部落解放同盟第75回大会
「推進法」具体化、狭山再審闘争などの強化確認
部落解放同盟中央執行委員長 組坂繁之
世界人権宣言70周年の今年、第75回全国大会を先ごろ終えられた部落解放同盟の組坂繁之中央執行委員長に、全国大会のポイントや、この1年どのように運動を進めていくかお話を伺った。
この間、第71回全国大会から、女性代議員の割合を3割以上にしようということで取り組んできましたが、第75回全国大会も実現することができました。男女平等社会実現に向けた組織内目標の一つにしていますから、今大会でも達成できて良かったと思っています。
今年は世界人権宣言70年という大きな節目の年ですが、世界的には戦争や紛争が続いています。日本でも「戦争法」ができて、自衛隊の海外派兵が可能になりました。そうした内外情勢を見ると、やはり第2次世界大戦の苦い経験、つまり基本的人権が侵され、平和が壊されていくということが大きな問題になっていると思います。日本でも、国権主義、反人権主義の政治が進められ、学校教育、社会教育、マスコミなどを通して、あらゆる機会に、中国や北朝鮮を敵視した情報が流され、国民を扇動することが続けられています。
そうした状況に抗して、歴史的にも、ナチズムや日本の軍国主義に対する深い反省を踏まえて、基本的人権が守られなければ最終的には戦争になるということを強く訴えていかなければいけないと思います。人権と平和、この二つは結びついていることをしっかりと明確にして、悲惨な戦争を三度繰り返してはならないということを人類の一つの教訓としたのが世界人権宣言であり、その精神を今こそ具体化していくことが重要です。
そうした思いをしっかりと胸に刻んで「平和なくして人権なし」「人権なくして平和なし」を合言葉に、憲法改悪阻止をはじめとして、多くの人たちと人権と平和を守る取り組みを進めていくということを今大会で確認してきました。
「部落差別解消推進法」の具体化に向けて
「部落差別解消推進法」が、2016年12月に施行されました。ただ、法律をきちんと活用、具体化させていくことが重要です。いつも言われるように「仏作って魂入れず」ではいけませんから、法の周知徹底、相談体制の充実、教育・啓発の推進などの課題に取り組んでいくことに全力を挙げていかなければなりません。特に、「部落差別解消推進法」では、部落差別に関する実態調査を実施することになっていますから、今日的な部落差別の実態を明らかにさせていくことが重要です。また、昨年12月には、兵庫県たつの市で、「部落差別解消推進法」を踏まえた条例が制定されましたが、こうした取り組みも全国的に進めていきたいと思います。
私たちの尊敬する松本治一郎先生(「解放の父」と敬愛された部落解放運動の指導者、部落解放同盟委員長。初代参議院副議長)が、1961年、同和対策審議会(同対審)答申が出たときに「やはりここは部落解放運動が、本当に気を引き締めてやらんといかんよ。絵に描いた餅にしてはいかん」と言っておられますが、まさにそのとおりではなかろうかと思います。
さらに、私たちの今後の取り組み課題は、「人権侵害救済法」の制定です。1996年に「人権擁護推進施策推進法」が制定され、2000年には「人権教育・啓発推進法」が制定されました。一方、国内人権委員会の設置を中心にした人権侵害救済制度に関わる法制度も答申が出され、「人権擁護法案」が提案されましたが、マスコミ規制など多くの問題があり、結局、廃案になりました。
私たちは、法務省に管理されるものではなく、政府から独立した人権委員会であるべきだとか、マスコミ規制も、マスコミの自主的な取り組みに期待するべきであるなどとして、廃案を恐れず廃案を求めず、抜本修正という非常に難しい闘いを進めたのですが、残念ながらうまくいきませんでした。
その後、安倍政権のもとで、ほとんど人権侵害救済制度の論議がされることはありませんでした。しかし、そうしたなかであっても「部落差別解消推進法」ができたのは、自民党では二階俊博幹事長が中心になって、その力が働いたのは間違いないです。(二階幹事長の地元である)和歌山県では、行政側の対応として、知事をはじめ市町村が一体となって取り組んでいましたし、全国的にも、各都府県に部落解放・人権政策確立要求実行委員会が組織されており、中央実行委員会とともに、中央集会や政党、国会議員要請などを粘り強く取り組んできました。この課題については、超党派ということで、与党の公明党、当時の民進党、社民党、維新の会などの野党の皆さんにも積極的に取り組んでいただき、最終的には、自民、公明、民進の共同提案ということで国会に提出されました。
残念な日本共産党の対応
この法案審議に関わって残念なのは、日本共産党の対応でした。私たちは、「戦争法」に反対し、全国でも「戦争をさせない1000人委員会」の取り組みをはじめ、総がかり行動にも積極的に参加しています。共産党の国会議員をはじめ支持者の方たちともいろいろな集会で、立場を超えて「戦争に反対しましょう」と共同した行動を進めているわけです。
共産党は、国会の審議で法案の内容で、修正案でも出して反対するかと思いましたが、真っ向から反対でした。共産党は、今日的に部落問題は解決したという立場なんです。こうした認識は、「社会科学の党」としていかがなものかと思います。
特に今大きな問題になっているように、インターネット上に「部落地名総鑑の原典 復刻版」というものが掲載されたまま放置されていることをどのように捉えるのかということです。こうした差別情報がインターネット上で氾濫している状況では、安易に被差別部落の所在地が検索できることになり、かつてのように就職差別、結婚差別が起こることになります。
こうした差別情報の氾濫について日本共産党は法案審議のなかで、自民党系運動団体の「この問題は部落解放同盟が問題にしているだけでそれほど大きな問題ではない」という方針を紹介するだけで、自らの見解を明確にはしないわけです。
実際に、こうしたインターネット上の差別情報が社会的な大きな問題になっていることを無視して、就職差別も結婚差別も少なくなっていると主張する。差別が少なくなっているのは、部落解放運動の取り組み、さらに連帯、共闘して取り組みを進めている皆さんの闘いの積み上げの成果であるわけです。しかし、一方で、ヘイトスピーチなどでも明らかなように、部落差別をはじめ、在日コリアン、障害者などに対して、公然と差別や暴力を扇動する状況が生み出されています。ですから、差別の実態を無視して、そういう手法で「部落差別解消推進法」に反対することは非常に残念でした。
人権侵害救済制度の確立に向けて
今後の課題は、人権侵害救済制度を確立する闘いです。「障害者差別解消法」や「ヘイトスピーチ解消法」の制定が実現し、LGBT+(性的少数者)の課題、アイヌ民族に関する法律も検討されています。このように、個別課題についての対応が進んでいますが、人権侵害に対する救済制度が必要です。世界でも百カ国以上が人権委員会をつくっていますし、アジア大洋州でももう20カ国がつくりました。アジアの主要な国で国内人権委員会が設置されていないのは、日本と中国、北朝鮮です。
国内人権委員会を設置して、迅速にそして効率よく人権侵害救済ができるような仕組みを実現しないといけない。
しかし、今の安倍政権では、包括的な人権侵害救済制度については反対の姿勢です。ですから、私たちも、国際的な連帯も視野に入れながら、粘り強く取り組みを進めていく必要があると思います。
特に、この間法律を制定させてきた被差別当事者団体などと、それぞれの法律に関わって、積極面や課題などを共同で論議するなどの取り組みを積極的に進めていきたいと考えています。
狭山差別裁判の再審実現に向けて
さらに、狭山再審の闘いは絶対に勝利しなければなりません。この間、裁判所、東京高検、弁護団の三者協議が続けられて、証拠開示が不十分ながら進んできました。特に、2016年8月には、石川一雄さんの「自白」によって発見された万年筆が、被害者のものでないことを科学的に明らかにした下山鑑定が提出されました。また、今年の1月には、石川さんの「上申書」と脅迫状の筆跡をコンピューターを使って分析し、99・9%の確率で同一人物が書いたものではないという福江報告書も提出されました。
私たちは、こうした新証拠を広く訴え、石川さん無実の世論をさらに大きくして再審を実現する闘いを進めていきたいと思います。狭山の闘いは、労働組合との共闘、市民との共闘というように、大きな協働した闘いとして発展してきました。部落差別を許さない、冤罪を許さない闘いとして、なんとしてもこの闘いに勝利していきたいと思います。
差別と貧困を許さず、戦争推進政策を阻止する闘いの強化を
今日的には、「新自由主義」が、ヘッジファンド含めて世界中を荒らし回っていますから、格差社会が急速に進んでいます。一握りの富裕層と圧倒的多数の貧困層という状況の中で、人権を守るという取り組みも大きく後退をしています。今のような世界の8人の大富豪の資産と38億人の労働者など貧困層の資産が一緒だという、とんでもない社会が続けば、いつまでたっても人権は守れない。ヨーロッパの移民、難民排斥運動や、民族排外主義政党の伸張は、深刻化する差別や貧困の問題が背景にあると思います。
ですから、私たちも含めて、差別反対や人権確立をめざす運動がしっかりとしないと、最後は戦争に引きずり込まれていくことになります。そうなると第3次世界大戦は核戦争ですから、これは人類滅亡です。これだけは絶対してはいけないし、させてはいけないわけです。そのためにも、人権や平和の確立に向けて、相当の覚悟をもって取り組みを進めていかないといけないと思います。まさに、人権と平和の確立こそが人類共通の普遍的課題であるとした世界人権宣言の精神というものを、今こそ具体化するために奮闘していかなくてはならないと痛感します。
私も今年で75歳です。戦後70数年、平和憲法のもとで、なんとか日本が直接的に戦争をしないことできたわけですが、今の社会状況を見ると、戦前回帰の政治を進める安倍政権と厳しく対決しなければ、人権や平和は守れないということを強く思います。これは日本だけのことではなくて、まさに美しい宇宙船「地球号」を残していくために、これからの子どもたちや孫たち、次代を担う若者たちのためにも、今、しっかりと、多くの方たちと共闘した闘いを進めていかなければなりません。