激増する大規模災害 求められる万全の対策

問われる市町村の災害対策への姿勢

求められる深刻な自治体間格差解消

弁護士(南山法律事務所) 小口 幸人

 私は東日本大震災が発生した際、岩手県宮古市という被災地にいました。それから13年間、日本弁護士連合会災害復興支援委員会に所属し、被災者の復興支援に携わり続けています。
 昨今、顕在化しているのは自治体間格差です。言うまでもありませんが、わが国は災害大国です。そして災害対応の主役は市町村ですので、全ての市町村において万全の災害対策を整える必要があり、多くの市民はそれを望んでいます(だからこそ、多くの立候補者の公約に「災害対策」が明記されています)。
 しかし、例えば、円滑な災害救助法4号適用に向けた体制整備、災害救助法特別基準活用のための備え、応急危険度判定、罹災証明書の発行業務、そのための住家被害認定の体制整備、災害関連死の審査と災害弔慰金の支給事務、避難所・仮設住宅・みなし仮設住宅・災害公営住宅の適切な運用、公費解体の運用など、災害発生時に自治体が対応しなければならない各種業務を円滑に実行するための備えは、ほとんどの市町村において十分とは言い難い状況にあります。語弊を恐れずに言えば、地域防災計画は形だけ作ったけれどそのままであり、災害対応といえば公民館や体育館の避難所開設までという自治体が多い印象を受けています。
 例えば、昨年日本弁護士連合会は全国の市町村に対し、「罹災証明書交付申請において、被災住家の写真の提出を求める取扱いの是正を求める意見書」[1]を発出しました。

[1] 2023年9月15日日本弁護士連合会「罹災証明書交付申請において、被害住家の写真の提出を求める等の取扱いの是正を求める意見書」https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2023/230915_2.html

 詳細は省きますが、要するに、市町村には罹災証明書の発行義務と、その前提となる調査義務があり、被災者から被害写真や修理見積書の提出がなければ受け付けないという対応をしてはならないのに(被災者には極力負担をかけてはならない)、非常に多数の市町村が、ウェブサイト等で堂々と「必要書類」として被害写真や修理見積書の添付を告知していたという出来事がありました。しかも、内閣府防災が令和2(2020)年7月6日付事務連絡で、「申請時に写真の添付は必須ではありませんので、念のため申し添えます。被災者に必要以上の負担をかけないようにする観点から、自己判定方式による申請ではないにもかかわらず、罹災証明書の申請にあたり写真の添付や提示を必須とすることがないようご留意ください」とはっきりクッキリ明記していたにもかかわらずです(いまだに対応未了の市町村も相当数あります)。
 また、令和2年に内閣府防災は、罹災証明書の「統一書式」を策定し全国に通知しました。災害対策基本法の改正により罹災証明の発行が法律上の義務になったこと、大規模災害時に駆けつけた応援職員が円滑に事務に取りかかれるようにするためという目的でした。しかし、多くの市町村は全国統一書式を無視し、昔から使っているオリジナルの書式にこだわり続けており(見直しがされていないとも言えますが)、その影響もあり、違法な罹災証明書が発行されるという悲劇も生じています[2]

[2] 災害対策基本法90条の2記載のとおり、住家の被害の程度が記載されている書面が罹災証明書です。住家の被害の程度としては、全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・準半壊に至らない(一部損壊)の6種類があります。これとは別の浸水区分として床上浸水、床下浸水というものもあります。床上浸水とだけ記載して、住家の被害の程度を記載しない罹災証明書が発行されることがありますが、これは、法90条の2の要件を満たしていないので違法な罹災証明書ということになります。

 条例の格差という問題もあります。国は10世帯以上の全壊被害が発生した市町村等を対象に被災者生活再建支援法を適用しており、適用した場合は、一世帯当たり最大300万円の支援金が支給されます(被災者生活再建支援金)。他方、適用に至らない規模の災害については、国は、都道府県や市町村が同水準の支援を条例等で定めることにより対処すべきだという立場をとっており、長年その制定を促しています。実際、今年7月25日からの大雨により山形県内と秋田県内に大きな被害が発生しましたが、そこまでの規模ではなかったため、山形県内の一部の市町村に被災者生活再建支援法が適用されただけでした。つまり、秋田と山形の県の支援制度が注目される場面です。
 実際、山形県では、過去の災害を踏まえ、令和4年に法律と同水準の被災者生活再建支援事業が策定されていましたので問題ありませんでした。しかし、秋田県では同様の制度が策定されていませんので、県境のどちら側かによって、受けられる支援に大きな差が生じるという状態が生じています。
 他にも、法律が2019年から努力義務を課している、災害弔慰金の支給等に関する条例の改正が未了の自治体が多数あり今年5月6日に大きく報道されたり[3]、同居の兄弟姉妹にも災害弔慰金を支給できる法改正(11年)への対応未了の条例が多数存在するなどの問題もあります。

[3] 2024年5月6日「災害関連死、審査備え進まず 条例の設置規定なし48%」(共同通信配信、全国40の地方紙で報道)

災害対策の主役はあくまでも市町村

 このような「地方自治の弊害」としか言いようのない事態を次々見せつけられますと、地方自治などやめて国に任せた方がよいのではないか、実際多くの市町村は、国や県がやってくれるだろう状態になっているのだからと言いたくもなります。
 しかし、なかには地方自治を生かし、より実態に即した対応をすることで、被災者・被災地の復興につなげている自治体もあります。実は内閣府防災もそれを望んでいます。
 内閣府防災は、今年5月、住家被害認定基準運用指針を改定し、その冒頭、総則の目的の部分に、「なお、市町村が、地域の実情、災害の規模等に応じ、本運用指針に定める調査方法や判定方法によらずに被害認定調査を行うことを妨げるものではない」という一文をわざわざ挿入しました。
 内閣府防災は、住家被害の認定基準を公表はしていますが、あくまでも被害認定は自治事務であり参考資料でしかありません。実際、全国の住家はその気候・地域性を踏まえた構造をしており、災害時の壊れ方も地域ごとに異なるので、地域性を踏まえる必要があります。そのことは、従前から指針に書いてあるのですが、ちゃんと読まず、これを理解しないで絶対の基準であるかのよう捉え、実情に合わない形で運用され、その結果実情に合わない罹災証明が多数発行され、被災者が多くの不満を抱くという問題が発生してきました。
 災害対応の主役は、あくまでも市町村です。通常業務で忙しいとは思いますが、万全の災害への備えは、多くの市民の願いでもありますので、過去の被災地の職員を招いて研修を行うなどの機会を設けて、災害対策への姿勢を抜本的に改善していただけたら幸いです。