「台湾有事」に揺れる八重山諸島 長岡秀則

避難計画モデルケースになって

多良間島村民(喫茶店経営) 長岡 秀則

 地元紙が4月1日に報道した。「台湾有事」に備えるとして沖縄県の先島諸島住民や観光客計約12万人を九州に避難させる政府の計画のモデルケースに、多良間村が選ばれている。3月には熊本県八代市への避難計画が明らかになった。昨年10月に内閣官房や県、村が開いた意見交換会以降、村民に説明がないまま半年足らずで具体策が示された。村民の頭越しに計画が進む事態に村民は不安を募らせている。

 「多良間村民には何も知らされていない」。島民1000人の移動については島民の一人として断固反対する。
 先の大戦の大本営発表のようだ。正義の戦争だから国民はみな協力せよという命令。今度は、今にも「台湾有事」がありうるかのような宣伝工作を離島住民に行っている。
 去年10月、村のコミュニティー施設で政府と県と村の開催で住民説明会が行われた。政府は「有事の際には島民を避難させる。1000人の島民を飛行機、フェリーを使用し鹿児島空港から熊本県八代市に移動させる。2日間で移動させる」と計画を説明。
 住民の参加者は多くなかったが、「有事はどこの国で起こるのか」「畜産で生計を立てている島民もいる。牛3000頭に誰がエサをやるのか、世話するのか」など意見が相次いだ。政府や村の説明には納得がいかないのだ。だが、政府はいつものような官僚的な答弁で「今後の検討課題といたします」との態度に終始した。
可能なのか
 政府が策定した2日間で移動させるという計画。
 宮古諸島、八重山諸島を含めて約12万人を移動(いわゆる疎開だ)が現実にできるのか。有事と言われると賛成者もいるだろうが、反対する住民も存在する。無謀なこの計画を廃止に追い込む運動が起きると思う。
 多良間村は人口1050人、産業サトウキビ農家が230世帯、畜産農家が78世帯、牛が3000頭(八重山諸島合わせると1万頭以上)。
 多良間村は高校がなく中学を卒業すると(今年度卒業生15人)宮古島や沖縄本島の高校に進学する。現在、小学校、中学校合わせて生徒数50人ほどである。
 避難計画には不安の声が多い。「おじい、おばあを連れて行くことはできない。避難先で亡くなった場合どうするのか。保障はあるのか」「1カ月間避難すると言うが休業補償はあるのか。生活費はどうするのか」「牛の世話は誰がするのか」「子供たちの教育はどうなるのか」……
 島民の生活保障をどうするのかなど、大きすぎる問題が山積みだ。その解決策を示さない、示せない、島民の言うことも聞かずつくられた「避難移動計画」に批判の声が大きくなっている。住民説明会は村が理解を示してくれたというモデルをつくるパフォーマンスに過ぎなかった。
 先日、地元のテレビ報道で、「沖縄市の主婦たちが、子供たちの学校給食費に補助をとの声を街頭で訴え、署名集めをしている」といった報道があった。小さなグループだったが、主婦の声を行動で訴えていた。
 多良間島でも、小さな声でも集めて大きな声にと動かされた。

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