地域からの報告

 大牟田で「令和の百姓一揆」に連携

農民と消費者の相互理解を促進

 シンポジウム「みんなで語ろう『食と農の今を考える』」を福岡県大牟田市で4月19日、市民団体「いちのたんぼの会」と広範な国民連合・大牟田地区懇談会の共催で開催しました。110人を超える人たちが参加。この課題での関心の高まりを実感しました。3人の県議会議員をはじめ多くの自治体議員の方々も参加していただき、有明海を渡って長崎県島原市から駆け付けてくださった方もおられました。

令和の百姓一揆と連携

 この催しは昨年末から準備してきたのですが、途中から「令和の百姓一揆」の取り組みと連携することになりました。3月30日には市内で「令和の百姓一揆に連帯する南筑後行動」として街頭でのリレートークとスタンディングを行いました。会場にはその時のトラクターの平面模型や品種標本の稲束、百姓一揆のノボリや団扇も展示しました。
 このシンポジウムも、一揆以降の活動の一環と位置付けて、事務局のフェイスブックでも紹介していただきましたので、遠方からの参加はそのおかげかと思っています。開会前の10分間に、市内の私立明光学園高校でオーガニック食材による学食(カフェテリア)が始まったことを紹介する動画を上映し、第1部の後の休憩時間に令和の百姓一揆を伝える報道番組の一部を流すなどの工夫もしました。

30年前の闘いに学ぶ

 第1部では、熊本の農民運動史研究家の内田敬介さんが、「平成百姓一揆~米輸入阻止国会突入の記録~それから30年」と題する基調講演を行いました。30年前、熊本の若い農業者を中心に闘われた米輸入に反対する運動の経過を報告され、「このような農政が続くと日本の農業は衰退の一途をたどる」という彼らの危惧が、現実のものとなっていることを指摘されました。最後に氏は、亡きお母さんの形見の鍬を片手に、「おふくろがこの鍬で畑を耕して家族を養い、子育てをし、大切な食べ物を作ってきた。農業はすごい仕事であり、誇りある仕事であることを学ぶことができた」と話を結ばれました。

3つのテーマで議論

 第2部では5人のパネリストが4本のレポートを報告し議論しました。
 第一のテーマ、「農業、農村の現状」に関しては、専業農家で「いちのたんぼの会」の山下公一さんと、「合同会社城北さんちょく」の松崎清次さんが報告されました。
 山下さんは、中山間地での農業の現状と課題を話されました。居住する集落では1975年からの50年間で、農家の数が19戸から6戸に、専業農家は7戸から2戸に減少したこと。その数に示されるように、農業の担い手不足、耕作放棄地の増加、それに伴うイノシシによる被害など、中山間地の農業が抱える課題を話されました。そのうえで、中山間地農業は土砂崩れを防ぐ、水資源を涵養するなどの多面的な機能を持つこと、大規模栽培は無理だが小規模多品目の作物栽培に適していることなどを話されました。
 松崎さんは、契約している農家の現状から、離農の3要素として、高齢化、気候変動、機械代や燃料費等の高騰が挙げられること、また1971年から続けられた減反政策が「作りたくても作れない」状況を生み出し、現在の米不足の背景にあることを語られました。
 第二のテーマは、「生産者と消費者の連携」で、松崎さんとグリーンコープ生協ふくおかの大牟田支部理事長・井上千代さんと、同じく筑後支部理事長・鹿田律江さんが報告されました。
 松崎さんは、「生産者と消費者の連携抜きには地域農業は守れない」という立場から産直運動を継続してきたこと、婦人団体との協力協同で続けられたことなどを語り、生産者の高齢化とともに「顔の見える産直」の理念が薄れてきたことなどの課題に触れられました。
 グリーンコープ生協のお二人は、生協運動の「3つの原則」や「4つの共生」などを紹介した後、共生・循環型酪農プロジェクトとして、株式会社耶馬渓ファームや株式会社グリーンコープミルクなどの事業を展開していることを報告。その後、支部独自の取り組みとして、筑後支部では農家と協力して体験田で田植えや稲刈りなどの稲作体験を実施し、大牟田支部では産地交流として契約農家の農作業を手伝う取り組み(「猫の手隊」と称して)をしていることなどを報告されました。
 第三のテーマは「自治体議員や行政の役割」で、大牟田市議会議員の船原基近さんが発言されました。
 船原さんは、政府がもくろんでいる米農家政策は、農地の集積・集約化であり、大規模農家に限った所得補償が考えられているのではないかと指摘され、国の施策として農地10a当たりの直接支払制度が必要だと話されました。その後、現在「食料自給の確立を求める自治体議員連盟」が結成され、対政府要請行動などに取り組んでいることを紹介し、協力を要請。関連して鈴木宣弘教授が提唱している「飢えるか植えるか運動」を紹介しました。最後に、大牟田市議会の3月定例会議で、3つの要望項目からなる「将来に希望が持てる農業者に寄り添った農業政策を求める意見書」を、賛成多数で採択したことを報告されました。

さまざまな課題が

 休憩の後の第3部は、参加者からの一般討論の時間としました。ここでは一定の結論を導くのではなく、参加者の問題意識を自由に出してもらうことにしましたので、さまざまな課題が提起されました。
 イノシシをはじめとする獣害対策、地域の自給圏をどうつくるか、耕作放棄地に地域として取り組む仕組みはできないか、後継者をどう支援するか、農業者の要求をどこがまとめていくのか等々、すぐに解答は出ないにしろ、切実な課題が提起されたと思います。最後に定年退職後に就農したという男性が、「若者ではないが、自分も後継者の一人だと思って頑張っている」と発言し、ほっこりした雰囲気の中で議論を終えました。

今後に向けて

 5月1日の総括の会議では、得られた成果を次につなぐためにいくつかのことを決めました。まずシンポジウムの第2弾を、秋の収穫期が終わった頃に実施する。そこでは差し迫った課題である耕作放棄地や後継者の問題をテーマにする。先進的に取り組んでいる地域の実践を調査し、小さくても具体的な一歩を踏み出すための提案ができるよう準備することになりました。
 2つ目は令和の百姓一揆に連帯する取り組み。南筑後での共同行動をさらに発展させることはできないか、それぞれの地域の方々との話し合いを呼び掛けます。
 3つ目は「いちのたんぼの会」が5月から始める市民農業塾との連携です。毎月1回の座学と、たんぼの会の農作業に合流する実習からなる講座には、すでに十数人の申し込みがあります。新規就農をめざす方も、家庭菜園を希望する方もおられます。農の裾野を少しでも広げたいという思いを共有しました。合言葉は「微力だが無力ではない」です。

 (広範な国民連合・大牟田地区懇談会)