農業基本法改正 ■ インタビュー 徳永 エリ

食料自給向上のための抜本的な農業者支援を

参議院議員 徳永 エリ

 日本の農業は崖っぷちに来ています。高齢化問題もあり、あらゆる産業で担い手不足、後継者不足を抱えています。とりわけ日本農業は深刻です。いま116万人の基幹的農業従事者が、20年後には4分の1の30万人という予測があります。30万人になってしまったら、農地も守れない、国民の食料も作れない。本当に取り返しがつかなくなったそのときはもう完全に崩壊します。日本農業の危機は、農産物を海外に依存し国内農業を軽視してきた、この間の農政の失敗の結果です。


 生産コストは戦争や円安の影響でどんどん上がっていって、所得もマイナスという方々もおられますし、また温暖化の影響もあってですね、せっかく作っても、いろんな被害が出たり品質が下がったり価格が下がったりしてですね、中山間地はとくに深刻です。
 このままではあと5年ももたないかもしれないという地域の現実があります。一方で世界的に食料危機の危険は高まっています。日本が農産物を輸入している国がもし不作になったらどうするのか。政府は食料輸入のために良好な関係強化などと言っていますが、自国民の食料を差し置いて他国(日本)に輸出するなんてことはあり得ません。
 そういう危機的な状況を本当に政府がわかっているかが大きな問題です。岸田首相は、食料・農業・農村基本法の改正――25年ぶりの抜本的な改革だと言われました。しかし、この間の反省や危機感もなく、実際の内容は抜本的な改革にはなっていません。

柱に自給率向上を

 改正案の問題点はいろいろありますが、岸田首相は「農業は国の基」だと言われながら、改正案では自給率の向上が柱になっていません。やはり平時から国内生産をどう高めて自給率を上げていくか、これを一番の基本にすべきだと思います。
 生産コストが上がっているのに、農産物価格があまりにも安すぎるという価格転嫁の問題。どう価格転嫁するか、農水省もいい策は見つからず、生産から流通小売りまで関連する人たちで話し合って、合理的な価格を決めてくださいと、丸投げしました。農林水産省が主導して、農家の皆さんが安心して営農を進めていける価格転嫁っていうことが、とてもこの法律ではできるようには思えません。
 多面的機能は条文上残ってはいますけれども、この重要性をきちんと評価すべきだと思います。最近は農業が環境に負荷をかけていることばかり強調されています。しかし、農業が環境に与える多面的機能はもっと強調すべきです。気候変動で豪雨や高温などが多発するようになって、水田のダム機能はますます重要になってきます。逆に雨不足もあり、地下水の涵養という点でも水田の機能は重要です。それから生物多様性という面でも、水田の多面的機能を本当に評価しているのか疑問です。
 水田の畑作化・汎用化を条文に入れて強調されています。米の需要が減り、需要のある麦や大豆の生産量を増やし国産化を進めるために、水田をどんどんなくして畑地化にしていく方針には大変に懸念があります。水田活用の直接支払交付金の交付条件が厳格化され、条件を満たさなければ交付金は打ち切る。水田をつぶす手切れ金だと批判が出ています。
 また、麦や大豆を量産していくというなら、畑作化の助成を5年限りというのは問題です。条件不利地では収量も上がらず、ゲタ対策だけでは経営は続けられませんし、高齢農家の労働力負担の軽減という観点からも、水田を守ることが明確に担保されてないところが非常に問題だと思います。

種の自給を

 遺伝資源、つまり種の自給を改正案に入れてほしかった。種がなければ農作物は作れません。現在、種の9割がF1(一代限りの種)、しかも海外からの輸入です。農水省は日本の種子メーカーが海外で作っている種だから大丈夫だと言っています。しかし、輸入できなくなったらという問題があるので、やはり種の自給は重要だと思います。また地域の在来種を保全していくことも大事です。種、遺伝資源のことをしっかり条文の中に盛り込んでもらいたかった。
 飼料とか肥料など生産資材を、安価だからといって輸入に頼っていた。戦争などを契機に、突然高い値段になってしまって、とてもやっていけないっていう状況にみんな追い込まれてしまった。やはり、種も含めて国内で生産していける、そういった基盤づくりが大事だと思います。

農業を継続できる
支援策を

 国民の食料を輸入に依存する政策は、戦争や気候変動を考えると危険です。岸田首相が「農業は基」と発言されています。25年ぶりの抜本改正ですから、平時から国内生産を強化して食料自給率を高めることを一番の基本にすべきだと思います。
 そのためには家族経営も含め、規模の大小にかかわらず、いま農業に従事する人たちが安心してできるだけ長く続けていけるそういう政策提言が必要です。農業はやりがいがある、消費者・国民の皆さんに食料を作っているってことで喜んでもらえるんだ、そして自分たちも安心して経営を続けていけるんだという環境を急いでつくらなきゃいけない。
 生産コストは円安の影響もあってどんどん上がっていって、所得もマイナスという方々もおられますし、また温暖化の影響もあって、いろんな被害が出てさらに赤字が膨らんでいます。円安も含めて生産コストの上昇は農家の責任ではありません。しかし、消費者の実質賃金が上がらないで生産コストを農産物価格にすべて転嫁することは容易ではありません。農水省も結局できませんでした。
 飼料や肥料の高騰などで生産コストの上昇分を国が補塡する直接支払制度が必要だと思います。政府は、現行の米・畑作物の収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)などがあるからと、導入には否定的です。しかし、現状の制度ではとても足りません。
 あわせて、農地を農地として維持する農家に、農地面積に応じて交付金を支払う制度が必要だと思います。10アール当たりいくらっていう形での交付金です。
 今、農業の将来展望が見えない中で優良な農地が失われています。典型は半導体工場が誘致された熊本県や北海道です。今が農地を売るチャンスだと農家の方々が思ってしまう実情があります。農地を失うと元に戻すのは困難です。
 多面的機能の観点からは農地利用の水田が一番いいんです。水田以外でも、菜種やソバでもいいから、農地をしっかり維持していただく。農地として維持していれば、いざそれこそ食糧危機にも対応できます。
 さらに新規の農業者が増えるような制度、新規就農者への支援制度が必要だと思います。政府は、今回農地法を改正して企業がますます農業に参入しやすい環境をつくって、そして雇用就農という形をつくっていこうとしています。私は農事法人で雇用就農していく形をつくってもいいではないかと思います。農業の担い手をどう確保するか、企業的経営だけでは農村や地域は存続できません。真剣に考えなければなりません。

農業予算の増額を

 輸入依存で国内農業軽視の政策から、抜本的に転換するためには国内生産を強化するための農業予算を増加すべきです。直接支払いや農地の交付金など農業予算の増額が必要です。
 坂本農水大臣の、環境に優しい有機農業への支援を2027年度ぐらいから検討したいとの発言がありました。背景には有機農業を全農地の4分の1(25%)にするという「みどり戦略」があります。その実現は容易でなく、そのためのインセンティブだと思います。問題は環境負荷低減に協力した農家にちゃんと予算が付くかどうか。今のところ選挙を見据えた対策ではないか。具体的な制度設計はこれからっていうことなので注視をしていきたい。問題があれば、改善を求めていきたいと思います。
 国民の食料の安定的確保と農業者の未来がかかっています。農業問題は農業者だけの問題ではなく、国民の命である食料という国民全体の問題です。国民的理解や議論が必要だと思います。与党とも協議をし、修正案の提出も含めて、しっかりと取り組みたいと思っています。

(見出しも含めて文責編集部)