コロナ禍 ■ 困難のきわみに

外国人労働者のいのちと権利を守る労働運動を!

ものづくり労働組合JAM OB 小山 正樹

 外国人労働者数は172万4328人(厚生労働省、2020年10月末現在の「外国人雇用状況」)で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で増加率は大幅に減少したものの、過去最高を更新した。外国人労働者を雇用する事業所数は26万7243カ所で、前年比で10・2%増。在留資格別では、「技能実習」は40万2356人、「資格外活動」(留学を含む)は37万346人、「専門的・技術的分野の在留資格」の労働者数が35万9520人。

在留資格別外国人労働者の推移

 20年の172万余人という数字は、13年から7年で外国人労働者が100万人増加していることを意味する。技能実習は約26万人、資格外活動(主に留学生のアルバイト)は約25万人増、専門的・技術的分野は約23万人の、それぞれ増加である。

 実際に私たちの身近に多くの外国人労働者が働いており、この国の日常生活を支える重要な役割を果たしている。コンビニの店員も、飲食店の調理場もホールも、建築工事現場でも、見えないところでは弁当や総菜を作る食品加工工場でも、介護現場でも、農業も、漁業も、製造業も、流通の現場も。

■過酷な労働実態

 1995年、当時の日経連による「新時代の日本的経営」により、雇用労働分野の規制緩和が推進され、正社員雇用の枠が縮小され不安定な非正規雇用が拡大した。この25年の間に労働分野での格差拡大が顕著となった。

 とくに最近の7~8年では、過酷な労働環境での低賃金労働者として、外国人労働者の受け入れが拡大され、新たな格差構造がつくられてきた。

◇技能実習制度の構造的な問題点

 技能実習生からの労働相談では、居住環境が劣悪なうえに高い家賃や光熱費を天引きされるケースや、残業代が安く計算されるケース、そしてパワハラやセクハラ、さらに「帰国させる」という脅しなど、技能実習法施行から3年以上を経ても改善されていない。さらに妊娠を理由に解雇、強制帰国させるという人権侵害事件が起きている。

 技能実習制度には構造的な問題がある。

 第1に、技能実習生は本国で多額の借金をして来日する。送り出し機関への多額の手数料等を支払うために家族、親戚や、ブローカーなどから借金をしている。実習生が雇用主に抗議や、不満を言うと「強制帰国」の脅しをかけられることが多い。

 帰国させられると、多額の借金だけが残ることになってしまう。だから我慢するしかないということになる。ここに雇用主と実習生が、対等な労働契約関係には絶対になれない構造がある。

 第2に、他の企業へ移動する自由がないことである。技能実習制度は、「開発途上国への技能、技術の移転と人づくりに協力する国際貢献」だとするタテマエになっている。「技能実習」を実施するというタテマエがあるので、実習生の自由な意思で職場移動することができない。技能実習法では、技能実習実施企業において技能実習の継続が困難になった場合に、技能実習機構が移動の支援をする制度が出来ているが、実習実施企業で継続できない正当な理由がなければならないし、正当な理由があっても外部の日本人支援者がいないと手続きは極めて困難である。

 第3に、人手不足を補完するために外国人技能実習生を受け入れている企業の大半は零細企業である。零細企業にとっては、仕事をもらう発注者に対する価格交渉力は極めて弱く、適正な価格での取引ができていない。結局は、弱い立場の外国人労働者を酷使することでしか事業が成り立たないというサプライチェーンの最底辺の実態がある。

 第4に、中間搾取の構造である。本国の送り出し機関は日本へ行けば毎月20万円以上稼げるなどの甘言で誘い多額の手数料を取る。日本の監理団体は実習実施者(実習生の雇用主)から監理費を徴収することができる。それは実費の額を超えない額で徴収することとされ、技能実習生受入事業により収益を上げることはできないことになっている。その監理費は、毎月一人3万~5万円が一般的である。これらの負担のために実習生の労働条件は低く抑え込まれてしまう。

◇「特定技能」の行方

 人手不足の分野への外国人労働者受け入れ拡大のために、2018年12月の改定入管法により、19年4月から「特定技能」という新しい在留資格が設けられた。政府の試算では、人手不足の14業種で、19年度から5年間で最大約34万人の外国人労働者の受け入れ拡大を想定するとのことだった。しかしコロナ禍の影響もあってか、20年末現在で特定技能は1万5663人にとどまっている。海外からの新たな来日ではなく、技能実習からの移行が主流になっている。

 特定技能に関して「登録支援機関」として入管庁に登録し、雇用主との契約により労務管理を受託できる仕組みになっている。労務管理の外注化であるが、どのような問題が生じるか懸念される。

◇低賃金労働者としての留学生

 政府は08年に「留学生30万人計画」を決め、20年を目途に30万人の留学生受け入れを目指すとしていた。数字の上では30万人が達成されたが、その内実は空虚なものである。

 留学ビザで来日する場合も、ブローカーが関与して高額の手数料を取られる事例など問題が噴出している。留学生は、資格外活動の許可を受けると1週28時間以内でアルバイトが可能になる。現実は、28時間のアルバイトで学費と生活費を稼ぐことはできず、二重のアルバイトが入管に発覚して、在留資格が打ち切られて帰国を強いられることも起きている。

◇「技術・人文知識・国際業務」

 「技術・人文知識・国際業務」の在留資格も増加を続け、20年末で約28万人に達している。大卒のホワイトカラーが想定されるが、実際の労働は現場の清掃作業という事例もあるなど、ここにも問題が内在している。

■労働運動の役割

 すでに172万人の外国人労働者が働いている。労働現場では、外国人労働者に対する人権侵害や違法行為がなくならない。外国人労働者との共生の時代に、労働運動は正社員労働組合の枠を超えて社会的な役割を果たしていかなければならない。

 技能実習法が施行された前日の2017年10月31日に「守ろう!外国人技能実習生のいのちと権利」集会が参議院議員会館の会議室で開催された。主催の集会実行委員会は、日本労働組合総連合会(連合)、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)、ものづくり産業労働組合JAM、外国人技能実習生問題弁護士連絡会、日本労働弁護団、外国人技能実習生権利ネットワークで構成している。18年、20年にも同じ実行委員会の主催で「守ろう!外国人労働者のいのちと権利」を開催。今年も集会開催を予定している。

2019年中央メーデー 東京・代々木公園にて

 この集会実行委員会の意義は、外国人労働者問題に長年にわたって取り組んできた移住連と連合が一緒に集会をやること、そしてこの運動の政治的・社会的な影響の拡大を図り、幅広い連携をつくり上げることにある。

 外国人労働者対策は、労働運動の取り組みなくしては成り立たない。これは労働者の連帯の問題であり、労働組合の基本的な役割である。労働運動が取り組みを強化することによって、弱い立場にある外国人労働者のいのちと権利を守っていかなければならない。

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