米国のために中国と戦争させられる日本を拒否する
ノーモア沖縄戦・命どぅ宝の会共同代表 具志堅 隆松
台湾有事がマスコミに取り上げられて数年になるが、果たして台湾海峡と沖縄を舞台に日本・中国・米国による戦争が起きるのだろうか。残念ながら私たちの周りで起きていることを冷静に見れば戦争の可能性は限りなく高いと言わざるを得ない。
米軍は台湾を守るためには日本の協力、具体的には沖縄の島々を中国攻撃に使うことが必要だと述べている。このことを逆に沖縄の立場から考えれば、沖縄の島々を対中ミサイル攻撃に使えなければ日米両軍による中国軍との衝突はなく、沖縄は戦場にならないということである。絶対必要なことは自衛隊がミサイルを持って沖縄から出て行くことである。
自衛隊の協力がなければ台湾有事は起きないのだ。米軍は米軍だけで中国軍と戦うつもりはない。2015年の日米ガイドラインには「米軍は自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」とある。自衛隊を戦争の矢面に立て、米軍は後ろで補完するというのだ。さらに在日米軍は有事の兆候があればグアム島の東側まで撤退する訓練ACEを17年以降取り組んでいる。
米国のために中国と戦争させられる日本
これは有事になれば米軍は日本から逃げるということであり、この米軍の構想が判明した時点で日米安全保障条約は破綻したと言わざるを得ない。それを当時の安倍首相は日米安全保障条約の実質的破綻には触れず「日本の防衛は日本が責任を持つ」と弁解を述べた。そして、ほとんどの国民はその意味を理解していない。
米国はなぜそこまでして台湾を守りたいのか。台湾を守りたいのではなく、中国の成長の足を引っ張りたいのだ。米国は経済・軍事の世界ナンバーワンである。しかし、中国に追い越されようとしている。
中国と日本を戦争させれば米国の優位は安泰である。日本は米国のために中国と戦争させられようとしているのだ。決して防衛戦ではない。日本が攻撃されるわけではないのに米軍と一緒に中国軍にミサイル攻撃するのは愚かである。自衛隊員が戦死するということは日本が戦争に突入するということである。自衛隊員を戦死させないためにも自衛隊はミサイルを持って沖縄から出て行くべきである。
沖縄から日米両軍は
全面撤退せよ
私は沖縄から日米両軍の全面撤退を提唱したい。それは戦争回避であり、沖縄だけでなく全国民のためにも必要なことである。
米軍撤去に関しては、理由は二つある。
戦後80年も異民族の軍隊が駐留するのは異常である。米軍基地が沖縄に在る最初の原因は沖縄戦である。沖縄戦は県民が起こしたわけではない。軍隊がいない沖縄に「沖縄を守る」と言って日本軍が来て駐屯し、その日本軍を攻撃するために米軍がやって来て、沖縄で住民を巻き込んで地上戦が始まったのだ。これは断言できるが、沖縄に日本軍がいなかったら沖縄戦は起こらなかった。
米軍に一時的に占領されることはあっても、戦う相手がいないので戦争は成立しないのだ。「占領」と「戦争」全く別物である。武力を持たない者が戦わずに白旗を掲げて占領者と交渉するのは正当なことで、恥ずかしいことではない。私たちは沖縄戦という甚大な戦災に遭わされただけでなく、米軍基地負担という負うべきでない負債まで負わされている。私たちに沖縄戦の責任はない。沖縄の米軍基地の存在は断って当然の話である。
日本政府の植民地的
沖縄差別
米軍を撤退させるもう一つの理由は、日本政府による植民地的な沖縄差別である。国土面積の0・6%しかない沖縄に在日米軍の70%を押しつけるというのは差別である。沖縄県民は日本からの米軍基地の押しつけという沖縄差別を拒否する。
米軍基地は経済発展の最大の阻害要因であるという事実は県民にも定着した。日米両政府はこれまで沖縄が地理的に軍事上重要な位置にあるということを基地を置く理由にしていた。このことは逆に私たちの立場から言えば、軍事基地に使わせなければ「沖縄に戦争を引き寄せることはない」ということである。
私たちが決意すれば琉球列島を平和の緩衝地帯にすることができるのだ。米軍基地から派生する女性への忌まわしい性暴行や事故を次世代にまで背負わせるのは、今を生きる私たち大人の次世代に対する責任放棄(ネグレクト)である。
中国に侵略されるのか
それでは県民にとって沖縄から日米両軍を全面撤去させることに、払拭された経済不安以外にどのような不安要因があるのか、私がこのことを周りの人たちに尋ねると何人かの人が中国の存在を指摘する。つまり琉球列島が基地のない島になったら、沖縄は中国に侵略されるのではないかと言うのだ。
確かに、今の本土の大手マスコミの嫌中感を煽るような報道に日々接していれば、そのような思いに至るのも無理はないだろう。
それでは中国にとってはどうだろうか。琉球列島が非軍事化されたら、中国はチャンスと見て沖縄占領に動くのだろうか。そのことを当の中国に表明を求めることができないかと私は考えていた。
そのチャンスが来た。2024年12月5・6日に中国の上海で開催される「グローバルサウス・インターナショナル・フォーラム」に参加要請が来たのだ。グローバルサウス諸国37カ国、300人余が一堂に会する大会である。その中に今回は初めて「両岸問題」というセクションが全体会議の中の3番目に設定された。沖縄からは私と清水早子さんの二人で、清水さんは宮古島における陸上自衛隊配備の状況を報告した。
中国に非軍事の琉球列島
への軍事関与否定を求める
私は報告の主たる内容として「東アジアを戦場にさせないために沖縄の非軍事化を目指したい。しかし、非軍事化の後に中国の進出が危惧される。中国は非軍事化された沖縄に軍事的関与をしないということを表明できますか」と報告原稿を事前に提出した。しかし、私の発表はフォーラムでの報告というよりは主催者である中国側への質問または要請である。
案の定主催側から、5日の夜に「交流会」を設けるのでその席で発表していただきたいと連絡が来た。
その「交流会」の会場に行って見てびっくりした。私は立食パーティーのような懇親会的なものを想定していた。ところが会場には会議用テーブルが対面で並べられ、席には参加者の名札が置かれ、同時通訳のイヤホンまで置かれている。これは完全な国際会議である。
会議には、フォーラム関係者以外の上海海峡両岸研究会会長、上海市人民政府台湾事務弁公室研究室主任である顧祖華さんを筆頭に中国側学者や今回の上海グローバルサウス・インターナショナル・フォーラム主催責任者である華東大学学長の呂新雨さんも出席した。上海市と台北市は2010年から都市間フォーラム「双城論壇」を継続しており、それは数少ない中台間の公的対話の場である。その構成を成すのが上海市人民政府台湾事務弁公室であり、そこの研究室の主任である顧祖華さんが「交流会」に来てくださったのである。
「交流会」は第3セクション参加者を中心にした50人余参加の会議で、予定時間を1時間以上もオーバーする白熱した内容になった。各スピーカーの発言は紙幅の関係で紹介できないが、私と顧祖華さんとのやり取りは、「沖縄が非軍事化されても中国は沖縄に侵攻しないということを表明できますか」という質問に顧祖華氏は「個人的な立場で話すが、私は中国軍が沖縄に行くという話を聞いたことがない。日中戦争の可能性はごく小さい。それは日本の自衛隊が米国のために戦う場合で、これは日本の問題である。両岸の平和統一のために米国の介入に反対して子々孫々の友好を実現する。中国は絶対に戦争を起こさない」という明解な回答であった。これは予想以上の回答であった。
知事は中国側の不戦意思の確認を
ここで、これまでの動きを客観的に振り返ってみる。私たち「ノーモア沖縄戦・命どぅ宝の会」は沖縄を二度と戦場にさせないという目的のために設立し声を上げ活動してきた。私たちは沖縄が戦争に巻き込まれないためには沖縄の非軍事化が必要であると声を上げてきた。
しかし、沖縄の中ですら中国の存在の故に、基地がなくなることに不安を感じる人はいる。そこで沖縄に対する中国の考えを知りたくて、今回の上海フォーラムで中国側に表明を求めた次第であり、先の顧祖華氏の説明につながったのだが、今回のやり取りはまだ完全ではなく、入り口にたどり着いたようなものである。なぜなら私たちは市民団体でしかない。沖縄の市民団体が世界の二大大国である中国に政治的な質問をするというのは分不相応である。それでも、そのような私たちに真摯に対応してくれた中国には懐の深さを感じ感謝する。私たちが分不相応を承知であえて中国に質問をしたのは、沖縄を非軍事化することは沖縄県民の生存がかかっているからだ。
普通このような交渉は両国のトップの政治家によって行われるものだが、日本政府に期待するのは無理である。なぜなら日本政府は沖縄に基地を置くだけでなく、次々と巨費を投入して新基地を造り、県民の命を何とも思わず米国のために沖縄から中国を攻撃しようとしている立場である。
私が期待しているのは玉城デニー沖縄県知事である。デニー知事はぜひとも県民の安全のために中国側の不戦の意思を確認してほしい。
その次に私たちが見据えているのは、県民の生き残りのため沖縄から日米両軍の全面撤去を県民に問う〝県民投票〟である。さらに国連の平和機関の沖縄誘致である。世界でウクライナや中東に次ぐ戦争の可能性が高い地域は台湾海峡や北朝鮮を含む東アジアであることは既に指摘されている。
琉球列島は平和の緩衝地帯になる
東アジアに平和のための国連機関設置は世界の目で見ても必要である。ユーラシア大陸東岸に沿って弓なりに位置する琉球列島を非軍事化して国連の平和機関が常在すれば、琉球列島は平和の緩衝地帯になる。沖縄だけでなくアジアを含めた世界の平和に貢献することができる。
私たちが提案する県民投票は、迫りくる戦争から逃れるために私たちが沖縄を棄てて他府県に移住するのか、それとも戦争そのものを回避するために日米両軍に沖縄から出て行ってもらうのか、そのことを県民に問う県民投票である。その意義は、仕事や不動産を放棄して本土への避難を押し付けられている宮古・八重山・与那国の住民であれば、より身近な問題提起であろう。今の沖縄は日米の軍事植民地である。植民地状態から脱却するのは世界各国の歴史を見ても正当な選択である。私たちは子供たちの未来のためにも軍事基地のない沖縄を子供たちに引き渡す責任がある。今年は戦後80年にあたる。戦争の恐怖と基地から起こる事件・事故と決別するためにも、今年を県民が日米両軍基地の全面撤去を心に決意する年にしてほしい。
日本と沖縄の関係を比喩的に表現すれば、日本は沖縄にとって親でも本家でもない。私たちにとって私たちが「むーとぅ家(本家)」なのだ。私たちは精神的自立をするべきである。