に高市氏を前面に押し出すことと併せ、選挙の争点を作らせないことも同時に行われた。たとえば、食料品の消費税2年間ゼロは、選挙の争点から外すという結果を生んだ。実際、以前から主張していたれいわや共産は大幅に議席を失っている。
また、昨年の「存立危機事態」発言による対中国関係の悪化は実体経済にも悪影響を及ぼしているが、排外主義的な主張により、漠然とした不安感を煽り、対外的に「毅然と対峙する」高市氏を演出する。こうしたことにより「何かやってくれそう」という期待感から支持を増やすと同時に、国民から本質的な議論を遠ざける効果も生んでいる。
トランプ米大統領の高市支持発言にしても、外交面でのプラス評価に一役買っている。
トランプ発言は露骨な内政干渉である。マスコミも本来抗議すべきだが、何の批判もせず一方的に報道することで、高市支持を加速させた側面は否定できない。
自民「躍進」の要因は
高市イメージ戦略
こうした高市氏を前面に押し出すいわばイメージ戦略が実際の投票行動にどのような影響を及ぼしたのだろうか。
朝日新聞の出口調査によると、高市内閣支持派の48%が比例区で自民に投票している。前回参議院選の石破内閣では45%とそう大きく変わらない。違いが大きかったのは内閣支持率で、高市75%に対し石破48%だった。この違いにより、今回の投票総数約5800万票を基礎にすると、自民党に約1000万票近くが前回より上乗せされたことになる。内閣支持率の高さを武器にした選挙戦略が、自民勝利の要因の一つだろう。
高市支持のもう一つの側面として、初の女性首相として期待されたことも大きいと言える。男女平等が叫ばれる今日ではあるが、欧米と比べると女性の地位は低い。とりわけ政治の世界では女性の参画が低いだけに、女性にとって高市氏を支持する理由の一つになったことも指摘できる。
ネットを武器として
最大限活用
「街頭演説では自民が支持者らを会場に動員した以上の聴衆が集まることが多々あり、首相の人気ぶりが際立つ」などとマスコミが報道していたが、それはマスコミにより高市支持を拡散する効果をもたらした。
マスコミによる世論誘導は目新しいものではないが、その他にもネットやSNSを有効活用した選挙戦術も高市支持の拡大に一役買っている。公示前日の1月26日には、自民の公式YouTubeに高市氏のメッセージ動画が投稿され、投票日8日には1億5000万回を超えるほどまで視聴された。この再生回数の増加は異例のスピードだ。その達成には、豊富な政治資金を投入したネット有料戦略が大きく寄与している。
その他、Xのキーワード検索をタップするたび「高市早苗です。挑戦しない国に未来はありません」という広告が流れるなど視聴・閲覧回数をいかに稼ぐかという工夫が凝らされていることが見て取れる。
こうしたツールの活用によっても、先述した街頭の声が広がっていった原動力になったといえるだろう。
中道は完全に国民から
見放された
一方、大敗を喫した中道は、先に触れたように小選挙区の結果が決定的だった。高市氏のイメージ戦略が影響したことは間違いない。選挙戦前半に自民圧勝の報道がなされたことは、高市政権の高支持率を鑑みると、小選挙区において自民有利に働いたといえる。実際に小選挙区では、小沢一郎氏や岡田克也氏、枝野幸男氏ら旧民主党時代から党を支えてきた人たちが軒並み落選した。これを見ても、小選挙区ではかなり自民有利の風が吹いたのであろう。
何よりも小選挙区での対高市、対自民党の勝利をめざそうとすれば、野党共闘はもとよりせめて候補者調整、棲み分けすらできなかったことが惨敗をもたらしたことは明らかである。これは野党第一党である当時の立憲の責任と言ってよい。
しかも、比例区の得票数の動向を見ると昨年の参院選でも立憲民主も公明もいずれも支持を失う傾向だった。昨年時点ですでに支持は減少傾向だった。今回の総選挙でさらに約200万票を減らしたことを見ると、中道という新しい受け皿でも受け入れられなかったと見える。
とはいえ、議席だけ見ると自民圧勝だが、比例区で1000万票強と自民得票の約半数を獲得した。与党に批判的な人びとで中道に投票した層が相当数いたことは指摘しておきたい。期待に応える責任があろう。
みらいがリベラル層の
ある程度の受け皿に
議席を増やした参政やみらいについては、先に述べたように参政は大躍進した時ほど支持を集めていない。一方、みらいは初の総選挙であることから、比例の獲得票は、みらいの主張に共感した、もしくは期待や可能性を感じた人たちが投票したと言えるだろう。
今の政治に期待が持てず、打破してくれそうな高市氏を支持した流れを踏まえると、みらいの党首が35歳と若いことはプラスに働いただろう。また、みらいのミッションとして「私たちは、オープンにする」「私たちは、誰かをおとしめない」「私たちは、分断を煽らない」などを挙げ、具体的な政策等を展開している。政策内容を見ると、比較的リベラル系も共感できる内容が多いように思う。
また、「誰かをおとしめない」「分断を煽らない」という主張は、野党の政権批判や政局ばかりに終始する現実の政治に幻滅している人たちに響いたと言えるのではないだろうか。もっとも裏金問題など野党の追及に対してのらりくらりとかわし正面から受け止めない自民の姿勢に問題があるのは言うまでもないが、実質的な政策論争を望む層にとってみらいの主張に共感するところがあったのではないか。
この総選挙が初めてなので、昨年の参議院選と比較して、みらいの主張がどのように有権者に受け止められているのかを見てみたい。今回総選挙では昨年の152万票から230万票増えたことになる。少なくとも票数ベースで言えば2・5倍を獲得している。自民の高市政権か否かという選挙戦術が功を奏したことを鑑みると、みらいの主張が一定の支持を集めたものと見てよいだろう。
今後、政治をどう変えていくのか
今回の総選挙の結果によって、自民単独で3分の2以上の議席を獲得した。参議院では与党が過半数に届いていないものの、衆議院の3分の2以上による再可決で法案が成立しやすくなったことは間違いない。
「高市氏なら何かやってくれそう」など現状を打破してくれるのではないかという期待感によるところが大きいものの、高市政権を「白紙委任」した結果ではない。その意味では、少数になったとはいえ野党には、国民が切実に求めている今の生活をよくするという観点から、高市政権の進める政策の是非を判断する責任がある。
得票数から見ても、比例区の自民得票数は2100万票で有権者(1億352万人)の約2割に過ぎない。国民の支持を得たとは言えない。
投票率が56%だったことを鑑みると、4割超のサイレント・マジョリティーがいる。高市首相と自民党に期待していないのである。
こうした人びとも含めて国民生活の危機突破という観点から高市政権が進める政策に対して待ったをかける条件は十分にある。

