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[2020年新春メッセージ] 参議院議員・元滋賀県知事 嘉田 由紀子

今、国で必要とされている治水をめぐる滋賀モデル

参議院議員・元滋賀県知事 嘉田 由紀子

 広範な国民連合でご活躍の皆さまに新年のご挨拶を申し上げます。昨年は、熊本県や福岡県など、全国各地で交流の機会をいただきありがとうございました。
 新しい人と人の出会いが、少子高齢化の中、温暖化の影響もあり、災害多発時代に突入してしまった日本の未来を共に切り拓いていくエネルギーになることを強く期待をしております。
 私自身、2期8年の滋賀県知事の時代に、「もったいないで拓く未来を!」を基本理念として、今の時代に必要性が低く効果も限定的なダムなどの大型公共事業を見直し、子育てや身近な災害対策など「命をつなぐ政策」に向けてきました。県職員や自治体の皆さんとの協力のおかげで、滋賀県では人口あたり出生率は全国2位へと回復し、災害対策については、想定外の豪雨にも命と財産を守るための「滋賀県流域治水推進条例」を全国に先駆けて制定しました。これらの成果を国政で活かしたいと、昨年7月の参議院議員選挙に出馬し、国政へと送っていただき、半年が過ぎようとしています。
 この半年を振り返り、何よりも私たちを苦しめたのは15号台風や19号台風等、風水害の猛威ではないでしょうか。一昨年の西日本豪雨では「観測史上最大の豪雨」が襲った地点は123カ所にものぼりました。今年も東日本を中心に「観測史上最大の豪雨」地点が103カ所にのぼり、2年で合計226カ所にも広がりました。つまり「異常豪雨」がいつでもどこでも起こりうる災害多発時代に突入してしまったということです。
 台風19号被害を受けた長野県や福島県など、すぐ現地視察に向かいました。そこで分かったことは、今こそ滋賀県の流域治水のような多重防護の仕組みを埋め込んだ水害政策が必要ということです。
 まず1点目は、川の中で洪水を安全に「流す」対策で、河道の掘削や堤防強化が必要です。ダムだけでは貯めきれない豪雨も増えています。特に川の堤防を超える大雨がきても、持ちこたえることができる「耐越水堤防」の拡大です。技術はすでに確立されています。政策として選ぶかどうかです。
 2点目は「ためる」対策。森林や水田などで水を貯めて、流出水を減らし河川への負荷を減らすことです。
 3点目は「とどめる」対策です。土地利用や建物への配慮で、もともと水害を受けやすい地域では、住宅や福祉施設、学校などを建てない、建てるならかさ上げをして、予防措置を埋め込むという方針を貫くことです。昔から洪水に苦しんできた先人は、地名に水害を類推させる表現を使い、土地利用や建物建設の工夫で被害の最小化を目指してきました。先人の知恵を埋め込んだ仕組みが必要です。
 4点目は「そなえる」対策です。人びとの避難態勢づくりです。ここで重要なのは、子どもを中心とした学びと備えの実践です。本年から小学校の指導要領に自然災害対策についてより詳しく入るということです。
 川の中だけでなく、川の外、つまり私たちが暮らす場での流域全体にハード・ソフトが一体となった政策が流域治水なのです。滋賀県知事に就任した2006年以降、この条例を制定するため、県下全域の潜在的な水害リスク(地先の安全度マップ)を明らかにしたことで、少なからず批判もいただきました。しかし、川の中だけではなく流域全体で予見した水害リスクによる災害警戒区域を指定する「滋賀モデル」としての備えは、いま全国で注目され始めています。ご協力いただいた県民の皆さんや頑張ってくれた職員のおかげです。
 今こそ、自治体関係の皆さんに、地域ごとの先人の水害対策の知恵を掘り起こしていただきながら、これから先に起こるであろう災害問題に予防的な観点をいれ「命をつなぐ」未来型の政策提案をすすめていただけたらと願います。
 最後になりましたが、令和という新しい時代が皆様にとりまして素晴らしい年となりますようお祈り申し上げ、新年のご挨拶とさせていただきます。