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経済同友会「日中経済交流の役割」報告

特に経済面では、両国が相互に補完し、
互恵関係を築くことが重要

 企業経営者が個人として集まる公益社団法人経済同友会は6月、「日中経済交流の役割」と題する、2020年度日中交流PT活動報告書を発表した。報告は、「日本が、同じアジアの一員として中国と接し、欧米諸国と中国の関係性強化、国際社会の安定に貢献することは十分可能である」と、冒頭に断言する。政界やマスコミから「中国脅威・敵視」が振りまかれる厳しい状況下ではあるが、なおかつ多くの企業家、経済人が日中関係の発展を求めていることを示している。「中国は敵ではない」「アジアの共生だけがわが国の活路」である国の進路を実現する上で重要な意義をもつ提言である。
 (以下要旨、編集部。全文は、https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/210608a.pdf)

 「日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した」

 これは、2021年4月16日、菅義偉首相とバイデン米大統領による日米首脳会談後に発表された日米首脳共同声明の一節である。
 日米同盟が日本外交の基軸であることは論をまたないが、共同声明では中国との対話の重要性について言及し、中国と協働する必要性も確認している。この状況を、日中関係を深化させる機会と捉えたい。
 日本と中国は、政治・社会体制こそ異なるが、漢字や食生活など、文化や生活様式の面では多数の共通性を有し、欧米諸国に比して相互理解をしやすい関係にある。日本が、同じアジアの一員として中国と接し、欧米諸国と中国の関係性強化、国際社会の安定に貢献することは十分可能である。

中国共産党政治の現状

 政治体制や社会体制においては日本とは異質な国であるということは、日本国民の誰もが多かれ少なかれ持っている認識であろう。体制が異なるという事実は、中国と向き合っていくうえでの前提として意識する必要があるが、優劣をつけて論じる対象ではないことは言うまでもない。

中国経済の現状

 中国市場の大きさ 本会会員企業が中国と取引をする最も大きな理由が「中国市場の規模」(全体の56%)となっており、小差で「中国市場の成長性」が続く(53%)。中国が持つ市場の大きさと、その市場がさらなる成長性を秘めていることを多くの日本の経営者が認識していることがうかがえる。
 国内3大問題への対応 (中国は今)①金融リスクの防止、②貧困撲滅、③環境汚染改善の3点に重点的に取り組んでいる。
 特に貧困撲滅については12年以降、20年までに絶対的貧困を撲滅することを優先課題としてきた。結果、20年12月に、1億人近い国民が中国の公式な貧困所得基準である1日当たり11元(約176円)未満の水準を脱したとして、「貧困ゼロ」達成の勝利宣言をした。……8年間で1億人相当が貧困を脱却した事実は、中国の高い政策実現力を表している。
 環境問題について 30年までの二酸化炭素(CO2)排出量をピークとし、60年までに排出量を実質ゼロにする目標を習近平氏が表明して大きな注目を集めた。環境問題のようなグローバル課題においては、他国との連携・協力も必要不可欠である。本会会員向けアンケート調査の「どういった分野で両国経済は互恵的な関係を築くことができると思いますか」という問いに対する72件の記述回答のうち、14件が環境問題を挙げている。
 新型コロナウイルス感染症への対応 中国政府の施策に対して、中国国民の評価はおおむね好意的なようである。本PTが実施した中国社会科学院とのオンライン意見交換会の中で、政府やアプリ運営者等のプラットフォーマーが個人の健康状態を把握することについて、プライバシー上の問題はないかといったやりとりがあった。その際、中国社会科学院の参加者からは、一中国市民としての回答と前置きがあったうえで、「価値観の問題である。コロナ禍を受けて何より大事なものは人命であることが分かった。プライバシーも重要だが最重要ではない」や、「個人の自由を尊重しすぎると、自身の不注意によって他人の自由を侵害する可能性もあると認識している」といった意見が述べられた。中国政府が行う一連の感染症対策への国民の肯定的な反応がうかがえる。
 新型コロナウイルスへの対応手法とその評価を見ても明らかなように、日本と中国では政治体制も違えば、そこに暮らす国民の社会に対する考え方も異なる。日本人の感覚のみをもって、中国の内政を強権的と決めつけることは適切ではない。

中国の外交姿勢

 戦狼外交について 特に中国が大国としての自信をつけ始めた2010年代以降、米国からの圧力が強まったことを背景に、より強硬に自国の主張を展開すべきだとの方針をとる「戦狼外交」が顕著に見られた。一方で昨今は、中国側でも戦狼外交への反省が見られ、中国社会科学院が運営するウェブサイトには、世論戦に勝利するために中国がとるべきコミュニケーション手段について以下のような記述がある。「言葉の応酬だけでなく、冷静かつ客観的に、理性を持って人々を説得し、平等・協力・善意の概念を解き放つなど、メディア対応の方法や取り組み方を改善すべきである」(一部抜粋)。中国は、国内の社会体制を安定化させることが第一優先で、そのためには国際ルールの無視もいとわないという段階から、国際社会との協調を一層優先すべき局面に移っている。国際社会において、中国が責任あるグローバルプレイヤーの一員となるために、戦狼外交からの脱却に期待したい。
 中国スタンダードとグローバルスタンダードの衝突 中国が持つ技術やプラットフォームを生かした製品やサービスがグローバルスタンダードになっていく可能性は十分にある。本会会員向けアンケート調査からも、「政経分離」のうえ、日本と中国は「アジアを代表する2大経済大国として、国際社会やマーケットに新たな価値観やイノベーションを共同で発信・展開すべき」といった意見が示されている。

日中交流における課題についてPTの見解まとめ

 米中にEUを加えて繰り広げられる世界のパワーゲームはますます激化し、現代は複雑で不確実な国際秩序の変革期の中にある。日本は、日米同盟を基軸としつつ、個別の課題に応じて、是々非々で日米連携、日中連携、さらには日米中3国による連携を検討していく必要がある。特に経済面では、日中両国が相互に補完し、互恵関係を築いていくことが重要である。互恵関係とは、言うまでもなく相互の得意分野を生かした連携であり、中国側の取引停止によって、日本企業の事業や経済が立ち行かなくなるような依存関係ではない。経営者は、思わぬ情勢変化に足をすくわれないよう、地政学に加え、パワーとしての経済、すなわち地経学上のリスクにも絶えず目を配り、中国に依存した事業については見直しが必要である。
 互恵関係の構築に向けては、中国の実態を正しく認識することが肝要である。
 そのための民間交流や経済的つながりは決して絶やしてはならない。日本と中国は、価値観の押し付け合いでも依存関係でもなく、両国の国益に資する分野で対等な協力関係を築いていく努力をお互いが続けなければならない。本会としても、日中両国の幅広いステークホルダーと継続的な交流を図り、相互理解と互恵関係構築に向けた未来志向の議論と行動を実践していく。