生活保護を阻害する扶養照会は不要!

全国の自治体での取り組みを

広範な国民連合・東京世話人/足立区議会議員 小椋 修平

コロナ禍で
職も住まいも失う人々

 新宿や池袋などで実施している食料配布・相談会にはコロナ禍以前は中高年男性が中心で100人~150人だったのが日に日に人数が増し、最近は500人を超える行列が続く。女性、若者、外国人など老若男女、幅広い世代が食料を求めるなど、リーマン・ショック時にもなかった異変が起きており、困窮者支援の現場は「社会の底が抜けた」状態が続いている。


 「反貧困ネットワーク」を中心に、コロナ禍で職も住まいも失った人々の支援に取り組む「新型コロナ災害緊急アクション」には2年半で1500件を超えるメール相談が寄せられている。その6割が派遣切り寮退去や家賃滞納などで住まいを失い、スマホ料金滞納で電話利用停止という状態だった。

 私は同団体の駆けつけ支援員を務めてきた。住まいを失い所持金もない状態で利用できる公的制度は生活保護しかない。その数多くの方たちの生活保護申請に同行し、アパート転宅支援などを行ってきたが、制度の案内をすると「生活保護だけは受けたくない」「絶対に嫌です」という若者を何度も目の当たりにしてきた。

扶養照会は
意味があるのか?

 生活保護を申請すると、福祉事務所から親族に援助の可否を問う手紙「扶養照会」をする。以前から、シングルマザーからの生活困窮相談で扶養照会の話をすると、「いや、大丈夫です。自分で頑張ります……」と、みるみる顔色が変わり、家族に知られたくないと申請を諦める方を何度も目の当たりにしてきた。
 親きょうだいに知られたくないと申請を諦める、通知されたことにより親やきょうだいから縁を切られた、家族の恥だ!と罵倒されたなどの事例が後を絶たない。通知された親族は、生活に困っているならば援助しようとはならず、役所からの通知に戸惑う。福祉事務所の職員は事務作業の負担が増え、さらに、通知を受けた家族から苦情の連絡がくるなど、誰にとっても良いことが一つもない。
 「福祉事務所に苦情がきて、最後の縁が途切れるんですよね」と本音を漏らす福祉事務所職員もいる。扶養照会・扶養義務は家族の支え合いでなく、親族不和、トラブルの原因となり申請を妨げているのが実情である。
 民法877条1項には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」、同2項には「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる」と定められている。照会は通常、二親等以内(親・子・きょうだい・祖父母・孫)の親族に対して実施され、特別な事情がある場合は、三親等の親族に連絡されることもある。先進国で同居していない親族に対してここまで広範囲に扶養義務を課しているのは日本くらいで、弁護士会等からも改善を求める声が上がっている。
 親族に通知して援助につながった例はあるのかとの疑問から、扶養照会の実績について議会質問したところ、2019年、新規保護決定世帯数2275件に対して援助はわずか7件(0・3%)であることが明らかになった。「コロナ災害対策自治体議員の会」や「新型コロナ災害緊急アクション」で、東京都や厚労省に対して扶養照会、扶養義務の廃止を求めて要請してきた。だが、生活保護法4条2項に「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする」の規定があるためと難色を示していた。
 国会でも野党議員から扶養照会の問題について取り上げられ、困窮者支援団体からは当事者からのアンケート調査結果や扶養照会廃止の署名活動などが行われた。
 そうした中で21年3月30日、厚生労働省から自治体へ「『生活保護問答集について』の一部改正について」との通知が出され「10年以上音信不通」「相続などでもめている」「扶養照会を拒む場合にはその理由を丁寧に聞き取る」などの事例を挙げて、本人が拒む場合、事実上、扶養照会しなくてもよいよう改善された。

自治体によってバラつき

 超党派の自治体議員で、東京・神奈川・埼玉・千葉、1都3県157自治体の「生活保護のしおり」を取り寄せ、扶養照会に関する記載内容を全てチェックして調査結果を記者会見で発表した。9割の自治体で扶養照会についての改善の記載がなされていないことが明らかとなった。この調査がきっかけで厚労省から自治体へ「生活保護のしおり」の改善の通知が出された。
 また、一般社団法人「つくろい東京ファンド」がホームページで公開している、扶養照会を止めるための申出書の活用を議会で提案したところ、足立区では、生活保護申請の際に、親族の氏名、住所等を記載する扶養義務者申告書に援助が期待できない事例を4点掲載し、申込者が該当する番号を記載するよう改善された。
 東京新聞の表の通り、「照会」実施率が10%以下の中野区、新宿区、足立区などもある一方、80%を超えている杉並区など自治体によって大きな差がある。照会することが保護の要件であるかのような誤った運用をしている自治体がある。また、金銭的援助につながった世帯数もゼロやわずか数件、最多でも練馬区の12・2%で実際に援助につながっていない。
 同じ東京都内の市区でもこれほどのバラつき、差がある。全国の自治体でも同様か、もっとバラつきがあるかもしれない。

扶養照会の改善に向けて

 8月に行われた生活保護問題対策全国会議の議員研修会で、扶養照会の改善に向けてのチェックポイントとして次の通り報告をした。
 ・新規保護決定世帯に対して扶養照会数、実施率や、照会による親族からの回答数と回答内容
 ・扶養照会を行った結果、金銭的援助の数
 ・生活保護のしおりの扶養照会に関する記載内容が厚労省の通知通り反映されているか
 ・生活保護申請の際の扶養義務者一覧の記載事項に扶養の見込みがない事例を挙げて番号を記載するなど改善されているか
 ・自治体のHPやSNSで扶養照会の改善内容について発信しているか
 厚労省は自治体への通知で具体的事例を挙げて申請者の事情に応じて照会しなくてもよいと、事実上、扶養照会しなくてもよいよう改善されたが、一方で、民法、生活保護法は従来通りで照会は実施が原則のまま。結局、それぞれの自治体の判断となるため、自治体によって対応にバラつきがある。扶養照会の廃止を求めるとともに、扶養照会は不要であることを改めて求めていきたい。

 全国の自治体での取り組みを呼びかけたい。

22年9月8日 東京新聞より引用

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