福島円卓会議の声を聞く会
復興と廃炉へ自分事としてとらえる
「復興と廃炉の両立、ALPS処理水問題を考える『福島円卓会議』の声を聞く会」が2023年12月12日、参議院議員会館で開かれた。「福島円卓会議」から林薫平事務局長と呼びかけ人の塩谷弘康先生が報告、国会議員や関心をもった各界の約50人が参加した。またオンラインでも動画が提供された。福島の復興・廃炉と処理水問題を県民・国民が主体となって進めていく活動の重要さが参加者で共有化され、今後もこうした会を継続し、取り組んでいくことが確認された。
会では冒頭、簡単な経過報告を山本正治・広範な国民連合事務局長が行い、司会を日下景子さん(前神奈川県議)にお願いした。
まず、「福島円卓会議」からの報告を、林薫平「福島円卓会議」事務局長(福島大学食農学類准教授)と塩谷弘康先生(福島大学副学長、元福島県総合計画審議会長)が行った。
出席の衆参の国会議員が紹介され、福島県1区の金子恵美衆議院議員をはじめ高橋千鶴子(衆)、山崎誠(衆)、伊波洋一(参)、紙智子(参)、岩渕友(参)の各氏が発言した。
報告を踏まえて、震災・原発事故以来福島で林先生たちと共に復興に取り組んできた岡山信夫さん(協同組合懇話会事務局長)、行友弥さん(農林中金総合研究所客員研究員)、古谷周三さん(同)の3人がそれぞれの角度からお二人の報告を補足して発言した。原子力市民委員会の菅波完さんは、廃炉に向けた課題を提起された。凌星光さん(福井県立大学名誉教授)は、「処理水問題は、日中科学技術協力で解決すべき」と、棚田一論さん(日本青年団協議会事務局長)は、福島県出身の青年として立ち向かうと決意表明した。
最後に塩谷先生と林事務局長が参加者の発言などへの感想を交え今後について問題提起し、司会の日下さんが、「来年2月に次の円卓会議が開かれる。その頃また集まりましょう」と提起し会を閉じた。
最後の林事務局長発言 要旨
漁師さんたちの思いには非常に複雑なものがあります。漁師も農家もです。思いは非常に複雑です。復興していきたい。息子もできれば一緒に働いてほしい。戻ってきてほしい。
政府の復興事業は大変ありがたい半面、本当にコミュニティーが再生するかどうか。不安もあるが、それをはねつけるのももっと心細い。それに本来の生業のあり方が再生できるかどうか。
農業の復興をどうやってきたか?
農林中金からご支援を受けて、コミュニティーと生業の再生ということでまず農業の復興に取り組んできました。
その一つが、農家の人がどれだけ「土」を大事に思っているか。農産物を作って胸を張って食べてほしい、子供たちとかお客さんに食べてほしい。そう思って農業を再開するわけです。その前提になるのは、元通りの土と水と自然が必要だという農家としての本能に似た思いがあるわけです。
ところが原発事故の後、農業を再開するというのにはそれとぶつかるものがある。事故直後の2012年、13年は非常に緊迫した状況がありました。
農水省や研究者などは、「このくらいの汚染濃度ならば問題ない。再開できますよ」と言う。農水省は「米を作って大丈夫だ」と言うわけです。
確かに農家としては、米作りを再開したい、もう一回米を作りたいという思いは強いわけです。しかし、元通りの田んぼでないまま米作りをやれるのだろうかという、引き裂かれるような思いの中にいるわけです。
さらに農業用水は大丈夫か、ため池は回復しているだろうかと。そこから先に、お客さんは安心してくれるだろうかという次の問題がある。
そこで農林中金の皆さんと考えました。消費者、お客さんである生協の皆さんと一緒に、農地再生のため、福島の土地の汚染のマップをつくりました。そして、この程度の汚染濃度だったら対策をしっかりすれば、米作りは可能ではないか、再開可能だと提唱しました。消費者である生協の皆さんも一緒にそうしたことを進めたわけです。
農水省の課長が言うだけでは頑なな農家も、それと違ってお客さんも一緒に対策を考えるということであれば何とか我慢して生産再開していこうかとなります。そして農家には、農産物ができたときには格別な思いが湧く。こうした経験が、農業復興の一コマとしてありました。
その漁業版が必要ではないか、今考えています。
IAEAのレポートは、一つの尺度から見た評価であって参考になるものではあります。しかし、漁師にとっては「海」をどのようなものと考えているか。その角度のもう一つの軸において、漁業再興の問題は原発事故とどう折り合っていけるかという問題なのです。IAEAを否定するわけではなく、もう一つの軸が必要です。それは漁業復興を研究者や、消費者の側、量販店や流通業者などが一緒になって構築する必要があるのではないか。
復興の枠組みをつくる
政府の放出決定は、漁業者や福島県の当事者を完全に埒外、蚊帳の外に置いていた。それは間違いありません。いろいろ批判はあります。それでもそこをぐっと吞み込んで言うと、岸田首相も西村大臣も、沿岸地域だけではありませんが、福島の復興に最後まで政府が責任をもつという趣旨のことを閣議の中で明言された。放出を決めた8月22日の閣議です。それ自体は噓ではないと思っています。
問題は、総理も大臣も代わるということです。
ですから、鉄が熱いうちに、その言葉を実現できる体制をつくらないとダメでないか。総理の思いは今本当にそう考えているとしても、代わっていく、次々と。そのとき思いが変わっては意味がない。漁師さんたちの思いを尊重したカタチで、これから20年、30年、本当に続けられるのか、それを担保できる枠組みをどうつくるか。こうしたことをカタチにしないと意味がない。
ですからここ1、2年の間に、漁業復興での、先ほど申し上げた農業復興の漁業版を政府、公的機関も一緒になってつくっていくことを提言していきたい。そう思っています。
当事者中心の復興。復興どころかその前で大変苦労されている方もいます。被災者を尊重する、当事者中心の復興政策の進め方でないといけないと思います。
当事者を中心に、当事者以外も、「共事者」も、一緒に復興を考えていくように提案したい。
その時に、福島県の問題を国民的な問題にしていく。ただし、それには「幅」がある。「国民的な」と言ったときに、「自公政府けしからん」と言う人も随分といると思います。分かりますが。
しかし、福島の復興を考えるとき、それだけでは実際が進まない。埒が明かないことが多々ある。だから私たちは、この復興とかを考えるとき、政府とか一定の権限をもっている人が一緒に議論してくれることが何より大事と考えています。原発の問題を解決する上では、問題をもっとオープンにして議論をする、開かれたカタチでステークホルダーが協議していくカタチ以外にないのではないか。このような方向性を提言として示したい。協力してほしいと思います。