「土人」 発言根深い差別

沖縄への強権的政策が再生産

広範な国民連合全国世話人、元沖縄県教職員組合委員長石川 元平
g-ishikawa

 「触るな、くそ。どこつかんどんじゃボケ。土人が」「黙れ。こら、シナ人」
 この耳を疑うような、侮辱的な差別暴言は、10月18日、高江のヘリパッド建設阻止行動に参加した芥川賞作家・目取真俊氏に浴びせられたものだが、われわれウチナーンチュ全体に向けられたものであろう。暴言を発したのは、大阪から来た20歳代の機動隊員2人だが、機動隊を派遣したのは安倍政権そのものであり根は深い。
 「土人」や「シナ人」という言葉は、死語にはなっていなかった。それどころか、沖縄への強権的かつ構造的差別政策が続く安倍政権下で再生産されているのではないか。 さて、「土人」という言葉は、戦前、日本軍国主義が侵略戦争に血道を上げていた時代に「南洋の土人」という歌がはやった。もっと先には「人類館事件」がある。それは沖縄人差別として、昔から今に伝わる話である。1903年、大阪で開かれた「第5回内国博覧会」で「学術人類館」と称するかやぶき小屋に、朝鮮人、アイヌ、台湾先住民族などと一緒に、沖縄から連れてこられたジュリ(遊女)2人が見世物にされた事件であった。
 卑近な例もある。2013年、翁長雄志那覇市長(現知事)をはじめとするオール沖縄の代表が安倍晋三首相に「建白書」を持って直訴に行き銀座デモをした際に浴びせられたヘイトスピーチである。怒りと驚愕の中、覚醒した人も出たのではないか。やはりわれわれはウチナーンチュだと。
 屋良朝苗元知事は「2度と沖縄は国家権力の手段(物)として利用され犠牲を被ってはならない」と県民に遺訓を残した。屋良氏に仕え、また私の長年の経験からも言えることがある。それは、沖縄問題はすぐれて日本問題ということである。
 多くの国民は「日米安保条約」が日本国憲法の上位に位置づけられている実態を知らない。さらに条約に付随する「地位協定」によって、基地の使用や管理が米軍まかせにされ、首都圏の空さえ米軍の管制下にあることを知らされていない。また、協定とは別に国民が知らない多くの対米「密約」も存在する。地位協定によって設置されている「日米合同委員会」は、米軍の治外法権的な特権を守るための存在だ。
 昨年5月、横浜地裁は「厚木基地騒音訴訟」で自衛隊機の夜間・早朝の飛行差止を命じる画期的判決を下しながら、米軍機に対しては「我が国は米軍機の飛行を規制する立場にない」と、原告の請求を棄却した。2004年の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事件でも、日本の警察は警察権を行使できなかった。このような不条理は、米軍が日本の基地を自由に使用するための密約が、地位協定によって守られているからである。こうみてくると日米安保体制は占領時代と変わらない、対米従属体制だということが分かる。したがって、対米従属からの脱却は、日本の完全な主権回復と真の独立を勝ち取る国民的な命題であり、責務であることも理解できよう。
 最後に、自詠の琉歌を一首。「機動隊500何の(ぬぬ)ための(みぬ)派遣 覚出(うびじゃ)しゅさ昔(んかし)武力併合」。現在沖縄は、高江、辺野古をはじめ厳しい闘いを余儀なくされているが、子孫のために弥勤世(ミルク世)を切り開くための岐路にさしかかっているのだと思う。だから、マジューン(一緒に)力を合わせて、チバティイチャビラナヤーサイ(頑張っていきましょうね)。

石川 元平(いしかわ げんぺい)
78歳 本稿は沖縄タイムス紙「論壇」10月21日掲載に加筆

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