混迷を深める世界、日本の将来を考える
丹羽 宇一郎
何からお話ししようかと思っているわけですが、やはり私の立場から言いますと、日米関係、あるいは日中関係、北朝鮮問題、そのなかで「これから日本はどのように生きていけばいいか」ということ、少し日本の将来の姿を考えながら話してみたいと思います。
日本の未来について、「こんなに大変だよ」ということは言われなくても分かっているわけです。しかし、「大変だからどうしよう」ということがほとんど出てこない。「なるほど」と思うような具体的な提案、国是というか、それなりの目標、理念というものは何なのかほとんど明確にされない。国民が安心して次の世代に「こんな日本を残したい」というものはどのへんなのかということを、私なりに少しお話をしたいと思います。
将来世代にどのような日本を引き継ぐか
ここに写真がありますが、中国共産党の2017年から22年までの5年間の政治局委員です。日本で言う内閣でしょうか。閣僚は25人います。この党大会で、この内閣を習近平国家主席が完全に掌握しました。
この習近平体制が中国で確立したことを、日本では大変怖いことのようにマスコミは盛んに言っています。しかし、本当にそうなのか。私は中国に対して決して好き嫌いで言っているわけではありません。まあ、中国は中国だろう。好きとか、嫌いとかあんまり関係ない。日本の役に立つなら大いに中国を利用したらいいし、役に立たないのであれば、やめてもいい。私が習近平の立場だったら、やはり同じようなことをやると思います。つまり、この方法以外に今の中国を統治する方法はありません。
皆さん、いろいろ中国を批判します。トランプ米大統領も批判します。でもトランプさんも独裁といえば独裁。安倍さんも独裁といえば独裁。金正恩さんも独裁といえば独裁じゃないですか。独裁以外に14億の民をどうやって統治していくか。方法はありません。つまり、今の形の独裁以外に中国を統治する方法はありません。中国には国会議員(全国人民代表大会議員)が約3000人もいます。そして、面積は日本の25倍です。どうやって国民を納得させて統治していくか。こういうことを考えますと、今の中国についていろいろ言われ、「将来は危ない」という声もありますけど、必ずしも予想通りになるとは限らない。外国から見ますと日本だって危ない。日本はこんな政権で大丈夫なのかと思っています。
外国から見ますと日本は危ない国ですが、こんな政権で大丈夫なのか、と皆さん方も思っておられるでしょう。大変な国になってしまっている、日本は。私は脅すつもりで言っているわけではありません。ただ内面に隠されていて、多くの皆さんはご存じないかもしれない。自覚されていないわけでありますけど、とんでもない。特に沖縄の翁長雄志知事が怒っておられるのはそこなんです。沖縄が直面している日本の問題を人ごとだと思っている。同じ日本人です、日本のことなんですが、それを人ごとです。翁長さんが怒っているのはそういうことです。それを平然として、今の政権も、あるいは野党の皆さんも見過ごしている。分かっているけれども、アメリカとそれに対していざこざを起こさないという方向を選択していることです。これに翁長さんは、大変に怒っていると思うんです。私自身も同じです。まあ、日本はアメリカに100%近く依存しきっている。
私は、中国にも2年半近くおりまして、そういうなかで、このまま日本を放ってはおけないという気持ちが、私を今日ここに立たせていることになるわけです。
中国・習近平政権の姿
さて、習近平がこれから22年までの内閣に自分の手下、あるいは盟友というのを閣僚に引き上げた。この25人の中で大体60%が新任です。共産党員は8千900万人おり、これが約14億の民を統治・支配しているわけです。
かつて「共産党員はみな立派だ」と言われていましたが、なかには悪いことをやってお金をポケットに入れている人もいた。それを習近平が2013年くらいから「ハエもトラも叩く」って言って退治して約130万人くらい処分をしたわけです。
さて、これからもそれを続けるのか。今さらやめるわけにはいかない。どの国にも悪いことやっている者はいっぱいおります。中国だけじゃありません。日本だってたくさんいます。それは週刊誌などでときどき話題になる。まあ、習近平はそういうことを行って、60%を手下にしたという自信をもっています。
それともう一つ、私が「独裁政権ができた」という理由は、習近平が2年くらい前から軍隊の改革をやりました。中国の軍隊である人民解放軍では、もともと地方の名主や、金持ちがほとんど司令部の長官みたいなことをしていた。軍隊にお金を出すのは彼らなんです。地方の名主みたいなのが自分の軍隊というものをずっと維持してたんです。習近平は、そうした古くからの形を人事異動をやることによって変えました。海外に留学して軍隊の勉強をした若者を軍隊に入れています。アメリカとの演習をやった経験のある人も多くなった。
そういうなかで、軍人が教育されている。習近平は、この1年間でおそらく軍の幹部を60数名昇格させました。この昇格をした方々は、幹部になりましたが、その幹部の家族は相当喜んでいます。「習近平のためなら死んでもいい」と思っているでしょう。
また軍隊の構造的変化を起こしました。「ロケット軍」というものをつくったんです。これからの戦争はロケットが中心になる。このロケット軍の中に「情報参謀部」というものをつくりました。
それは彼の頭の中で、戦争の形がハッキリと変わったことがイメージされているからです。
北朝鮮問題で「戦争に近づくな」
要するに、戦争が軍人同士の戦いだったのは第一次大戦までです。第二次大戦以降、もう戦争は、軍人同士の衝突だけという時代じゃない。国民がすべて戦争犠牲者の対象になる。そういう時代になった。軍人が鉄砲撃ち合うという時代じゃないんです。これが今の東シナ海、南シナ海、すべてにわたって、私たちが考えなきゃいけないことなんです。戦争は明らかに変わりました。つまり、国民が戦争を起こすと決めない限りは戦争が起きない時代、一部の人間だけで決められるような時代ではなくなったということです。つまり、皆さん方も直接被害者になります。
日本には福島第一原発を含め、原子力発電所が54基あります。この54基に、もし爆弾が落ちたらどうなると思いますか。広島に落ちた原爆の何十倍か、何百倍の放射能が放出されるといわれております。そうなれば、日本中が放射能の影響を大きく受けるでしょう。皆さんも例外じゃありません。日本だけじゃない。アメリカは約100基原発があります。中国もおそらく20基近くある。韓国にもある。海外のあちこちにある。
「ハル・ノート」(太平洋戦争開戦直前の日米交渉において、1941年11月にアメリカ側から日本側に提示された交渉文書)が出て、アメリカは日本への石油の禁輸を決めた。石油が禁輸となれば、電力も発電できないし、飛行機も動かない。じゃあ、日本はどうするのか。それで日本は「決断」をした。「このまま野垂れ死にするくらいなら、打って出よう」と。これが第二次大戦の開戦につながりました。
今、それと同じようなことが北朝鮮に起きようとしている。この問題で挑発をしているのは誰か。北朝鮮なのか。アメリカなのか、日本なのかということです。確かに朝鮮半島から核兵器をなくすようにしないといけない。でも、北朝鮮はすでに核兵器を持っているんです。
金正恩のことがいろいろ言われていますが、直接会った人は、ほとんどいません。いないのに、どうして金正恩のことを狂人のように言えますか? 「北朝鮮の専門家」といってテレビとかあちこちに出ている人がいるけれども、会いもしないでなんでいろいろ言えるのか。
「力と力じゃない。話し合いでいかなくてはいけない」ということを韓国の文在寅大統領も、そして、中国の習近平主席も言っています。ところが、「力で圧力を」と言うのは安倍さんとトランプさんだけです。
南シナ海問題も私は中国に「おまえ、やりすぎだ」ということぐらいは言わなきゃいかんと思っています。ASEANも中国に遠慮しています。習近平に、「これはもっと考えてくださいよ」と言うことぐらいはできる。だけど、それ以上に力と力でいつまでも対立するというのはあまりにも愚策だと思います。
話し合いですから、一気に変えることはできません。一人の力でもできません。しかし、私が言いたいのは有識者、学者、野党はキチンと言いなさい、と。私が「戦争に近づくな」と言うのは、そういうことです。
それで、「中国が襲ってくるかもしれないから、アメリカさん、頼むからそのときは守ってください」って言ってアメリカの言いなりになっちゃいけない。アメリカはやはり、「アメリカ・ファースト」です。それは当たり前のことです。アメリカ自身を大事にする、要するに「ミー・イズム」です。じゃあ、われわれもナショナリストになるのか。いや、われわれがめざすのはグローバリストだ。世界全体と仲良くしなきゃいけないということなんです。
皆さんもそうです。「北朝鮮は怖い」「中国は怖い」とおっしゃる。「中国は怖い」って言うけど、中国に行かないで、中国のトップにも会わないで、「中国は油断も隙もない」「中国に攻められている」「ヤツらは尖閣諸島に襲いかかってくる」ということが言われていますが、それはどうか。われわれ自身も中国に悪いことをしました。
確かに習近平は「チャイナ・ファースト」でやっている。しかし、どの国もそうです。日本人も「ジャパン・ファースト」です。当たり前じゃないですか。だから、「中国人はけしからん」「俺は中国の言うことなんか聞けない」「だからアメリカに頼らなければいけない」という発想はおかしいのです。
「アメリカに頼まないと中国が襲ってくる。侵入してくる」と言いますが、本当に侵入してくると思いますか? 尖閣諸島を取ってどうするつもりでしょうか? 私は領土は絶対に渡してはいかんと思っています。私は中国に対しても領土では一切譲歩しちゃいかんと思います。しかし、1972年の日中共同声明、あるいは平和友好条約を含めて、両国のいくつもの声明など取り決めにはキチンと漁業権や青少年の交流をしましょう、共同開発をしましょうと書いてある。そういうことを両国の首脳が了解しているはずです。そこに立ち返らずに「中国は怖い」「あんな連中に負けてたまるか」と言って、そのたびにアメリカに頼んで、なんとか日本を防衛してもらおうというのはどうなのか。アメリカは「防衛してやってもいいけど、これだけカネを出せ」と言っているわけです。アメリカはただ対中国の防波堤として日本を利用したい。だから、日本に米軍を駐留させている。これを日本が頼んでいるということの実態です。
今も続く占領状態に怒り
今日はここで私は一つ、ぜひお話ししておきたいのは、『知ってはいけない真実 隠された日本支配の構造』(矢部宏治著、講談社)という新書のことです。この本には日本は、日米地位協定で戦後70年間、敗戦状態と同じような状況になっていると書いてあるんです。こんな国は日本以外にない。同じような敗戦国のドイツとも違います。これはどうしてですか。私は「それは本当ですか?」と政権のトップに近いある方に聞きました。そうすると、「事実です」とおっしゃった。だが、「事実だけど、なんとかしなければいけない」と言わないで、よく日本のリーダーの役割を務めていますねと思う。こうしたことに国民は何と言うんですか。少なくとも、有識者とか学者とかが、この本当のことに「大変だ」となぜ言わないのでしょう。
今日の「朝日新聞」に、2006年1月に横須賀市で起きた米兵による強盗致死事件について載っていました。米兵が日本人の女性一人を殺したわけです。この裁判の第一審で何千万円かの支払いが命じられ、それでようやく示談が成立した。犯人の米兵は罪もない日本の女性を殺しておいて、「永久免責にしてくれ」と言ったそうです。そして、賠償金は約4割(約2850万円)を米側が支払う。残額(約3850万円)は日本政府が負担するというのです。日米地位協定の中にそういう文言はないけれども、1996年にできた「日米特別行動委員会」(SACO)で、もし米側が算定した慰謝料が日本国内の確定判決の認定額に満たない場合、その残りは日本政府が払うという協定が具体的にできた。今まで13件ある事件のうち、4億2千万円をアメリカに代わって日本政府が払っています。こんなことは許せない。
もう一つ、昨年4月に沖縄県うるま市で米軍属が沖縄の若い女性を殺した事件がありました。今、裁判が行われていますが、犯人の米軍属は一切黙秘しています。被害者の親は「なんとしても極刑に」と言っていますが、日本の裁判所がどのような決定をしても結局、最初の事例と同じで、申し上げたような結論になるわけです。
それは法律的にも、米軍が治外法権みたいになっているということなんです。それが私が申し上げた新書にも書いてある。SACOみたいなものがある。これは密約です。ところが現実にそういう問題が起きている。それが真実だということを私は、今年知りました。70年間も占領下と同じようなことが続いているわけです。それが今の沖縄での基地の問題にもつながっています。
制空権もそうです。米軍の基地周辺では一定の高度以下は日本に制空権はありません。したがって、沖縄だけじゃないです、関東地方を含めて民間機は飛行高度を変えざるを得ないんです。沖縄では民間航空も低空飛行を要求されている。
要するに米軍で何が起きても、日本には捜査権も何もありません。日本に知らせなくてもよいというような状況が、70年間にわたって続いている。私は許せない。バカにするんじゃないよ、日本を、という思いです。それなのに、なんで日本人は黙っているのか。日本人はなんで悔しくないのか。こういうことが現実に起きているということを、皆さん知ってほしい。去年まで私はこんな激しいことは言いませんでした。しかし、知った以上は黙っているわけにはいきません。
中国の台頭にどう向き合うか
今、中国を抜きにして世界を語れません。皆さん方に申し上げたいのは、「中国は汚い、ウソつきだ」という昔の日本人の中国像と同じように思っちゃいけないのです。中国人もまた「日本人は怖い」「何をやるか分からない」「後ろから刀で切りつける」……と思っている。日本人は「昔の名前の日本人」だと思っている。しかし、日中ともに変わっていない人はいません。70年前の中国より、今の中国の方があらゆる分野で大きくなっているし、自信ももっている。
そういう状況の中で日本の新聞は日本人に都合の良いことばっかり書くんです。いいことばっかり。日本人にです。中国の悪いことばっかり書く。それはどの新聞社もそうです、大体。でも、ちょっと度が過ぎる。だから、中国のいいことも書いてあげなさいと思う。そうすると平均して「なるほど」と思うわけです。「習近平は独裁政権を継続して、これからもやるぞ」「日本に厳しくなる」と書いていますが、そんな断定はできません。
今、中国は、国際情勢が非常に不安定な中で、国内も決して盤石じゃない。したがって、国内をキチッと治めなければならない。ということで彼は一心不乱です。この2年で独裁権を確立したから日本にやや優しい、穏やかな態度を取るようになりました。でも、まだまだ油断しちゃいけません。時に、日本にも厳しい態度を取る場面も出てくるでしょう。それは、やはり中国経済が盤石じゃないからです。習近平は2020年までに「所得倍増」という夢を描いています。1960年代の日本の池田勇人首相と同じです。要するに、中国は日本の後を追っかけている。国民の生活を豊かにしなければ中国も落ち着きません。思想だけじゃ動かないです。インフラなどをキチッとしないと国民の支持は得られません。
今こういう形でまあまあ習近平の体制が固まりつつあるというのは、中国の国民生活が良くなったということを考えなくてはいけない。われわれが思っているよりもずっといいです。皆さん方の中には、中国嫌いな方もおられるでしょう。私だって中国より日本がよくないとは思いません。しかしながら、中国の悪口を言って日本がよくなるんだったら、皆で合唱したらいいんだ。中国の悪口を言う人は、「ザマ見ろ」と言って気持ちいいかもしれない。でも、それだけで日本は全然よくならない。そういうことを頭に入れてほしいです。
アジア24カ国・地域とオーストラリア・ニュージーランド(2015年 名目GDP国連統計) 単位:億US$
1 | 中国 | 111,585 |
2 | 日本 | 43,831 |
3 | インド | 21,162 |
4 | 韓国 | 13,779 |
5 | インドネシア | 8,619 |
6 | (台湾) | 5,252 |
7 | タイ | 3,952 |
8 | (香港) | 3,092 |
9 | マレーシア | 2,963 |
10 | シンガポール | 2,927 |
11 | フィリピン | 2,924 |
12 | パキスタン | 2,665 |
13 | バングラデシュ | 1,945 |
14 | ベトナム | 1,932 |
15 | スリランカ | 823 |
16 | ミャンマー | 626 |
17 | (マカオ) | 462 |
18 | ネパール | 207 |
19 | カンボジア | 180 |
20 | 北朝鮮 | 161 |
21 | ブルネイ | 129 |
22 | ラオス | 126 |
23 | モンゴル | 118 |
24 | モルディブ | 34 |
25 | 東ティモール | 29 |
26 | ブータン | 21 |
– | オーストラリア | 12,309 |
– | ニュージーランド | 1,734 |
アメリカも中国抜きにしてはもう世界は語れない、世界を支配する力はないんだという見解を堂々と世界に発表している。例えばアジアには24カ国・地域があるんですが、そのうち日本と中国とで経済規模は7割を占めます。中国のGDPは11兆ドルで1番。2番目が日本ですが、4兆9千億ドルで中国の半分以下。インドが2兆2千億ドル。韓国が1兆4千、北朝鮮は約その100分の1。このアジア24カ国・地域の中で、1兆ドル以上の経済をもっているのは5カ国。中国、日本、インド、韓国、インドネシアです。この5カ国でアジアの90%以上を占めている。そして、残りの19カ国・地域で10%しかない。つまり、台湾からブータンまで19あるけど、アジア全体の1割しかない。(数値は、前頁データ表と資料出所が異なる)
じゃあ、今は中国は11兆ドルあるけど、30年前にはどのくらいあったか。今6番の台湾あたりです。中国は30年間で経済規模が25倍になったということです。これを認めないというわけにはいかん。そしてまだ毎年6~7%伸びている。
貿易量も同じくらい。今、おそらく世界全体で35~36兆ドルです。そのうち中国が13%を占めている。日本が6~7%くらいです。アメリカが12~13%です。まあ、貿易量でいうとやっぱり、日本は大きく負けている感じです。
それから世界における科学者の数ですが、これはOECD(経済協力開発機構)の調査では中国人が大体162万人います。アメリカは138万人。日本は66万人。中国は海外への留学生がここ40年間で404万人いる。この中の260万人くらいが国に帰ってきて、国営企業とかそういうところに入り始めた。もちろん軍隊にも、政府にも。
各国GDPの世界シェアの推移(2022年は予測)</ br> (資料出所=IMF。ドル表示のPPP=購買力平価による比較)
– | 1980年 | 1990年 | 2000年 | 2010年 | 2016年 | 2022年 |
日本 | 7.77 | 8.90 | 6.83 | 5.03 | 4.35 | 3.67 |
アメリカ | 21.81 | 21.97 | 20.62 | 16.76 | 15.49 | 14.01 |
中国 | 2.33 | 4.11 | 7.42 | 13.90 | 17.71 | 20.54 |
インド | 2.91 | 3.63 | 4.17 | 5.95 | 7.24 | 9.10 |
ブラジル | 4.35 | 3.68 | 3.17 | 3.14 | 2.61 | 2.33 |
カナダ | 2.19 | 2.06 | 1.83 | 1.52 | 1.40 | 1.27 |
フランス | 4.41 | 4.09 | 3.36 | 2.62 | 2.28 | 2.04 |
ドイツ | 6.60 | 6.01 | 4.87 | 3.67 | 3.33 | 2.94 |
イタリア | 4.53 | 4.17 | 3.26 | 2.33 | 1.86 | 1.60 |
イギリス | 3.80 | 3.68 | 3.12 | 2.52 | 2.32 | 2.06 |
まあ、ことほどさように中国が台頭してきている。そういうことを考えると世界の科学者の数においても、日本は大きく中国に後れを取ってきているということです。それがさらに、例えばスーパーコンピューター、これも10年くらいアメリカがトップを占めてきましたが、どうも中国が1位、2位を独占し始めた。ということは、日本は10位以内に1社しか入っていません。
このように新しい技術のかなり分野について中国がリーダーとして走り始めている。また、アメリカのいろんなものを中国は買収し始めた。M&Aを始めた。
「ツキジデスの罠」教訓に
こうしたなか、中国とアメリカは「ツキジデスの罠」じゃないけど、戦争はないかもしれないけれど、きわめて危ない関係にあります。ということは、両国とは絶えず気をつけて付き合わなきゃいけない。そういう中にわれわれが巻き込まれてはいけないということです。
これからの日本の将来を考えたときに、日本はどういう国になるべきか。日本が今の中国、東シナ海においてどのように平和的立場を維持していくか。さらに日本がどうしなきゃいけないのか。私はただ一つの道しかないと思っている。これは選択の余地がありません。自然環境からいっても、経済情勢からいっても、あるいは政治的・地政学的なリスクからいっても、日本はとにかく世界中の国々と仲良くやる、平和を守らなければならないのです。戦争に近づいてはいけないということです。
第二次大戦後、70年間、日本は戦争に近づかない、大きな戦争に関与しないという方針でやってきました。では、戦争に近づくと何が起こるか。同盟関係があったら必ず戦争に巻き込まれます。これは過去の戦争は全部そうでした。今の同盟関係はさらに複雑になっています。このことを考えると、例えば今の北朝鮮に対して日本はアメリカと一緒になって、「力と力」という形で戦争に近づいている。アメリカとの同盟関係があって、アメリカに頼まれたらどこへでも行かざるを得なくなる。そこへ、インド、日本、アメリカ、オーストラリアと軍事演習が始まろうとしています。
同盟関係があることによって、本当に日本は危ない橋を渡ることになるから、「力と力」と言わないで、韓国、中国、日本がなんとか話し合いができるような方向にもっていくべきだと思います。かといって、北朝鮮に「あなたの言う通りですね」と言う必要はない。しかしながら、挑発グループには乗らないことが肝心だ。乗っていいことは一つもない。
挑発グループに乗ったからって、拉致問題が解決することはない。本当にこの問題を解決しようというなら、安倍総理が直接、北朝鮮に行くことです。トランプさんに頼んで解決してもらうことではない。「力と力」では必ず戦争になる。それは「ツキジデスの罠」が示す通りです。アメリカの大学の教授が言うように、過去500年の間に起こった16回の争いのうち、12回は大きな戦争になった。21世紀になったら、人間は皆賢くなったのか。人間なんて全然賢くなっていない。昔よりもむしろ勇気がない。勇気をもって発言する人がどんどん減っている。第二次大戦前よりも自分たちは優れていると言えますか。言えない。ということを考えると、やっぱり21世紀になっても「ツキジデスの罠」っていうのは現存するのではないかと思わざるを得ない。だから、国際政治の展開を考える上でも、どうしても北朝鮮の問題は話し合い以外にないと思います。
北朝鮮以外の他のいくつもの国が核爆弾を持って、開発、実験をしているのに、「北朝鮮だけはやめろ」というのは何なのか。第二次大戦に勝ったからといって、アメリカ、ロシア、フランス、中国、イギリスだけが核を持っていいなんて誰が言ったんでしょうか。その後に核を持ったインド、パキスタン、イスラエルも、誰が許可しましたか。北朝鮮だけダメなどとどうして言えるのか。
日本にはどうしても平和な国際環境が必要です。日本はあらゆる国と仲良くなって、貿易をやらなくてはいけない。戦争状態になってモノが入らなくなったら日本はお手上げです。食べていけない。日本の食料自給率は40%以下。さらに農地も減らしているような状況で、日本はこれからどうやって食べていくのか。私が言いたいのは、「農業は国の宝だ」ということです。本当に日本は農業を大事にしなきゃいけません。農業は国の宝であり、それと水を大事にしなければいけません。この大事な水を守ってきたのは誰か。農業であり、農民です。日本は世界の中でも水に恵まれている国です。
選択の余地はない。原子力発電所は、ものすごいリスクです。日本とアメリカの軍事関係、これまで説明したように、よく考えてやっていかなくてはいけない。
したがって、憲法9条の改悪は絶対に許せない。戦争に近づいちゃいけない。あの9条を変えたら明らかに戦争に近づくんです。だって、日米の同盟関係と集団的自衛権、安保法制から共謀罪とか日米地位協定という一連のつながりで見たら、これは何としかしないといけないと思う。情けない代議士さんなど見ていると、われわれ自身が何とかしなくてはならない。「今はできない」とじっとしてたら本当に日本は変わりません。
われわれ一人一人が一歩前に踏み出し、できることから始めるのが日本の将来への希望の光となるでしょう。
プロフィール にわ ういちろう1939年生まれ。元伊藤忠商事会長・社長。2010年から12年、中国駐在特命全権大使。現在、日中友好協会会長。