能登地震の万全な復興対策を求める

能登半島の復興なくして日本の農山村の未来はなし!

全日本農民組合連合会共同代表 鎌谷 一也

 1月1日に発生した能登半島地震は、地震大国であることを痛感させられるものでした。静かな半島を襲った大地震は幾多の尊い人命を奪い、暮らしを奪い、計り知れない甚大な被害をもたらしました。被災者の方々の心痛をお察しし、寄り添いながら、温かい食事とゆっくり休んで学ぶ場や働く場の提供を一刻も早くと願い、復興に向けた取り組みが急がれることを祈念するばかりです。


 地震、それも巨大地震も決して人ごとではありません。厳しい惨状を自分のこと、家族のこと、地域のこととして受け止め、被災地再興に力を合わせ、再生に向けて行動しなければなりません。

人口減少、耕作激変、
農村崩壊の現実

 今、全国にある中山間地域の農地等の資源は活用されているでしょうか。自給率向上が言われますが、安定的な食料確保はできているでしょうか。
 今日の世界的な食料情勢・気候変動等を考えれば、ただちに着手すべきことがたくさんあります。雨の豊富な日本は、本来、山に蓄えられた養分豊富な水を利用した農業に適しています。農地・林地・農山村を守る日々の営農は、二酸化炭素削減や環境保全・生物多様性の保全などにつながり、未来の扉を開く上でカギとなるはずです。現実はどうでしょうか。農山村は高齢化や人口減少による農地・林地の荒廃が目立ち、受け継いできた美しい里山・里地を引き継ぐことができるか、ふるさとを守っていくことができるか、大きな課題に直面しています。
 私の地域も中山間地域です。農地や地域を守るため、旧町一本の広域の集落営農法人を組織し、現状管内の76%に当たる262ヘクタールを集約しています。もちろん職員のみで管理できようもなく、545人の農家が構成員として参加し、自らの農地は自分で守ることを基本に取り組んできました。しかし、高齢で亡くなられたりなど、職員が直接に営農する農地は当初の40ヘクタールから、5年前は80ヘクタール、昨年は110ヘクタールに増え、2030年には地域の約半分の170ヘクタールを職員が直接耕作せざるを得なくなりそうで心配しています。さらに、法人や担い手がない地域では、人口減少で耕作が激変し、農村崩壊も現実味を帯びている状況です。

全力で農業と地域社会
再生を支援

 能登半島地震の災害復興にあたっては、激甚災害指定はむろんのこと、寸断された道路の修復を急いで孤立からの脱却、悲嘆の底にある農家に対し、生産手段である農地等の復興、農業機械の導入や生産システムの確立支援、さらには、所得補償対策など、喫緊の対策が必要です。被災地の能登の農業・農村の再生復興は、今後の日本の農業と農村を展望する上でも重要な一歩となります。政府は万全な対策をとるべきです。
 1月24日の全日農第63回全国定期大会では、被災現地の切実な実態の報告もありました。私たちは上記内容で緊急に特別決議を行い、政府の対策を強く求めて、農水省へ要請文を提出しました。私たちもまた、全力を挙げて被災地の農業および農村地域社会の再生に向けて支援することも決議したところです。

13年前の東日本大震災の経験に学ぶ

 政府の支援施策はあらゆる手段と財政を通じて万全でなければなりません。それは、そこに住む人々がこれまでの日常を取り戻し、培ってきた地域文化や暮らし、歴史・経済含めて取り戻し、安心して暮らすことのできるための支援施策でなければなりません。13年前の東日本大震災時にも、被災地の農家のことを思えば、生活から、営農から、迫る春の農作業準備から、政府ができる対策はすべてやり切り、地域の農家住民による地域再興の取り組みを全面的にバックアップすべきと、緊急に国に要請するとともに、私たちもまた、何ができるかが問われたことを思い出します。
 13年前も、大震災により目の前でふるさとが奪われ、人々は途方に暮れる大惨事でした。築き上げてきたものが破壊され、奪われる口惜しさ、営農や生活の将来の不安、それらを考えると、迎える春の営農の前にできる政府の対策はすべて行い、農家の前向きの姿勢を支えることこそ重要と考え、私たちは2週間後には農水省へ要請を行いました。そして、大規模震災からの復興に学ぼうと、5年間宮城に通いました。痛感したのは、地域の主体的な取り組みと、行政などの支援の両輪が大事であり、その両輪がなくしては、復興はかなわないということでした。
 今回大地震に見舞われた能登半島地域は、私と同様、日本海側の中山間地・山間地です。厳しい自然環境の中で、村を守り地域農業を守ってきた労苦はわが身のようで、全く人ごととは思えません。友人の家、親類の家、隣近所、田畑、家畜、山林、道路が、一瞬で破壊されてしまったショックは計り知れないと思います。
 しかし、厳しい環境の中で、形づくられてきた地域・故郷です。どんなに大変であっても、農家魂で、先祖から引き継いできた地域・暮らし・文化をなんとか再生復興していただきたいと願います。そして、その再生への取り組みは、これからの日本の農村・山村地域再生の指針ともなるのではないでしょうか。

復興への取り組みを
思索する

 以下に少し、私なりの取り組みを考えてみました。1月24日に農水省に提出した要請事項として、次の点まとめて提出しています。
1.政府に求める支援の
  基本姿勢
 ①地域の復興は、地域の主体性を最大限尊重し、地域での「ふるさとの再生」と「未来へつなげる営農と生活の再生」を柱とする。
 激甚災害指定をはじめ、農業の基盤復旧対策と併せ、復旧までの間の収益皆無への所得補償対策などを検討する。今回の災害は、生産手段すら剝奪され尽くしたものであり、生活手段すらない中で、農業者および林業者・漁業者への所得政策は必要である。とりわけ、農業災害補償と所得補償制度の両輪で、自給率の向上や安定的かつ持続的な農業経営を目指す観点から、今回の災害での水稲・畜産など農畜産物関連での所得補塡対策を特別処置で講じるべきと思う。
 ②ゼロ・マイナスからのスタートとして、地域の都市計画的なことを踏まえつつ、地域農業のグランドデザインのもとで、農業におけるインフラ基盤を再生整備する。特に、本当の意味での農業再生計画や農業・農村基本プラン(グランドデザイン含む)を地域別に樹立できるように地域体制の確立整備への支援を行い、実行する。
 被災地域においては、都市計画もさることながら、まさに、ふるさとを取り戻す不退転の取り組みが必要であり、それは水田・農地のみならず、地域の自然と景観も含めた農村の再生、農村社会の人のつながりを含めた復興が肝要となる。そのため、水田・畑の基盤整備対策、農村での雇用確保、さらに、集落での営農と助け合いの生活システムの確立など、被災地域が元気に復興に取り組むことのできる総合的な対策を講じる必要がある。
 ③農政・地域政策の基本に返り、従来の施策の仕組みのノウハウをフル動員するとともに、特別対策を組み合わせることにより万全を尽くす。特に中山間地域・山間地域である被災地については、基盤整備等と併せて、雇用と生活基盤確立の上でも、観光・地域産業など6次産業化による地域での経済活動の活性化が大切である。農業生産から、農村再生のため6次化産業、そして、原子力発電から、農村の水力・風力・太陽光などの自然エネルギー重視への政策転換も重要である。被災地域での6次産業化としての、そうした地域エネルギー産業を振興政策として展開し、地域振興と雇用対策を強化する。
 ④水田等を中心とした復興対策とともに、漁業および他産業についても、産業基盤としてのインフラ整備・産業構造の再構築・各企業等への再生支援措置・漁民への休業補償・労働者の休業補償および生活支援補償(最低限の生活が営めるための措置)について、万全の処置が必要である。
2.具体的対策では……
 ①生産手段については、長期に形成してきたもの、時間がかかるもの、短期の修復が可能なもの、作付け等に向けて早急に手当てすべきもの、応急措置と本格的な措置で対応すべきものがあるが、各対象分野別に対策を講じる。
 農家・法人などの営農主体への分野―被害の調査とともに、当面復旧可能な地域・経営体につき、農地、排水施設・暗渠等、放牧地、機械、畜舎・堆肥施設、倉庫の原則全額補助での復興を行う。
 地域の広域的分野―農道、水路、作業場、倉庫・物流拠点、農業用電気・水道、排水・下水処理、堆肥処理機能につき、県・町もしくはJAや協議会によって再興する。
 ただし、陥没などで甚大な地域・土壌改良や大規模な基盤整備が必要な箇所は、国が土地の買い上げを図り、年次的に整備計画のもとに、農業者・法人へのリース方式(将来的な分譲も可能とする)によって農業再建を図る。
 ②瓦礫の処理、農地の整備については、当面の緊急措置として、水田の用排水の点検と設計は、最大限の今年度利用可能な農地等を確保し、営農の維持・再スタートのために万全の措置を行う。新たな耕作地・公共用地の造成を検討する。なお、対処地に対しては補償・政府買い上げ等の措置を講ずる。
 ③肥料、農薬、軽油等の燃料、家畜の餌などの生産資材、トラクター等の農業機械についての供給および物流の確保を行う。資材については、無利子資金での調達対応を行うとともに、返済期限の検討および返済免除措置も被害の状況に応じて検討する。
 ④当面の生活・営農に対し、生産資材・生活資材の物品供給体制の確立と支援、緊急的な生活保護・生活支援措置を行う。
 ⑤最低限の生活保障を明確にするとともに、働き場所および生活する場所としての、具体的なビジョンを立てながら雇用の場を提供し、ともに「ふるさとの再生」「営農と暮らしの再生」を図る取り組みを柱に、地域の力と知恵を結集しつつ、なお雇用の場・収入の確保ができるシステムを確立する。そのための、集落・地域単位の農業再生に向けた組織運営への助成(農業再生会議の特別版)や復旧工事・新設備集落機能の整備等への参加と労賃等の全額助成(農地・水管理の特別版)を検討する。
 ⑥農地・水路等の基盤整備事業については、全額国の助成で実施することを前提に、農地の再生利用計画を樹立する。所有者、利用者の整理を実施し、農地流動円滑化事業の特別版で、亡くなられた農地や利用不能となった農地について、国の買い上げ、預かり措置を講ずる。また、営農再スタートする場合の生産組織・地域での土地利用計画をできるだけ作り、農地の利用は収益がレールに乗るまでは、借上料は免除する。年次的な農地の復興計画の実施と、農家への計画的な入植も推奨する。また、最初は、協業体制で農業を行いながら、復旧を踏まえて、戸別経営への移管も検討する。
 以上、何点か考えられる対策を挙げてみました。しかし、現実の被害を考えると、復興は相当に困難な道に違いありません。農業者として、一層厳しくなる高齢化や人口減少を抱える農村に暮らす人間として、どう寄り添えるか、共に取り組められるかが私にとっての課題です。まずは出向いてと思っています。

土着の民、土地に根を
張る未来を……

 「ふるさとから、離れたくない」。軽々には言えないことですが、私としてはできるだけ離れるべきでないと思っています。苦しくとも、自分ちの、自分たちの地域の現実と対峙しながら、何ができるか、どうすればよいかを考えたい。再興には主体的な原動力が必要です。そして、その要望を真摯に聞き、しっかりと応える実質的な政策と財政的な支援が欠かせないと思っています。
 村や集落での絆と力の再結集をどう図るか。また、再生には高齢者が多い中で、若い層が地域再生のための取り組みをどれほど展開できるかにもかかります。人を惹きつける魅力ある地域への脱皮も考慮に入れて、長きにわたる取り組みもあるでしょう。そして、農村や地域の農家だけでなく、都市部の住民の支援や関係性の再構築も、今度のあり方として重要となると思います。能登半島地震の復興に関わる農民・消費者は、単に支援ではなく、能登半島との交流や支援活動を通じて、日本の農山村のあり方、自分たちと食や農地との関係、さらに森林や山など、環境との関係のあり方をとらえ直すきっかけにしてほしい。そして、地震が、どこでも起こり得る日本の中で、自らの生き方そのものも再確認する機会となればと考えます。
 四半世紀もすれば農村人口は現在の半分以下になりかねない情勢にあります。そうした現実に向き合うことをせず、経済界の意向をうかがうだけの政府を前に、自立的な地域社会、地域コミュニティーをどうつくっていくか、どのように予算を分捕るか。経済界の我田引水に付き合っている暇はありません。農家サイドから言えば、自給的な経済圏をつくり、安定した備蓄で生き残っていくことのできる地域づくりを、と常に念頭に置いています。
 まずは、集落と地域、農村と農村、農村と都市、その中での人々の関係を紡ぎながら進めたい。過疎や人口減少、荒廃する地域とならないように持続的な地域をどう創るか、また再生するか、課題を抱える地方の行政もともに考えたい。
 農林業から漁業、そして伝統的な工芸等の地域産業、伝統と人々によって引き継がれてきた世界農業遺産「能登の里山里海・千枚田」、女性たちが元気な朝市、輪島塗などの工芸品、「のとてまり」で知られる立派な原木シイタケをはぐくむ里山を育て、守ってきた能登半島です。荒々しくも美しかった自然の再生と営農への取り組みが再開され、農業・農村の復興につながることを切に願います。

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北海道農民連盟第51回総会年度運動目標を決定

「直接支払制度の確立と自給率向上を求める運動」

 北海道農民連盟は2月13~14日札幌市で第51回定期総会を開催し、2024年度運動目標を「輸入依存から国内生産の強化を図り、再生産可能な直接支払制度の確立と自給率向上を目指した食料安全保障の強化を求める運動」と決定した。以下、総会宣言要旨
 この間、際限のない自由化・競争力強化に偏った新自由主義農政によって現場が意図しない改革が行われた。その結果、農家戸数の減少や生産基盤が弱体化し、食料自給率は低迷を続けている。さらに、各地での戦争や為替相場の影響などで、生産資材価格が高騰し農業経営は圧迫され、農業者は経営存続の危機に瀕している。
 よって我々は、24 年度の運動目標を「輸入依存から国内生産の強化を図り、再生産可能な直接支払制度の確立と自給率向上を目指した食料安全保障の強化を求める運動」と決定した。また、世界情勢に的確に対応した運動の強化が必要であり、組織が掲げる『真の農政改革』の実現に向け、国民合意を図りながら、盟友一丸となり運動を展開していく。
 なお、我々の要求実現には農民運動の理解者を一人でも多く増やし、協力関係を構築することが重要であることから、「農民政治力」を発揮して、多様な農業者が将来を展望できる、基本法の改正を目指していくこととする。