朝鮮女子勤労挺身隊の被害者
未解決のまま80年
林 安沢

三菱重工本社前での抗議要請行動
朝鮮女子勤労挺身隊とは、アジア太平洋戦争末期の深刻な労働力不足を補うために、日本が植民地支配をしていた朝鮮半島から、小学校(国民学校)卒業間近の生徒などを「噓と脅迫」の勧誘で集め、日本に連行された朝鮮の女の子たちです。今で言えば中学生ぐらいの女の子たちです。日本の一流企業で大企業の三菱重工の「日本に行けば女学校で学べる」「お金を稼げて親孝行ができる」「ご飯を腹いっぱい食べられる」などの噓を信じて応募しましたが、約束(労働契約)は何一つ守られませんでした。
朝鮮女子勤労挺身隊の被害者は、1999年3月1日、三菱重工に損害賠償と謝罪を求めて名古屋地裁に訴えを起こしました。1919年の3月1日は、朝鮮半島の津々浦々で「独立万歳」の声が響きわたりました。朝鮮女子勤労挺身隊の被害者にとって、80年後の3月1日の名古屋地裁提訴の日は、奪われた人生を取り戻し再出発するための「独立運動」の始まりでした。
名古屋高裁(確定)判決
裁判は、名古屋地裁、名古屋高裁とも敗訴となり上告は棄却されました。しかし、確定判決となった名古屋高裁判決(2007年5月1日)は、「(1)…欺罔あるいは脅迫によって挺身隊員に志願させたものと認められ、これは強制連行であったというべきである。(2)…本件工場における労働・生活については、同人らの年齢、その年齢に比して過酷な労働であったこと、貧しい食事、外出や手紙の制限・検閲、給料の未払いなどの事情が認められ、これに挺身隊を志願するに至った経緯なども総合すると、それは強制労働であったというべきである。(3)また、…が東南海地震により44年(昭和19年)12月7日本件工場内で死亡したこと、控訴人…が本件工場内での作業中に左手人差指に障害を負ったことは、いずれも上記強制連行、強制労働により生じた損害と認められる。(5)…日本は、ILO29号条約を32年(昭和7年)に批准し、同年11月21日に批准登録しているが、同条約では、女性でかつ18歳未満の児童についての強制労働が一切認められていなかったにもかかわらず、上記2のとおり、本件勤労挺身隊らに対する勧誘行為や同人らの本件工場における労働・生活は、被控訴人国による監督のもとなされた強制連行・強制労働と認められること、そしてこれらの行為は個人の尊厳を否定し、正義・公平に著しく反する行為と言わざるを得ないことに鑑みれば、行為当時の法令と公序のもとにおいても、許されない違法な行為であったというべきである」と判決文に明記しました。
これらの事実と違法行為を認定しながら「日韓請求権協定」を理由に被害者の主張は認められませんでした。
何が「完全かつ最終的に解決」したのか?
日韓請求権協定の「完全かつ最終的に解決済み」とは、日韓両政府が外交保護権を相互に放棄することであり、「個人の請求権を消滅させたものではない」と国会の参議院予算委員会で、当時の柳井俊二・外務省条約局長が答弁しています(1991年8月27日)。また河野太郎外相(2018年11月14日、当時)が衆議院外務委員会で「個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではない」と答弁しています。「外交保護権の放棄」と「個人の請求権は消滅していない」が日韓両政府の共通認識であり、「完全かつ最終的に解決済み」の内容であり意味するところです。
つまり、「個人の請求権」の賠償問題については、政府が介入したり干渉したりせずに「当事者間の話し合い、あるいは裁判に任せましょう」が、条約の本意のはずなのに、2018年の韓国大法院(最高裁)判決に対し、当時の安倍政権は「経済制裁」発動しました。
被害者の人権と尊厳を重視した韓国大法院判決
韓国大法院(最高裁)は2018年10月30日、元徴用工の主張を認め加害企業の日本製鉄に損害賠償を命令しました。同年11月29日には、三菱広島被爆元徴用工および朝鮮女子勤労挺身隊元隊員に対し、加害企業の三菱重工に損害賠償を命令しました。
韓国大法院判決の最後の部分には、「日本政府の韓半島に対する不法な植民支配と侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為により動員され、人間としての尊厳と価値を尊重されないままあらゆる労働を強要された被害者である原告らは、精神的損害賠償を受けられずに依然として苦痛を受けている」と被害者の苦しみに言及しています。
お金は肩代わりできても謝罪や反省は肩代わりできない
韓国で言う「親日派」は歴史的用語で「売国奴」を指します。ユン大統領の売国政策は、韓国民の不満を蓄積させ、昨年はユン大統領の戒厳令を撤回させる原動力の一つとなりました。
韓国の被害者は、1965年の日韓国交正常化の際には、米ソ対立の下で米日韓によるソ連封じ込め政策で犠牲を押し付けられました。2023年には、米日韓の中国封じ込め政策によりまたも犠牲を押し付けられました。韓国政府は3月、第三者弁済解決法を決めました(韓日の民間が自発的に拠出した財源により、訴訟で賠償判決が確定した被害者に日本企業に代わって判決で定められた額とその利子を支払う方式)。この欺瞞性は、「日帝強制動員被害者支援財団」というコップの半分を満たすはずだった日本の企業や加害企業の全く無関心、無責任に示されています。寄付を全くしていません。この4月14日、韓国企業が計30億ウォン(約3億円)の寄付をしました。
強制動員被害者が求めているのは、加害企業が歴史的事実を直視し真摯に反省して誠実に謝罪することです。ユン前大統領の解決策「第三者弁済」は、被害者の心身の傷を癒やすどころか、被害者と家族に不和と分断を持ち込み、家族や遺族に苦渋の選択を迫っています。
ユン前大統領の「韓日友好」は、日本に巣食う帝国主義者や植民地主義者を助ける「未来志向」で、強制動員被害者に背を向けた売国政策でした。だから、みずから「戒厳令」という墓穴を掘り、韓国民の命がけの闘いで打倒され新しい政権が誕生しようとしています。
演劇「ほうせん花Ⅳ」2025東京公演
演劇「ほうせん花」は、朝鮮女子勤労挺身隊員の物語です。元隊員の被害者ハルモニ(おばあさん)らの闘いの歴史でもあります。東京での初演は8月9日(土)です。
元隊員の被害者ハルモニ(おばあさん)の多くは無念の思いを抱えたまま鬼籍に入ってしまいました。「ほうせん花Ⅳ」を通して追体験をできれば、被害者の無念や日韓友好にかける思いを感じ取ることができると思います。
韓国独立から80年、日韓国交回復から60年の節目の年に、日本の首都東京での「ほうせん花Ⅳ」上演は新たな闘いの出発点になると確信します。
ほうせん花公演
8月9日(土)
日暮里サニーホール
午前11:00、午後3:00開演。
開場は各30分前
全席自由席 前売り3000円、当日3500円
(中高生と障害者は1000円)
*詳細問い合わせ先
「高麗博物館」(℡03-5272-3510)