争うよりも愛したい。 屋良 朝博

ウソと詭弁で固めた対沖縄政策
地方は政府に従えー

衆議院議員 屋良 朝博

 米海兵隊普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画をめぐる政府と沖縄県の裁判闘争は、軟弱地盤改良工事に必要な設計変更を玉城デニー知事に代わって政府が代執行する。地方は政府に従えーとばかりに、地方自治と自己決定権さえ踏みにじるモンスター事業が進んでいく。ひどい国だ。


民主国家(沖縄除く)

 沖縄県が設計変更に応じないのはもちろん合理的な理由がある。水深90メートルで見つかったマヨネーズ状の工事は困難で、環境破壊が懸念されると主張した。すると防衛省は埋め立て工事の法律を所管する国道交通相に、県の不承認を取り消すよう求め、国交相はその通りにした。その処分は不当だと沖縄県が訴えたが、最高裁は政府の言い分を丸のみした。
 「不合理極まりないもの」「実質審査権を裁判所が放棄することは許されないはずである」︱︱国内の100人超の行政学者が政府の処分と最高裁の判断に異論を唱え、声明を出した。そもそも防衛省が国交相に訴えた行政不服審査は、政府の行為に対して一般国民が異議申し立てをする仕組みだ。防衛省が使った手法は、地方の自己決定権を認めない国であることを証明した。
 大正時代に施行された埋立法。大幅な計画変更があっても環境影響調査を求めない環境アセス法。日本では政府が決めてしまった埋め立ては止まらない。他方、米国の環境アセスは複数の候補地を挙げ、環境への負荷が最も少ない場所を選定するよう事業者に義務付けている。日本は「唯一の選択肢」と政府が言えば、それが揺るがない。法の支配、適正手続きなどお構いなしの封建主義だ。
 1996年に始まった普天間移設計画は県民の反発もあり、さすがに歴代総理は実際には着手できなかった。安倍晋三元首相が再び権力を握るまでは……。

合理性、見通しなし

 辺野古埋め立てはあまりにも不合理だ。工期は半世紀に及ぶ恐れがあり、予算も莫大に膨らみ、短い滑走路は緊急時に使えない代物だし、軟弱地盤で完成後も修繕工事を続ける。こうした問題を知りつつ強行する国は納税者への背任だ。
 【滑走路】米国会計検査院(GAO)の2017年レポートは1200メートルしかない滑走路は緊急時に使えないと指摘している。戦闘機の離発着には通常3000メートル級滑走路が必要だ。オスプレイの通常発着に必要な1500メートルさえ満たしてない。米軍もこれらの難点を認識しているが、日本政府が巨費を投じて強引に進めているため、言いそびれているとレポートに記述している。
 【工期】軟弱地盤が見つかり、防衛省は当初計画の約2倍の12年に延長した。ところが着工から6年が過ぎた現在の進捗率はたった15%に過ぎない。年平均2・5%の実績なので、単純計算でも完成までに40年かかることになる。今後、軟弱地盤の改良工事が含まれる深い水域の埋め立てになるので、さらに長期化が予想され、もしかすると〝半世紀事業〟にもなりかねない。
 政府は普天間飛行場が世界一危険だから「一日も早い危険除去」のため、辺野古埋め立てが「唯一だ」と言い続けるのだろうか。
 【予算】事業費も当初計画から約3倍の9300億円に膨らむ。ところが、すでに4000億円が使われている。進捗率15%だから、このペースでいくと、単純計算でも工費は約2兆6000億円になる。工期、予算とも犯罪的な膨らみ方だ。ちなみに同じ海上空港で滑走路2500メートルの新北九州空港は総事業費が約3200億円だ。大阪万博の予算が2300億円にほぼ倍増されると騒がれるが、辺野古埋め立てのモンスター化に関心が向かないのはなぜだろうか。
 【沈下】さらに驚愕は続く。完成してからも軟弱な地盤はしばらく不同沈下を続ける。ところどころ沈むため、滑走路が波打つのだ。防衛省は沈んだポイントはジャッキで持ち上げる、と説明している。専門家によると、地震によって埋め立てた地盤が崩壊する可能性もある、というのだ。さらに地球温暖化の海面上昇で滑走路は水没する、と予想する米専門家もいる。
 使い物になるか分からない滑走路が、自然環境を破壊しながら、完成のめども立たないまま、巨額の税金が海に捨てられていく。そして誰も責任を負わない。

800人の抑止力?

 筆者が辺野古の埋め立てについて国会で質問した2020年2月、安倍首相の桜を見る会の問題でもちきりだった。普天間飛行場を使う海兵隊は米軍再編によって主力兵力をグアム、豪州、ハワイへ分散移転する。その後に残留する兵力の中で、戦闘力は800人の上陸大隊にまで縮減することを指摘した。
 現在、沖縄には海兵隊1万
8000人が駐留し、在沖米軍基地の7割を占有する。主力の地上戦闘兵力(歩兵・砲兵)はおよそ6000人で、それを支援する航空部隊と後方支援部隊がそれぞれ約3000人、ほかは司令部要員などで構成されている。地上、航空、支援の各要員は6カ月ローテーションで米本国から派遣され、沖縄やアジア諸国で訓練を重ねている。
 米軍再編によって主力部隊のほとんどがグアムや豪州、ハワイへ分散移転し、沖縄には司令部約5000人と小ぶりの遠征隊のみが残る。遠征隊は2200人で編成され、このうち主力の地上戦闘兵力は既述の800人に激減する。この規模で対処し得るのは「紛争未満の事態」で、例えば暴動などの地域紛争地から米国人を救出する非戦闘員救出作戦(NEO)や、人道支援活動・災害救援(HA/DR)、海上密輸の警戒監視など限定的だ。
 遠征隊を運ぶのは長崎県佐世保に配備された米海軍の強襲揚陸艦。沖縄で物資や兵員を乗艦させ、東南アジアへ遠征(パシフィックツアー)する。半年から8カ月は遠征しているのだから、沖縄に駐留する米軍の主力である海兵隊は不在が多いのだ。

NIMBY(わが家の裏庭はやめてくれ)

 そもそも海兵隊は1950年代に岐阜、山梨、静岡に配備された。しかし米兵による事件事故が相次ぐと、地域住民の反基地運動が激化し、追われるように沖縄へ押し込め、国民の目から遠ざけた。海兵隊は沖縄でなくてもいいのだが、本土が米軍を嫌がるので、沖縄を人身御供にしている。
 海兵隊を運ぶ艦船は長崎だから、消防に例えると消防車は長崎で隊員は沖縄という配置だ。部隊配置は九州でも四国でも中国、地方でも運用に支障はない。「沖縄に寄り添い、負担軽減を進める」との詭弁を政治家は多用するが、地元へ米軍移転の可能性が浮上すると激しく拒否する。日米同盟が外交防衛の要だと言う政治家も米軍基地は忌避する。
 2012年に米政府が沖縄の負担軽減のため海兵隊員1500人を山口県の岩国基地へ移転してもいい、と提案したことがある。当時の民主党政権は地元の反発を受け、米提案を受け入れなかった。後に安倍内閣で防衛大臣を務めた岸信夫元衆院議員も猛烈に反対した。
 安倍元首相は沖縄の基地負担軽減が進まない理由について答弁した。「日米間の調整が難航したり移設先となる本土の理解が得られないなど、さまざまな事情で目に見える成果が出なかったのが事実だ」(18年2月2日の衆院予算委員会)
 愚かな辺野古埋め立てを強行する岸田政権は代執行に着手した。無責任な政治が沖縄にすがる。ウソと詭弁で固めた対沖縄政策がさらに強化される。

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