日本農業を支え国民の命を守る
これが北海道農民のプライドだ!
中原浩一・北海道農民連盟委員長に聞く
組織あってこその農民運動
2月の第52回北海道農民連盟の総会で委員長に就任させていただきました。私は8年間書記長をやらせていただいているので、後輩に席を譲るべきだと思っていました。ただ周りから農民連盟に対する期待も大きく、私も非常に悩みましたが委員長を受けることになりました。
農業人口が減っている中でわれわれの組織もかなり減ってきています。農政はもちろん主要な課題ですけれども、組織の立て直しが必要だろうと書記長時代から思っていました。委員長を受けたからにはそこをまず第一にやりたい。組織があってこその農民運動です。より一層いろんなところに足を運んで、現場の意見を聞き組織の要請として成果を上げていきたいと思っております。もう一つはやはりわれわれの運動の柱である農政運動、これをしっかりやっていこうというのが、私が委員長にならせていただいた最初の気持ちです。
北海道農業といえども担い手や後継者がどんどん減っています。将来に向けて安心して農業ができるという体制をきちっとつくらなければ、新規就農も増えていかないでしょう。食料安全保障の観点からも、北海道は役割を果たさなくてはいけないと思っています。
現場は水活の見直しで混乱
北海道は1969年からコメの転作を強化してきましたが、水田活用交付金(水活)の見直しによって、水田地帯である空知、上川を中心として、非常に混乱をきたしています。2017年には「畦のないところは水活の交付対象外」となりました。北海道では転作強化で、畦が撤去されているところもありましたが。
さらに2021年11月には、自民党内の会議で、「過去5年水を張ってない水田は水活の対象外」という話が出てきました。過去5年となると北海道では約8割が交付対象外となり、農地価格の低下や荒廃地が進むなど大変なことになる。農水省や与野党国会議員に要請し「過去5年」を最低でも「今後5年」とするよう求めた経過もあります。
この水活の見直しによって、水田地帯は将来のビジョンを描けと言われても、難しい現状に立たされることとなりました。畑地化を進めたために水田と畑地がモザイク状に混在し、水路など誰が管理するのかなどの状況も起きています。また、このモザイク化した農地で大区画化の国営事業などの土地改良ができるのかという問題もあります。
ただそうは言っても、大区画化すればGPSとかAIの機械を使って、深刻な労働力不足を補えるなど、広い大地を生かして無人化の機械を導入して、効率よく農業をやっているところもあります。それができるのが北海道の一つの魅力であります。
2万円ならコメ作りができる
農業にとって明るい兆しが見えたのは、コメの価格が上がっていることです。
今までは、1万2000~3000円/俵(60キロ)の収入で、肥料も生産資材も高騰し、コメ農家は大赤字でした。
それが昨年は、庭先に集荷業者が来て2万5000円で買っていったという話もありました。一般集荷業者も2万円以上の値を付けて買い付けが続いています。このぐらいになれば、安定的なコメの作付けができます。価格上昇によって経営も落ち着き生産意欲も出てきています。
ただ、今の店頭でのコメの値段は消費者からは高すぎますよね。われわれが出すコメ価格は2万円超ぐらいですから、10キロにしてみれば4000円程度ですね。それが、コメの流通が滞留し、流通・販売の手数料等を加味した段階では8000円ぐらいになっており、投機的な流れになっているかもしれません。通常の流通で出回っていれば、消費者はそんなに高く買わなくていいと思うんですが。
今、政府では備蓄米の放出が行われましたが、これは消費者のためになるし、安定供給ということでは、われわれ生産者も理解しています。ただ一方で、備蓄米の放出でコメの価格が下がることを不安視する農家もいます。
出回りが少ない・価格の上昇などのときに放出するのであれば、豊作のときには逆に買い取って備蓄するなり、再生産可能な価格への補塡をしてもらいたいという生産者の思いもあります。そのことは消費者への価格の安定に繫がるし、生産者の意欲にも繫がり、経営も成り立っていくわけです。
飼料高騰で苦しむ酪農
日本全体の半分以上の生乳生産している北海道ですが、生産者は2年間で480戸程度が廃業しています。飼料価格高騰などで経営困難に陥り離農する方や、赤字が続くのであれば今やめたほうが良いと判断する生産者は60代から70代の方が多いんです。
コロナ禍前の酪農は、3Kの典型と言われた現場にプール乳価や初妊牛価格の上昇などで経営的に上向いていました。その時期に頑張って貯金したお金で赤字を埋めている状況が続いている生産者も少なくないんです。また、後継者もいないので、まだ貯金があるうちにやめようという人が多いんですよ。地元の先輩でも、生乳の搾りを全部やめて子牛の肥育に切り替えた生産者もいます。
2017年ごろから、「牛乳が足りないから増産してくれ」といわれ、北海道では搾乳ロボットや牛舎をつけ増ししたら交付金の対象となる施策が打ち出され、それに乗って投資した人も多いんです。そういう人たちがやめるにやめられない現状もあります。
作っても販売ルートがない
北海道は、国内自給率が低い麦・大豆を作っていくことも目標に掲げています。農水省からも「ウクライナ侵略で世界の穀物が不安定化しているから、多く作付けしてほしい」と言われ、増産の施策が打ち出され私も作付面積の拡大をしました。ところが、麦を入札にかけても落札残が発生したり、大豆も入札価格が下がったりするなど、国産の実需側の需給調整がなされていないんです。
なぜかというと、麦でいえばアメリカからの輸入に依存している製粉業者は「粉」として輸入してます。輸入した粉はタンパク含有率が安定しているからカップ麵などへ加工しやすい。国産の麦は安定していない、扱いづらいという話なんです。
われわれ組織が早くから要請していることは、例えば大豆にしても麦にしても多くを輸入に頼っている穀物等を「国産で作れ」というなら、作ったものはきちっと消費できる流通ルートを作って、国産に置き換えてほしいということです。作っても国内産価格が下がるんだったら本末転倒です。
またてん菜ですが、コロナ禍で砂糖の需要が減って適正在庫が約2倍になりました。「在庫を減らせ」との号令で、作付面積を縮小したんですが、畑作専用地帯では麦・大豆・てん菜・澱原馬鈴薯(でんぷんの原料になるジャガイモ)、この4品を輪作しながら作っていましたが、その輪作体系が崩れつつあります。
てん菜は、糖価調整制度の赤字問題もあり、農水省は他作物への転換としててん菜を5年間作らなかったら10アールあたり3万円を助成するという事業を打ち出した。それはおかしい。5年間作るのを止めたら、てん菜を掘り起こす機械などが使えなくなる恐れがあり、仮にその後新たに機械買って作れと言われても高価で採算が合わず、改めて作付けする環境にはなりません。
澱原馬鈴薯ですが、北海道には以前はでんぷん工場がいろんなところにあったのですが、今は輸入の方が安いので輸入せざるを得ない状況です。また、まだ原因はわからないんですが、シロシストセンチュウも地域によっては蔓延し対策を行ったり、ここ2年暑かったこともあって収穫量が激減するなどの要因もあります。国内の需要はあっても、「アメリカから輸入をせざる得ない」となるんですね。畑作全般を見ても、生産資材の高騰なども相まって、経営は厳しい状況です。野菜では、一昨年は記録的高温で病気や収量減が発生するなど良くなかったのですが、昨年は9月から多少涼しくなって収量は伸びました。キャベツも今シーズンは高値が続きまして、わが町、和寒町の越冬キャベツは大当たりしました。
北海道も温暖化の影響を受けていますが、本州に比べるとまだ作付けできる野菜も多くあります。北海道農業には自給率向上という大きな役割があると思っています。
食料安全保障の
確立を求める
北海道といえども、生産資材の高騰や機械等の投資などにより米、畑作、それから酪農・畜産も非常に厳しく、大きい農家ほど赤字になっています。ただ、北海道の食料自給率は200%以上です。だからこそ、北海道としてのプライドもあるし意地もあるので、農業者としては、使命をもって作っていかなきゃいけないなという強い思いでいます。
われわれ組織は、昨年の食料・農業・農村基本法の4半世紀ぶりの改正では、世界の食料事情の変化などに備え、国内農業生産の増大を基本とした政策に転換されると本当に期待しました。食料安全保障の確立というのが一番に謳われたわけですから。それを実現するには、食料の確保・食料自給率向上に向け、食料安全保障予算の確保が必要です。しかし、予算は20億円しか増えていないんです。
国家の政策としての食料安全保障の基本は、食料自給率を上げることであり、先進国の中でも最低という自給率の向上がいまだにできてないし、国内農畜産物の増産を促すための中長期的な政策が不可欠です。
もう一つは、国民への安定的な食料調達と合理的な価格での提供です。そのことは、異常気象での農産物の豊凶時も含めて、備蓄と輸出のバランスを図るシステムを構築することが必要です。将来、足りなくなる可能性があるときは備蓄を確保し、豊作で余ったときは輸出する。この仕組みを構築しない限り作物の需給バランスは取れないと思っており、輸入に頼らない政策、このことが食料安全保障に最終的にはつながってきます。
そもそも国民の命を守る食料の確保ということからいうと、備蓄が少なすぎます。1993年のコメの凶作では、備蓄制度がなく、政府の在庫量は20万トン程度しかなかったと聞いており、外国産米が入ってきた年でした。それが今の備蓄米は、100万トンの回転備蓄でしかありません。
世界的な穀倉地帯であるウクライナで戦争が起きました。ガザ戦争でも運河の輸送が滞って燃料が上がったりしており、気候変動や世界の人口増加もあります。
そういう時代になったことを踏まえて、国民の皆さんにも自分たちの命を守るために、食料安全保障について一緒に考えていただきたい。国が食料自給率を上げるための政策をきちっと打ち出せば、われわれもそれに沿って一生懸命頑張ります。
昔の農民運動は農水省とか国会の前で、価格闘争として鉢巻きして座り込みました。以前のような運動から、政策提案型となり少数精鋭で要請する時代となっています。しかし、われわれが他の組織と違うのは、米、畑、酪農、畜産を中心に現場の人たちがそれぞれ春闘、秋闘という形で東京に行き、農水省や国会に「こんな現状だ」と実情を伝える努力を強めていることです。農政に現場の意見を反映してほしいと願っています。
農民の声を直接政治に反映させていくことが、農民連盟の組織強化のいちばん肝心なところです。