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食料農業 ■ なぜ米が高騰したのか

転作か所得補償か大論議のとき

JA常陸組合長、日本の種子を守る会会長 秋山 豊

米が足りないのに
減反が続く

 本当の現場の意見を公表しなくてはダメだということで、JA有志連合を呼びかけました。
 私どもが言いたいことの第一点は、農家が現在も減反・転作をやっているということです。
 水戸市ですと35%の田んぼをつぶして、麦とか大豆とか、出荷用のバラなんかを作っています。そのことを消費者は知らないんですね。
 米が足りないのに、まだ減反をやっているんです。水田再生協議会というのがあるんですが、これが転作のからくりなんです。国が茨城県に期待する生産量を示すんですね。それを請けて茨城県の再生協議会が自主的に〇〇市ではいくら作ってくださいと希望する生産量を示すんですよ。それに従って市の協議会が「秋山さんは4トン作ってください。田んぼが4・5トン分ありますから0・5トン分転作してください」と、はっきり数値が来るんですよ。これが最近の転作で、水田活用対策(水活)とも言うんですが、以前は減反と言われていたことが実に50年間続いているんです。
 私は今年2月の水活総会でこういうあいさつをしました。「米の需要が毎年20万トン、3%減少しているから、米価を下げないために転作に協力してください。しかし、米がこんなに足りなくて価格が上がっているのに前年比1%の緩和でいいんでしょうか?」と。
 そこには県の出先の職員もいらっしゃったんで「どうなんですか?」って聞いたら、黙ったまま下向いているんですね。彼がいちばん現場で苦労してきた人ですから、その転作の問題点も全部わかっている。だが答えられないんですね。

スポット買いで米価が高騰

 生産者米価は2021年は60キロ1万100円、それが24年には平均2万4000円になっています。ですから農家は精米5キロの原価として2300円しかもらってないんですよ。
 JA、全農、精米、精米加工、運送、中卸でプールして小売に運ぶなど、もろもろ入れて5キロで大体1000円ぐらいかかるんですね。ですから5キロ2300円の原価に1000円足して3300円ぐらいが妥当な精米価格なんですよ。それが茨城コシヒカリが4500円とか4800円とかで売られている。
 なぜ米が高騰したんでしょうか。9月にはレストランとかコンビニとかの大手が1年分の米を押さえるので、5~6割はそこで契約されてしまうんです。残りの4割の米をスポット買いでみんなが買うもんですから、高くなるんですね。昨年の9月、10月あたりから流通する米がなくなっています。スポット買いで仲卸がお互いに売買する価格は9月は2万2000円ぐらいだったのが今は4万円です。考えられないような価格になっている。そういう状況が昨年から発生しているんですよ。

「平年作」?ありえない

 コメ不足の原因のひとつは異常高温障害です。これは昨年、一昨年の8月の気温を思い出してください。8月に入って35度以上のものすごい暑さが9月上旬まで続きました。出穂した途端に高温に遭ったものですから、未熟粒、乳白米が増えました。一昨年は1等米が5割しかできませんでしたね。新潟はおそらくゼロに近かったんです。そのくらい品質が落ちました。それが昨年もあったんですよ。一昨年より被害はひどくなくて、うちでは1等米率は65%まで回復していますが。
 ところが農水省の作況指数の発表は101で「平年作」となりました。「とんでもない、平年作なんかありえない」とみんなで言ったんですよ。農水省の作況には籾を摺ってなんぼ残るかというのは計算に入らないんです。現場では歩留まり率が83・8%でした。普通は9割残るんですよ。そこで約6%は減収なんですね。
 農水省はその「平年作」に基づいて翌年の転作を決定するんですよ。ですから、翌年度の減反が確か4%ぐらいしか下げられなかったんですね。そこで大きな狂いが出た。今年は2%しか下げてないんですよ。農水省はそれが間違いだと認めないから言いませんけど、「平年作」がとんでもない話だっていうことです。
 それから一昨年の8月を思い出していただきたいです。東京、大阪のスーパーの棚から米が消えました。大阪府知事が国に備蓄米の放出を要請した。ところが政府は「新米が出れば大丈夫です」と言ってやらなかったんですね。あの判断が決定的にまずかったんですよ。それで1万6000円だった米価が9月には2万2000円に跳ね上がった。そこから毎月上がっていったんですね。あの頃地震もあったし、消費者が買いだめに走ったことや、インバウンドの増加もありましたが、1月が明けたらもう3万円超えていましたね。

米価格は政府の政策しだい

 私の試算では米は6月末で62万トンしかありません。これで7月から9月頭までしのがなくちゃならないんです。1カ月で大体60万トンの米が必要なので、全然足りないですね。1カ月分しかないんですよ。国が緊急放出したのが120万トンです。4年落ちの米が二十数万トンあって、あと輸入米が月1万トンぐらい、関税340円をかけても入ってきていますね。兼松はテレビで5キロ3500円を超える米価だったら輸入を続けると言っていましたね。
 9月から大手の買い付けが始まりますが、下がっても1000円か2000円かと言われています。新米の買い付けが60キロ2万5~6千円程度で動いていまして、私どもも思い切った値段を出そうというようなことまでやっています。来年度6、7月まであまり下がらないだろうという状況です。消費者の方には大変申し訳ございません。
 全農家が生き残る適正な生産者米価は60キロ当たり2万4219円(税抜き)です。でも精米小売価格にすると5キロ3700円(税込み)ぐらいになります。消費者は3千円前半という価格を希望しているので、これでは安い輸入米が入ってしまう。
 生産者のことも考えて、生産者米価2万2000円(60キロ、税抜き)、消費者の米価が3220円(5キロ、税抜き)、このへんの価格をどう実現するかというのは政府の政策しだいですよ。
 これまで通りに転作を続けながら、政府の備蓄米を使って米価を維持するやり方なのか、それとも減反を全部撤廃して米を作るのか。減反をやめて米を増産すれば、米価が8000円ぐらいまで低下しますよ。そうなったときには、生産者の所得を10アール当たり5万円とかで所得補償していただかないと農家は成り立ちません。
 生産者米価が8000円なら今の小泉米価と同じで、5キロ2000円ぐらいになる。いずれにせよ、今後の農業政策は今年の秋までは旧制度ですが、来年からは新制度に入るので、これはたぶん大論議になると思います。