熊本県菊池で農業危機突破緊急集会

『国民の皆様へ 日本で生産された農畜産物を食べて下さい』
『日本の食を守るため私たち農家は命を懸けて生産します』

JA菊池 三角修組合長 インタビュー 

――8月8日の菊池地域農業危機突破緊急集会に至る経過や現状についてお聞かせください

 肥料関係は、ご案内の通り3割から4割、なかには5割近くまで値上がりしているものがあります。ロシアによるウクライナ侵攻によって肥料関係の輸入ができなくなったからです。

生産費は異常な値上がりとなっている
原油 1バレル(159ℓ)100ドル【通常:40~50ドル】
オーシャンフレート(海上運賃) アメリカから日本まで1t当たり80ドル【通常:40ドル】
飼料用トウモロコシ 1ブッシェル(36ℓ≒27㎏)8ドル【通常:3~4ドル】
為替 1ドル140円【通常:110円】
肥料 現物を確保するのが精いっぱいで価格が50%上昇

 今までロシア、中国あたりから届いていた肥料が止まってしまったのです。肥料の原料は日本にはなく、輸入しなくてはなりません。今はモロッコやカナダあたりから肥料を輸入しています。結果、今までの輸送コストより10倍くらいに膨らんでいるという話を聞いております。
 また、今までは北米などで牛のエサとなるトウモロコシを作っていましたが、アメリカがトウモロコシをバイオエタノールの原料に使うことが多くなったことで、畜産関係のエサが世界中で不足しています。それを受け、ブラジルあたりでトウモロコシが多く作られることになりました。しかし、ブラジルも肥料は輸入に頼っています。世界中で肥料の取り合いになり価格の高騰を招いています。
 肥料がないと農作物は作れない、肥料がないと牛のエサとなるトウモロコシが作れない、など世界的に農作物の作付けができない状況が発生し、世界的な食糧危機が迫っているのだと感じます。
 油関係については40ドルだったものが80ドル、90ドル、今ではこれを超えるという具合になっています。
 オーシャンフレートも1t当たり40ドルを切っていたものも80ドルくらいになっています。運賃だけでも3割から5割ほど高くなっています。
 飼料も、為替が1円安くなると、300円近く値段が高くなるのです。今1ドル140円くらいとしますと、110円からすると30円安くなっていますので、30円掛ける300円で9000円です。何もせずに9000円値上がります。
 それにモノが不足していると奪い合いになります。特に中国あたりとは奪い合いになります。それも高騰している要因になっています。トウモロコシは一時期、8ドルくらいまで上がりました。普通は1ブッシェル(27㎏)当たり3ドル、それだけでも3倍近く上がって8ドルになっています。

異常な資料・資材高 それでも借金は返さなくては

 それで今年の4月に園芸生産部会長、畜産生産部会長さんたちから私のほうに要望書が出されました。
 ここまで値段が上がってきているので、どうにかしてほしいという要望です。ここまで油も上がって、飼料代も上がっては農業の継続はやっていけない。特に畜産クラスター事業は国の予算で年間600億円くらいあり、JA菊池でも積極的に取り入れてきました。農家は意欲的に借り入れをして建物、牛の購入をしてきました。国民の胃袋を満たそうということでやってきました。結果、多くは借金を抱えています。そういうところに、今回の飼料高、資材高となっては支払いは増えるし、借金は返していかなければならない。このままでは農業をやめなければならない。よく言われるサステナブル(持続可能)にはならない。どうにかしてほしいという要望書を受け取りました。
 総代会は6月半ばに開催していますが、その前には各地区座談会を開いています。その中で、どうにかしてくれというたくさんの要望が出てきました。
 「分かりました。総代会が終わったら理事会を通して、皆さん方にどうするかについてお示しいたします」という約束をしてきました。
 総代会が終わって、7月に参議院選挙がありましたが、新型コロナウイルスなどの影響なのか盛り上がらなかった感があります。8月8日の危機突破集会については当初300人規模にしようかと思っていましたが、「どうせやるなら本気でやるぞ」ということになりました。参議院選挙は盛り上がらなかったから、人が集まるだろうかなどの思いもありましたが、役員の中から、何かしなければならないという話が出て、それならやりましょうということになりました。そこで私はほかの役員、組合員、職員、皆で真剣に取り組もうと話したところでした。
 集会は、もし人が集まらないならば、逆に人の気持ちが離れていくことになります。ですから集会を開くことは諸刃だと思いました。
 当初は300人くらいと思っていたのを、やるなら500人、きちっとした人数を集めようということになりました。
 生産部会で何人、各支所で何人というように割り当てました。結果、きちっと500人来てくれました。職員まで入れると600人集結したと思います。それはありがたかったです。最後に皆で牛乳を手に持ってガンバロウ三唱をやったところです。

今こそ農業者が一つになるときだ

 発言者は国会議員、農政連、各生産部会、女性部、青壮年部会、そしてJA菊池からは私です。
 会場発言は各部会の人が行い、酪農部会からは「今こそ農業者が一つになるときだ」、野菜園芸部会からは「農業経営は危機的状況であり、限界だ。持続可能な農業生産のために、資材高騰対策、肥料原料の確保、再生産可能な農産物の価格形成の実現を」など力強い訴えがなされました。
 やると決めてから準備期間は10日間でした。どのようにして集会をやるのか経験のない若い職員は、手探りながらも多くのアイデアを出して立派にやってくれました。職員の本気度を肌で感じ、すごいことをしてくれたと感謝しています。
 今回はJA菊池だけでしたが、やってよかったと思います。当日の垂れ幕の文章『国民の皆様へ 日本で生産された農畜産物を食べて下さい』『日本の食を守るため私たち農家は命を懸けて生産します』は私が提案したものです。
 この二つのスローガンは大事だと思います。日本は自給率を上げなくてはいけないし、いつまでも外国に頼るばかりではよくないと思います。やはり、自給する力を持っていないと食料安保なんて口が裂けても言えないです。自分たちが努力しないといけません。
 そういうこともあって、2008年より『えこめ牛』(菊池の「コメ」を食べさせた牛。環境の「エコ」との造語)を推奨しています。アメリカのトウモロコシの値段が上がった下がったということに左右されずに、日本の飼料、トウモロコシ、牧草なりを食べさせることが必要だからです。食料自給率も上げなくてはいけないし、食料安保というものを考えていかないならば、日本は外国に負けるということです。
 国会議員の坂本哲志さん、藤木眞也さんが集会に来てくださりましたが、これからの運動にどうつなげるかだと思います。8月には熊本県中央会として国会議員に、県議会議員には9月に要望書を渡します。
 そうやってさらに一人一人の力を結集することによって、自分のこととしてとらえて行動してほしいと思います。国への要望、行政への要望をやって、農家自身でも家計費、生活費の見直し等自助努力をしなければいけない。言うばかりではだめだろうと思います。

このままじゃ農業継続できない

 農家の声はこのままじゃ農業継続はできないということです。各農家の購入決済は1カ月ごとですが、例えば飼料代の場合、翌月組合が集計して通帳から引き落としますけど、それがだんだん落ちなくなってきています。
 農家によっては決済できないで毎月少しずつたまっていっているところもあり、そのたまっていく金額が増えています。
 飼料関係費が生産費の中で40%を占めています。そのエサ代がさらに3割上がる、4割上がるとなれば、農家はたまったものではない。月に500万円エサ代がかかると1年間で6000万円、3割上がると月に150万円、4割上がると200万円、さらに負担が増えるとことになります。そうすると月に200万円上がったならば、年間で2400万円の負担増になります。
 ですから、もう限界だと。そういう言葉になっていくのです。
 クラスター事業は酪農関係が多く、補助金を受けながらやっています。これまでクラスター事業を多くやっていた時は北海道の次にJA菊池でした。それまでは牛乳は搾れ搾れと言われてきたのですが、去年ごろから余っているなどと言い始めました。
 今回は生乳1㎏当たり10円だけは上げていただきましたが、実際のところ、上がらないよりは良かった程度のことで、農家の声としては30円は上げてほしいということでした。
 買いエサ農家のところでは今回はきついですね。できるだけ自給飼料、自給エサをといって皆頑張っているのですが……。きつい状況には変わりありません。
 最終的には為替が一番でしょうね。今1ドル140円くらいになってこれも心配しているところです。

――今後の運動の取り組みは?

 以前、民主党政権の時でしたか、戸別所得補償制度というのがありました。農業経営の安定と国内生産力の確保を図り、食料自給率の向上と農業の多面的機能を維持することを目的に実施された制度です。あれは皆良かったという意見が多いです。
 フランスの自給率は今、110%くらいに上がって高い水準です。私はそこに何か参考になることがあるのではと思います。現在、日本の食料自給率は先進国の中では一番下になっています。新たな取り組みを行わないと日本の食料自給率は上がらないと思います。
 そこで私は食料自給率が上がるような仕組みを考える必要があると感じ、そこでは食料安全保障とカーボンニュートラルを一つのものだと考えました。
 食料自給率向上と地球温暖化防止をスマートフォンによるポイント付加をする国民運動を提案しています。地球温暖化対策と食料自給率とを絡めてやることが国民には分かりやすいかなと思います。ですからこれから先は国民に受け入れやすい形をとっていくことが食料安全保障につながるのではと思います。

(2022年9月5日にインタビュー)