実態調査をもとに対政府要求 緊急給付金を勝ち取った
高等教育無償化プロジェクトFREE事務局長 齋藤 皐稀さん
私は現在東洋大学文学部の3年生です。
静岡県の出身で1998年生まれです。中間層の出身で3人兄弟。小中学校は公立で平凡な生徒でした。高校の時、競争に打ち勝てという空気に耐えられなくなり、受験勉強に反発して不登校気味になりました。
そこで本を貪り読んで、例えば大杉栄の生き方などに、社会に対して自分が行動するこういう生き方があるんだという衝撃を受けました。高校の仲の良い、組合活動をやっている先生でしたが、いろんな本を教えてくれました。いわゆる左翼思想系ですけれども、大学に行きたいなと思うようになって、高3からやっと勉強を始めて、それで東洋大学に来たという感じです。
なぜ文学かですが、生きているといろいろなことがある。例えば今のコロナ禍であったりだとか、東日本大震災であったりだとか。そういう大きな問題のとき文学は日常を保つツールというか機能をもっているのではという問題意識をもちながら大学に進学しました。
FREEの結成に参加
FREEは2018年の9月13日に結成されました。
今代表をやっている岩崎詩都香さんは東大4年生ですが、彼女は母子家庭で6人きょうだいの末っ子でした。当然、塾に行く金もないし、長崎出身で情報格差もある中で勉強して東大に入学した。彼女は、そういう体験から学費が高くて学べないという学生を見ても、頑張って国立に行けばいいじゃないかとか思っていたそうです。
ところが、地元の友達にお金持ちの子がいて、なぜか大学に進学しなかった。話を聞いたら親から大学には行かせられないということだったそうです。お金持ちに見えていたけれど、実は大学授業料を負担できる家計ではなかった。当然、そういうことを中学、高校の時に親から言われたら勉強する気力もなくなる。
岩崎さんは高すぎる学費が可能性を奪っているというのに気づいて、何か運動、プロジェクトをつくりたいということで、大学の先輩と相談してFREEを立ち上げました。
私は、今は薬局でバイトをやっており、月12~13万円の収入です。私の授業料は約50万円です。昼間だと130万するので夜間を選択しました。授業料だけを親に負担してもらって仕送りは受けていません。
コロナで局面が変わった
FREEでは、今の学生はどういう生活を送っているのか可視化して社会に届けて政治を動かすという運動方針でやってきました。
コロナ禍での実態調査を始めました。4月から約1カ月間、1200名からアンケートを集めて見えてきたもの、それは5人に一人が退学を検討しているという実態です。緊急事態宣言が4月7日に出て、皆がバイトに行けなくなった時期です。
高学費の中、生活費を自ら稼いでいた学生が、収入がなくなって、学業を続けられなくなるかもという状況でした。しかも、前期学費の振込日が5月と迫っている状態で、本当に皆が深刻な状況に陥っていました。
同時に、就職への不安や、1年生は授業がどうなるのか不安でしようがないとか、そういう声も寄せられました。
今までもFREEは街頭や国会前で、学費問題、英語の民間試験導入反対など訴えていました。しかし、どうしても自分と関係ないというふうに受け止められている感じでした。しかし、今回コロナ禍では、皆が被害を受けて、普段通りの授業ができず、図書館も利用できない、それなのに私立の場合、施設利用料も取られる。
全員が高すぎる学費、あるいは不十分な奨学金制度と向き合わざるを得なくなっていました。それで、200以上の大学で署名活動が立ち上がり、「一律学費半額要求アクション」というかなりラディカルな要求の団体もできて、その要求署名も短期間で約2万筆が集まりました。本当に変化したなと思っています。
コロナ禍で学生だけでなく日本全体いろいろな問題が浮き彫りになったと思います。
心強かった「一律半額アクション」の結成
「一律半額アクション」の結成は非常に喜ばしいと思っています。やはり、各地で、授業料を下げてほしいとか、施設使用料を返してほしいとか要請するのですが、大学にもお金がないからどうしようにも限界があるわけです。
例えば東洋大は一人5万円の給付が決まりました。学生の現状からいうとまだまだ不十分の額で、もっと抜本的な支援策が欲しいのですが、やっぱりお金がないとできない。そうなるとはやり国にお金を出してもらうしかない。
今まで政治と自分の生活を結びつけたくなかったが、結びつけざるを得なくなりました。自分たちの要求を実現する上で、横のつながりをつくって一律半額を大規模に求めていくという動きなのでFREEとしてはすごく評価しています。今まではFREEだけが声を上げていたのが、他の団体もいて一緒に声を上げているということでとても勇気づけられました。
逆に「一律」の皆も、FREEの運動に勇気づけられていると思うので、そういった相乗効果というのも生まれていると思います。
「一律半額アクション」の人たちは最初FREEのことをそもそも知りませんでした。FREEがアンケート調査してメディアが取り上げ、例えばヤフーやツイッターでもトレンド入りしたりして、「今、学生は困っている」と皆が運動する理由を世論的につくったと思います。その面でFREEとしては「一律半額アクション」の仲間のバックアップをできたのではないかと思います。
「一律」は一律半額が最終的な目標ですが、私たちは、高等教育無償化を最終目標にしながら当面は「半額一律」で足並みをそろえて協力し合って運動を進めています。
運動で政府を動かす
FREEは9月2日~3日に第5期総会を開催し、第4期(20年3月~8月)の総括を行いました。そこで、「学生への直接支援総額約690億円を勝ち取り、野党に史上初となる学費減額の法案を作らせた」ことを大きな成果として確認しました。
政府から学生支援の予算を引き出したことは、FREEのみならず、本当に全国の学生みんなの運動の成果だと思います。
今まで、「自己責任社会」と言われる中で、今の若い人たちは、何か自分にとって不合理なことが起きてもガマンして耐えさせられる。例えばブラックバイトに入ってしまったら、ガマンして働くしかないと思い込まされてしまう。高学費で困っていても、自分がこの大学に来たから悪いのだと思い込んで、なかなか声を上げられない。自分たちの苦しみを声に出して訴え、変える経験というのは今までありませんでした。
コロナ禍の苦しい中で、皆が声を上げ、しかも、実際変えたというのは本当に大きな経験として、多分、将来にも引き継がれていくだろうと思います。
大学任せでなく政府の責任で学びの保障を
これからの運動について。まず一つは、緊急の問題としてコロナ禍でどうするかですが、経済的な支援に関して、選別主義と申請式はやめてほしい。
選別されると、本当に救われるべき人が取り残される可能性がものすごく高くなってしまいます。やはり一律で授業料を下げるとか学費を返還するであるとか、根本的なところに手をつけてほしい。「一律で」を強く訴えたい。
同時に金銭面だけでなくて、例えばオンライン授業の弊害もすごくて、1年生の状況を想像してもらえば、例えば一人で上京してきて、学校に行けないから友達もできない、外にも出られない。ずっとオンライン授業でパソコンとにらめっこみたいな状況の中で、精神状態が安定するわけがありません。そのケアをどうするか、かなり大学任せになっていると思うので、そこもしっかり国が責任をもって何か打ち出してほしい。
あとは就職の問題。企業が採用の数を減らすという報道が出ているようにすごく不安の輪が広がっていて、しかも奨学金を返さなければいけない。どうするのだという問題になってくるので、そこらへんを弾力的に日本学生支援機構にお願いするとかやってほしいなと思います。
FREEは、対政府要請として10兆円の予備費から1~2兆円を活用し、一律学費免除や学生支援給付金の抜本見直し、メンタルケア、進路支援等々9項目を実施するよう要求しています。
そもそも学費が高すぎる
今、退学者を出してはいけないというのを今後のFREEの方針として掲げていきます。並行してそもそも学費が高すぎるという問題に切り込んでいけたらなと考えています。
FREEの1200名のアンケートでも、やめるという人が二人いました。学生と院生ですが、一人は東大大学院まで行って、途中でやめると決断しています。院生が全然尊重されないという「Change Academia(チェンジ・アカデミア)」の皆さんが訴えている問題でもあると思います。
こうした実態からみても、この半年間文科省がやってきたことは誤りだったというのは確実です。もっと抜本的に学生支援をさせるために、例えば野党は一律学費半額を盛り込んだ学生支援法案を出していますが、それをバックアップする運動など進めていきたいと思っています。
地方からも声を上げ、政治に働きかける
FREEは特定の政治団体の応援はしません。ただ、学費、奨学金制度問題に対して、共有できる議員さんをとにかく増やすなどして、政府がFREEの要求に応えるようなそういう政治に変えることを目指しています。
総選挙も迫っていると聞きますので、選挙戦の時は私たちの要求に賛同する候補者にはFREEマークを付けてもらい、学生に対しても投票先をそのマークを目印に決めようみたいなキャンペーンも検討しています。
FREE東京学芸大のメンバーが6月~7月、小金井市議会に陳情書を出して、国に対してもっと学生を支援しろと国に意見書を出すことになりました。
地方自治体が責任をもって奨学金をつくったり、学費支援したりしてほしいし、国に対してこの状況はおかしいという意思表示をしてほしいと思います。
高等教育無償化へ支援を
日本はコロナ禍以前から毎年約7000人が経済的な理由で大学での学びを諦めている国です。その根本には学費が高すぎるという問題があります。
学費がここまで高くなければ、5人に一人が退学検討なんていう事態は起きていないと思います。今こそ、その根本の問題、今まで手をつけてこなかった学費そのものを下げる、無償化実現を世論に訴えていくチャンスだと思います。
今後さらにそういう取り組みをしていきますので、ぜひ広範な国民連合の皆さんや「日本の進路」読者の皆さんにご協力いただければと思います。
(見出しも含めて文責編集部。FREEのホームページは、https://www.free20180913.com )