36年ぶりの24時間ストライキを闘って
臨港バス交通労働組合 小山 國正 委員長に聞く
「疲れて」何があってもおかしくない状態
昨年12月4日、36年ぶりの24時間ストライキに至った。マスコミも含めてずいぶんと注目され、激励も受けた。
出発点は、「長時間労働、長時間拘束、人員不足」という悪循環の繰り返しという長年の課題からだった。バス運行の場合、運転時分が1分でも延びると、バスの回転が悪くなって、結局それは増車・ダイヤ増加につながっていく。それに伴って人員増加になればよいが、人が増えない。長時間労働ということになってしまう。
今の交通事情は、信号も非常に増え、路上駐車や自転車も非常に増えて、バス運行に以前より時間がかかるようになっている。本当はダイヤにもっとゆとりをもって走りたいのだが、ゆとりをもたせるにはダイヤを増やして人も増やすことだ。しかし、ここでいつも壁にぶつかっている。
「ダイヤ改正」の要求とは、必然的に要員増加ということを会社側は分かっている。しかし要員増加が追いついていない。とくに最近は、工場跡にマンションが激増し人口が増え、海側でも再開発で事業所も増え、羽田(空港)との連絡道もつくられるなど、バス運行を強化していかなければならない。公共交通としての重要性が増している。本当は、プラスアルファでもっと強化していかなければならない。
しかし、運転手の健康状態といえば、正直なところ皆「疲れている」わけだ。何があってもおかしくない状態。残業60時間を超えている状況は、いっこうに解決していない。これは業界全体の課題と言っていい。
こういうパンパン状態で、バス運行しているのが、少なくとも10年は続いている。この10年のうらみつらみ・不平不満のすべてが、12月の秋闘で重なったということなんだ。
この闘いで中心的な要求は「中休」――中間解放の拘束時間が長過ぎるので、減らせというものだった。要求はあくまでダイヤの総拘束時間を短くせよ=人が増えるということで会社側は拒否するが、こちら側は運行「安全」の角度から求めている。結果、減らすことはできなかったが、現在の「中休」手当700円に、プラス300円を獲得した。金銭だけではわれわれは非常に不満足だが。
しかし、ここで闘いは終わったわけではない。ストライキの旗はいったん降ろしたが、要員対策は継続協議で続行している。
今回の闘いについて、地域からは今のところ、「適正な要求の闘いだ」という評価をいただいている。
公共交通としての社会的責任
路線バスには、なんといっても公共交通としての社会的重要性、責任がある。この公共交通という社会に不可欠のインフラをどう整備するかが、大きな課題だ。労働者にも、企業側にももちろんその社会的責任があるが、川崎市など自治体にも地域の不可欠のインフラとしてのバス交通を守る責任がある。
財政的には都市部では自治体などから補助金がほとんど出ていない。しかし、カネだけの問題ではない。道路環境、バスターミナルなど交通環境を良くするなど、自治体で改善できるところはいっぱいあると思う。
川崎は地下鉄のような交通手段がない。東西に長い市域だが、とくに東西方向の交通手段は南武線、それに大師線くらいで、その駅まではすべてバス輸送に頼っている。だからバス交通は、市民生活に不可欠のインフラなわけだ。安全で、定時運行など快適なインフラを保障する責任が、会社にも自治体などにもある。
財政的補助はあればうれしいが、その前にもう少し走りやすい環境さえあれば、バス1本が遅れることがなくなってくる。そうすると、要員が少なくてすむ。そういう発想をお願いしたいが、なかなかやっていただけない。だから毎年、川崎市に要請を上げたりしているが、動いてくれない。
われわれ労働者と地域の利用者を含めていっそう声を上げていくかと考えている。公共交通としてのインフラをどう整備するか、市役所の対策はあまりにも手薄ではないか。
川崎の東側半分は、市バスと臨港バスが担っている。しかし、連携がなく、競争とまでいかないにしても、両方のバスが入り乱れて走っている状況だ。連携してやれば改善できることもいろいろあると思う。市も改善案をもっているだろうが、川崎市交通局側には、そこまでやろうという気が見えてこない。民間に任せておけばよいというレベルで考えているから、そういう発想が出てこないのではないか。行政の皆さんは民間バス事業の困難な実情を知っているはずだ。つまり公共交通の役割についてきちんとした位置づけがされていないということだ。
交通政策基本法(2013年11月制定)や「交通政策基本計画」(15年2月)などと言うが、われわれにはまったく見えない。川崎市には「地域公共交通会議」がある(組合も入っている)。ここではコミュニティバス新設の話はあるが、全体として肝心な議題は出されてこない。本来の公共交通のあり方や活性化などは、話に出てこない。
安全がいちばん大事。長時間労働をなくす
労働時間規制について、交通系は外されている。今度の時間外規制も交通系は外すという話もあった。規制強化というが、繁忙期は100時間までは認めると。公式に100時間までは良いということになったら、過労からの事故や労働者の心身に大きな負担となるのは避けられない。そんなことやってて1年前の軽井沢でのような事故がなくなるわけがない。
命にかかわるところは、規制をいちばん強化しなければいけないところではないか。ホワイトカラーよりも少し長いというレベルは分からないではないが、いつまで放置するのか。大事故になったらどうするのか。
そういう場合に運転手のせいにしないでほしい。あのスキーバス事故を起こした悪質な事業者ほどでないにしても、あの程度に近い事業者は全国にゴマンといるわけだ。いちばん規制をかけなければいけないところを、最初から除外とはどういうことか。
スキーシーズンになれば運転手不足で、60歳を超えても、また大型バスに乗ったことがなくてもハンドルを握る。休日もまともにとれない。一人でやっていれば眠くなったり、トイレへ用足しなどいろいろあり、これでは当然事故も起こる。本当に悲惨な事故だ。
それでようやく昨年末「対策委員会」が設置され、スキーバスだけの対策がとられた。しかし、他のバスはどうするのか。通常、全国の事業者は路線バスと貸し切りバスがセットになっている。「対策委員会」は貸し切りバス問題だけで路線バスはいじれない。
だから分かってはいるが、放置されている。これでは事故はなくならない。公共交通の社会的責任としての「安全」確保のためにも、われわれももっと闘わなくてはいけない。労働者がもっと連帯して闘うとともに、地域の全体で安全な公共交通を求めて市や国に要求していかなくてはいけないと思っている。
臨港バス交通労組は私鉄総連加盟。
川崎鶴見臨港バス株式会社(本社・川崎市。川崎市と横浜市鶴見区の臨海部を主なエリアとするバス専業会社)