中国・グローバルサウスとの平和協力関係へ

日中共同声明は、今も生かすべき日本外交の原点

『日本の進路』編集長 山本 正治

 石破茂新首相は衆議院を解散してその足で10月10日未明、ラオスに向かった。ASEAN首脳会議に参加し、李強中国首相と首脳会談を行った。日中関係打開に向けて、「台湾問題において『日中共同声明』を堅持するという日本の立場に変更はない」と明言した。これは当然のこととはいえ、最近の政府首脳からは聞かれぬ立場であり、英断と言える。
 命脈尽き内部対立も激化する自民党中心の連立政権であり、しかも政治状況は総選挙結果でどうなるか分からない。
 しかし、日本にとって中国をはじめとするアジアとの関係は文字通り死活的だ。何よりも平和でなくてはならないし、経済関係は切っても切れない間柄だ。「地球沸騰」などと言われる危機的な世界で、食料やエネルギー、環境協力なども急がれる。
 中国はじめアジア、グローバルサウスとの平和的な協力関係を発展させられるか、わが国の最大の政治課題である。

「米国の時代」は過去のものに

 日米戦争敗戦でわが国は、国家主権を大幅に制約された米国の事実上の従属国となってまもなく80年を迎える。第2次大戦後もアジアは、朝鮮、ベトナム、湾岸など米軍が介入した幾多の戦争を経験した。ベトナムは独立と統一を闘い取ったが、朝鮮半島は分断され南半分の韓国は米軍庇護の属国を強いられている。朝鮮民主主義人民共和国は米韓の厳しい軍事的圧力にさらされている。中国は台湾解放を米軍に阻まれ祖国統一を最大の民族課題として残したままだ。
 しかし、世界の力関係は大きく変わった。
 とりわけ米中関係は激変した。 一方の米国は、国力は衰え、大統領選中だが「内戦の危機」と言われるほど国内対立が激しい。それだけに危機を外に転嫁する中国との「戦争」の誘惑は支配層に広がるだろう。だが、ウクライナ、そして中東での戦争を抱える米国に「同時に」の余裕はない。
 他方、中国は強大化を遂げ、国力は米国をすでに大きく上回っている。米国の対中国圧殺策動に対しても、「時は味方」である。
 米国は、日本の軍事面での協力なしに対中国で何もできない。「台湾有事」などと戦争をたくらんでも在日米軍、とりわけ沖縄の基地なしには裸の王様だ。
 時代は、ウクライナ、中東の戦争、そして、次は東アジアかなどと言われる戦争の世界である。
 世界政治・経済の重心がテンポを速めて南の側へ移動している。中国とグローバルサウスの側はますます発展し、米国とG7など北側、「先進国」の力は相対化している。
 今、わが国の選択は、わが国はもちろん、アジアの将来を決めることになる。心して立ち向かわなくてはならない。自衛隊が対中国戦線の先陣を切るような暴挙を許してはならない。

ASEANの選択

 東アジアの南半分、ASEANでは重大な変化が進んでいる。
 今年4月、シンガポールのシンクタンクが発表したASEAN10カ国の識者などを対象とした調査結果は注目された。
 ASEANが、中国か米国のいずれかと同盟を結ぶことを余儀なくされた場合、「中国を選ぶべきだ」と回答した割合が初めて50・5%と半数を超えた(前回23年、「中国」を選ぶは38・9%だった)。国別ではマレーシアが75・1%で最も高く、インドネシア(73・2%)と続く。前回と比べて「中国」との回答はマレーシアとラオスでは20%以上、インドネシアでも20%近く急増した。東南アジアで「政治・戦略上の影響力」の大きな国では、「中国」が最も多かった(前回41・5%、今回43・9%)。一方、「米国」は大きく低下した(31・9%→25・8%)。
 1967年ベトナム戦争中に米国が主導し、地域の「反共国家」を集めて始まったASEANだ。だが、1997年30周年を迎えて、折からのアジア通貨危機に対処するためもあり日本、中国、韓国を加えた「+3首脳会議」を開催し、転機を迎えていた。それからさらに30年近く、文字通り歴史的転換点を超えたようだ。
 振り返ってみて今年は、インドのネルー首相と中国・周恩来首相が1954年、「相互の領土と主権の尊重、相互不可侵、内政不干渉、平等互恵、平和的共存」の5原則を確認して70年目の記念すべき年だった。「5原則」は、翌55年の「アジア・アフリカ会議」宣言(バンドン宣言)となり、「普遍的に適用される国際関係の規範となった」(習近平中国主席)。
 転換点を迎えてASEANは今、「人類の進歩に極めて重要な役割を果たしている」(同前)。東アジアは変わった。

中国などBRICSの発展は続く

 中国・ロシアなどが主導するBRICS首脳会議が10月末にロシアで開かれ、「真に包括的で公正なグローバル統治システム」を主張した。BRICSは総人口が世界の4割超、GDPはすでに世界の35%、30年には5割を超すとみられる。
 グラフはGDP世界シェアを購買力平価(PPP)で見たものである(なお、このBRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのみ)。
 中国は2017年に米国を上回った。IMFはさらに29年に中国は19・5%に伸張し、米国は14・7%まで後退、さらに差が開くと予測する。中国を中心にBRICSの躍進もめざましい。BRICS合計は2021年にG7合計を上回り、29年予測ではBRICS34%に対しG7は27%にとどまる。


 この趨勢はさらに進む。わが国文部科学省の発表によると、ハイテクノロジー(医薬品、電子機器、宇宙・航空の3分野)産業貿易で、中国は9942億ドル、米国は3866億ドル、3位はドイツだが3000億ドルに届かない。日本は1200億ドル(以上は21年輸出額)。
 デジタル技術研究面でも中国が世界でダントツである。同じ発表で20~22年平均の科学論文のなかでも「注目度の高い論文」として引用された回数が上位10%に入る論文数は、1位が中国で6万4138(シェア31・8%)、2位は米国で3万4994(17・4%)だった。これに英国、インドなどと続く。
 また、オーストラリアの豪戦略政策研究所(ASPI)の先端技術研究の国別競争力ランキングも注目された(日経新聞8月28日)。人工知能(AI)など軍事転用可能なものを含む64の重要技術の9割近い57で中国が首位だった。米中の競争力は完全に逆転している。

危険な米国の策動と手を切るべき

 ところがASPIは、「技術独占による安全保障リスクの回避へ米英豪と日韓の協力」を提言する。日経新聞もそれを推奨する記事を書いた。
 だがなぜ、世界の趨勢と逆らわなくてはいけないのか。平和を確保し、国民生活が向上すれば良いではないか。発展と繁栄の東アジアが目の前に広がっている。中国と協力関係を築くべきである。
 決断の時である。軍事力強化で、米軍の尻馬に乗って中国に対抗するなど、時代錯誤そのものだ。米国一辺倒でなく、自主的にアジア共生の道を選ぶときである。

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