この国のカタチを問う選挙に
『日本の進路』編集部
参議院議員選挙が迫った。与野党問わず参院選に向けて消費税「減税」など生活防衛を唱えているが、物価高騰など国民生活の危機打開は待ったなしである。
昨年の総選挙で衆議院は自公与党が少数となった。自公政権と言っても戦後自民党政治、すなわち輸出大企業の利益最優先で対米従属の延長に過ぎない。国民大多数はこの政治を見限っている。
野党各党はこの政治をきちんと総括し、対抗軸を立てているだろうか。国民民主党やれいわ新選組など新興政党への「期待」は、既成野党への批判であろう。
あわせて今年は敗戦80年である。130年前の日清戦争に始まり、朝鮮植民地支配、中国大陸侵略戦争でアジア各国人民に筆舌に尽くしがたい犠牲を強要した。日米戦争では沖縄を犠牲にし、さらに都市無差別爆撃に続く広島・長崎の原爆などで国民を犠牲にした。
西田発言のような歴史修正すら、大手を振っている今、アジア侵略戦争と日米戦争・沖縄地上戦、この二つの戦争についてのしっかりとした国民的総括が必要である。
来たる参院選挙は国の基本方向、国のカタチを問う全国民的政治戦にしなくてはならない。
物価高騰で消費税が焦点に
コメなど食料品を中心にした物価高騰で国民の生活は苦しく、政治への不満と怒りが高まった。
この国民生活の危機に野党各党は消費税に焦点を当てている。NHKの世論調査でも「消費税廃止」と「税率引き下げ」が合わせて56%。産経新聞調査では68%で、とくに29歳以下層では87%に上っている。
国家財政、とりわけ課税に象徴される国家のカタチが問われている。われわれは消費税の廃止を求める。
消費税は所得の少ない生活困窮者ほど負担が重い逆進性の税であり、避難所生活の人も病人も子どもも、明日の生活費に事欠く家庭にも強制される。困難に陥っている人びとに最も打撃が集中する税であるからである。
ところが石破総理大臣は「減税だけの話をするのは無責任だ」と拒否。「消費税を引き下げるなら代わりの財源が必要だ」と言うのである。だが、自民党がそれを言うのは笑止千万だ。
昨今の「防衛費」の急膨張に「財源」の裏付けはない。今年度予算にわずかな法人税とたばこ税の増税を盛り込んだだけで、結局は先送りの国債依存だ。財務省の発表では今年度末の国の国債・借入金残高は1437兆円の巨額で、国民1人当たり1200万円近い借金を負っている計算だ。こうした政治を続けてきた自民党政権に「財源が」と言う資格はない。
しかし、国債発行ではない財源が必要なことは間違いない。
消費税廃止へ!
財源はある
この「消費税」を問題にするとすれば、少なくとも1989年の消費税導入から今日までを総括する必要がある。
導入時に3%だった税率は、5%、8%、10%と相次ぐ引き上げで、国民負担は急増した。最初の年の消費税収は約3兆円だったが、今年度予算では25兆円までに拡大している。国民が搾り取られた。
一方で法人税の基本税率は89年42%が8回引き下げられ、さまざまな特別措置での抜け道も次々作られた。直近の税率は23・2%で、消費税導入時のほぼ半分になっている。実際の負担はもっと軽い。
他方、大企業の経常収益は35年間(89年から2023年)で3・5倍に増加した(法人企業統計、資本金10億円以上の金融・保険業を除く企業)。しかしこれら企業が支払った「法人税等」は1・4倍増にとどまる。
また、所得税は税率引き下げが4回あり、累進制が緩和されて、高額所得層の負担は軽減した。しかも大企業の「株主配当」は約10倍となり、累計で約330兆円が支払われたが、配当・譲渡益など金融所得は一律15%(地方合計で20%)の課税である。高所得者ほど金融所得の比率が高いため、所得税の負担率が下がる。
しかし、「従業員給与等」は1・35倍にとどまる。しかも2000年には介護保険が導入されるなど社会保険料負担が急増。税・社会保険料負担率は、88年の20・6%から23年には25・9%に上昇した。社会保険料は低所得層ほど負担感が重い。こうして23年の実質消費は月5・3万円減少(大和総研調査部)し、貧富の格差がいちだんと開いた。
歴代政権も石破政権も金融課税強化を掲げたが実行できない。本年度からミニマムタックスなる課税が導入されたが、年間所得30億円超といった超富裕層だけが対象だ。
国は消費税導入以降、取るべきところからの税収を意図的に削減してきたのだ。
消費税廃止へ。財源は法人税や所得税、それに高所得金融資産への課税強化など、公正な税制への抜本改革で実現できる。
日中不再戦は国是である
日本がアジアで生きるために、アジア侵略戦争のしっかりとした国民的総括が必要である。
日中不再戦は国是である。1972年の日中国交正常化時の「台湾が中国の不可分の領土の一部」との合意をしっかりと堅持しなくてはならない。台湾を植民地支配したわが国は、この点でのいささかの曖昧さも許されないことを自覚すべきである。
朝鮮植民地支配の問題は80年たっても未解決である。この解決はわが国がアジアに生きる上で試金石といえる。国民的議論を経て、反省と謝罪、賠償をきちんとしなくてはならない。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との即時無条件の国交正常化が必要だ。
米軍と自衛隊は対中国戦争準備を、九州各地で急テンポで進めている。沖縄は「二度と再び戦場とさせない」との決意を固めている。「西田発言」を許してはならない。沖縄を「本土防衛」の盾にして県民の4人に一人が亡くなるという犠牲を強いたことを総括しなくてはならない。南西諸島へのミサイル配備、辺野古新基地建設を止めることも、この選挙戦の大きな争点である。
対米自主の選択が迫られる
敗戦時の米軍の占領から始まり、今もわが国は米国の属国状態が続く。さらに10年、20年とこの状態を容認するのか。戦後80年にまずは日米地位協定の抜本改定を求める。
今年は広島・長崎の被爆80年でもある。ところが核武装も必要といった風潮が強まっている。核抑止力に頼らない「非核の日本」こそ安全保障だ。非核三原則堅持・核禁条約参加、日本列島の非核地帯化をめざそう。
国民の命を守る食料、この夏もコメがない日本か。米国に縛られた戦後日本の惨めな姿だ。食料自給確立へ、農業者の所得補償・直接払い実現は喫緊の課題だ。食料安全保障の確立が求められる。
食料とともにエネルギーの自給へ。脱原発、再生可能エネルギーでの自給を実現し、持続可能な日本へ国のカタチを作り替えなくてはならない。
中国はトランプ米大統領の関税攻撃に敢然と立ち向かって勝利しつつある。食料自給への備えと製造業で世界をリードする国策があったからだ。日本にできないはずがない。必要なのは対米自立をめざす政治の選択だ。
敗戦・被爆の歴史とその後の80年を踏まえて、どのような日本をめざすか。問われる参院選である。