「今だけ、金だけ、自分だけ」の政治を変える
『日本の進路』編集部
国民は持続可能な日本に、「国のカタチ」を変えることを求めている。
この夏も異常気象、豪雨災害。2年続きの令和のコメ騒動、農業と国民食料の危機。生活必需品価格の高騰。命を守るすらも容易でない。
まさに鈴木宣弘教授が暴露する「今だけ、金だけ、自分だけ」の政治の結果だ。多国籍化した大企業や金融資産を持つ者だけが栄える日本になってしまった。
国民が安心して暮らせる、持続可能な「国のカタチ」をめざす時だ。国民は参院選で「変える」を主張した政党への支持を伸ばした。だが、これらの政党に期待をもてるのか。
国民が力を合わせて「本当に変える」道に踏み込む時だ。その検討と国民合意形成が急がれる。
国民は「打開」を求めた
朝日新聞が自民党両院議員総会(8月8日)について、「自民党全体が国民の信を失っているという自覚はあるのか。結党70年にして、存在意義が問われている」との社説を掲げた。
そもそも昨年7月、石破茂氏は「もし私などが首相になるようなことがあるなら、それは自民党や日本国が大きく行き詰まった時なのではないか」(石破茂『保守政治家』)と語っていた。そして10月1日、内閣総理大臣に就任した。直後に衆議院を解散したが、自公与党は大敗し衆院の過半数を失った。そして今回の参院選である。
自民党が衆参両院で少数与党となるのは1955年の結党以来初めてのことである。自民党は歴史的役割を終えた。しかし、それはすでに30年以上前、少なくとも1993年の政権喪失時ころから。その後、「自民党中心の連立」で政権を維持してきたが、今その策略政治が「最終局面」に入ったに過ぎない。
自民党が行き詰まって「持続不可能」となったのは自業自得、結構なことだ。
問題は石破氏の予言の後半、「日本国が大きく行き詰まった」ことである。それが現実となっていることを国民は感じ取っている。
しかし参院選では、これほどの危機にもかかわらず自民党や公明党だけでなく、立憲民主党や共産党なども、「既存の」与野党各党はいずれも支持を得なかった。選挙結果でも明白だが、これらの党では国民の危機を打開できないと有権者は見抜いている。
だから、「未だ試されていない」新参の参政党や国民民主党の大幅議席増となった。他方、古い新参政党、維新の会勢力は早くも衰退傾向が顕著。
新しいだけではすぐに見抜かれる。国民の政治的自覚は進んでいる。女性たちを先頭にさまざまな社会運動の広がりも顕著である。
「食」の確保は政治の基礎
80年前、日本軍国主義はアジア侵略戦争と対米戦争とに敗戦し、戦後日本は米軍の直接占領支配から始まった。戦後日本をめぐる激しい国内政治闘争も経て、1951年サンフランシスコ講和条約と日米安保条約締結、米国支配下であるが形式上の独立国となった。議会政治は55年、保守合同を経て自民党支配となった。
この支配下で70年過ぎた今日、「日本国が大きく行き詰まった」のである。このままではわが国は「持続不可能」である。
何よりも国民の命をつなぐ食料を満足に提供できない国になってしまった。2年続きの「令和のコメ騒動」の日本だ。
食料自給率はわずか38%。鈴木教授は「肥料を考慮すると実質22%、さらに種の自給の低さを入れると実質自給率は9・2%」と試算する。農業従事者は高齢化著しく平均年齢69・2歳(基幹的農業従事者2024年)、あと10年で80歳平均を超す。
安全な食料を安心価格で国民に提供するは古来、政治の最も基礎的な仕事である。歴代自民党政権はこの任務を放棄し、米国産農畜産物輸入を拡大し工業製品の対米輸出を進めた。
しかも今日、米国はさらに農産物市場開放を迫る。「米国産米の輸入を直ちに75%増やす」「トウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノールなど80億ドル(約1兆2千億円)の米国産品を輸入」などが合意されていると米国側は発表。自民党政権は拒否できるのか。
一方、世界では2023年に約7億3500万人が飢餓に直面(推定中間値)する。その数は19年から約1億5200万人増。世界の11人に1人が飢餓に直面し、5歳未満児の22%が発育阻害の状態というほど食料危機は深刻である。
この世界で日本は、国民は、生きていかなくてはならない。安全安心な食の確保は喫緊最大の政治課題である。
人が生きられない日本
それだけでない。水害・土砂崩れ、異常気象を乗り越える国土の維持保全も待ったなしだ。戦略的に脱炭素を推進し、ミドリの国土を復活させ、きれいな水と空気の確保も不可欠である。
米国に石油、そして原発を押しつけられてエネルギー自給を放棄した日本。福島第一原発大事故も経験して脱原発は国民的合意となったはずだ。原発再稼働、ましてや新設など論外だ。持続可能な自然エネルギーでの自給体制を地域で築く道に踏み出さなくてはならないときだ。
医療、介護、年金も持続不可能が赤裸々だ。社会保障の確立へ、「公助」を確立し地域で助け合い生きる社会をめざさなくてはならない。
財政も持続不可能だ。国家財政の累積債務は世界一。しかし、大企業の利益だけは空前の規模。これこそ、「今だけ、金だけ、自分だけ」の政治の象徴だ!
持続可能な日本に舵を切らなくてはならない。
「日本人」がいない日本!
持続可能でない日本を人口減少が警鐘する。
昨1年間に国内で生まれた日本人の子どもの数は68万6061人で、1990年122万人の半分近くに過ぎない。2017年には、「40年に74万人」と推計していた。減少スピードがいかに加速しているか分かる。
長期予測(23年予測)もある。一人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率は24年1・15、統計を取り始めた1947年以降で最も低い(2・07で人口増減なしの置換水準)。おおよそ100年後の2120年には推計中位仮定で出生数わずか23万8千人、日本人人口総数3400万人で、うち65歳以上が約47%、毎年1・3%ずつ減少すると推計されている。合計特殊出生率が1・00(24年の東京都が0・98)だと全国で生まれる子どもは8万人にまで減少する。
このままでは日本列島に日本人はいなくなる。
原因はいろいろあると考えられるが、一番は出生数の減少である。国民の大多数である労働者の結構な部分が、子を産み育てられる環境にない。
労働者が手にする賃金は、生きて明日も労働し続ける体力を確保するのに必要な額だけでなく、子どもを産み育てて次世代の労働者を再生産できる額でなければこの経済は持続不可能。しかし今、非正規雇用者労働者の多く、特に女性はこの必要な額を得ていない。現代の大企業経営者たちは今だけ儲かりさえすればよいのであって将来は知らない、子育て分なんか負担したくないと考えているようだ。後は野となれ山となれ!か。
かくして日本人がいない日本に向かう。「今だけ、金だけ、自分だけ」の政治で行き着く先である。
持続可能な日本へ。平和が最大の課題。明治以来のアジアとの向き合い方を変え、アジアに生きる日本になることでもある。国民自身が政治を変える時である。