国民の命の危機と戦争の危機と

軍事費倍増ではなく、国民生活こそ防衛せよ

『日本の進路』編集部

中村進一 ( 三重県議会議員)

 10月から食料品価格が軒並み上がり、電気料金も前年同月比26%(東京電力)のアップだ。長く続くコロナ感染症もあって、仕事を失ったり、収入が大幅に減ったりの多くの国民にとって極めて深刻な事態だ。
 ところが、「防衛力の強化が最優先課題」とする岸田政権は、軍事(防衛)費を2023年度からの5年間で総額45兆円程度とする。倍増の大軍拡だ。武器を売り込む米国は大喜びだろう。だが、財政赤字を理由に毎年社会保障費は削減され年金も削られ、この10月からは後期高齢者医療費窓口負担が2割となった。国民の生命を削っての大軍拡を許してはならない。
 中国を「敵」にして軍拡を正当化する「国家安全保障戦略」改定と軍拡予算に反対し、「国民生活こそ防衛せよ」の声を上げよう!

何故かくも国民各層が
犠牲にさらされるのか

 9月の消費者物価指数は、前年同月と比べ3・0%上昇。上昇は13カ月連続で、消費増税の影響を除くと31年1カ月ぶりの水準。10月はもっと上昇しているに違いない。
 円安の影響が決定的だ。もともとわが国はアベノミクスと称した日銀の超金融緩和で円安誘導、輸出大企業の売り上げと海外資産配当を「円安差益」でかさ上げし、同時に、資金還流で米国を支えてきた。株価など資産価格はバブル化し上昇、わが国資産家たちも大もうけ。企業は、非正規低賃金労働で利益を上げて設備投資にも回さず、株主配当だけを増やした。
 今やっている円安対策での為替介入など、貴重な国民の資産をドブに捨てるようなもの。介入をあざ笑うかのように150円台の円安(21日段階)だ。そのツケが、国民に押しつけられている。
 上昇しているのは消費者物価だけではない。全国の農家も大変だ。農業生産資材は8月総合で前年同月と比べて9・8%上昇、なかでも肥料は38・4%上昇、飼料は21・2%上昇。ところが生産物の売り値は、総合で8月辛うじてプラスの0・4%上昇。コメは実に14・7%も下落、生乳は0・3%下落である(以上、農業物価指数)。これでは再生産に必要な採算は取れない。酪農畜産農家をはじめ全国の農業者は廃業の危機に直面している。
 わが国食料安全保障は文字通り危機的な状況だ。世界の食料危機は現実である。異常気象や中国など経済発展著しい新興国の需要増、あるいはウクライナ戦争の影響。各国は輸出規制を強めている。
 来年以降のさらなる生産減も懸念される。肥料高の影響だ。世界銀行によると肥料価格は各国間の競争もあって9月、前年同月に比べ7割高という。「新興国の飢餓が深刻になる可能性がある」と危惧されている。
 本来、安全保障というのであれば、この事態に政権・与党も、野党も真剣に立ち向かうべきだ。
 また、商工業者も大変だ。コロナ感染症の影響もあって、飲食や宿泊、旅行などのサービス業はとりわけ厳しい。大手旅行業者は政府の支援策で一息ついているようだが、中小は大変だ。製造業関連も、サプライチェーン分断で部品や原材料が入ってこない、あるいは対中制裁で取引が成り立たない。コロナ対策の雇用調整助成金特例措置で辛うじて乗り切ってきたが、11月までの延長期間の先は見えず、上限額も引き下げられ、打ち切りの攻撃も強まっている。実質無担保無利子のゼロゼロ融資も9月で終わる。業績が回復しない中での返済で、容易ならざる事態が予想される。
 コロナ禍で、感染症の直接間接の影響による死者数(超過死亡)が大幅に増加している。今年に入って6月までの半年間で、前年同時期と比べて約5万人、コロナ感染前の19年とは8万人も死者数が増加している。自ら命を絶つ人も増加している(国立感染症研究所感染症疫学センター)。
 政府が優先的に解決しなくてはならないことだらけだ。もともと累積政府債務世界一のわが国だ。財政の使い道には明確な優先順位が必要だ。

「防衛力」は国民の命を守らない

 防衛費増はまさに「不要不急」だ。政府の中でもそうした意見が公然と出る。政府は12月の国家安全保障戦略の改定に向け、1月から非公開で有識者計52人から見解を聞き取った。辺野古新基地建設を巡って、「膨大な資金と長い年月のかかることに力を入れることには疑問。時間と効果をもっと考えてほしい」との発言があった。軟弱地盤改良工事の追加で予定費用は当初の2・7倍に当たる約9300億円に。沖縄県の試算では2・5兆円だ。期間も米軍が使用するまでには早くとも12年かかるという。
 政府や自民党は、明日にも軍事攻撃があるかに中国や朝鮮の脅威をあおり立てる。だが、12年後に首尾よく米軍基地が出来たとして、そのころ東アジア情勢はどうなっているか。戦闘機と軍艦による戦闘の時代なのか。
 今から5年間、45兆円をつぎ込んで、わが国の安全に結びつくのか。敵基地攻撃でミサイルを準備するという。よしんば南西諸島などに強引に配備し、中国や北朝鮮の基地をミサイルで叩いて、「敵」は報復しないのか。シェルター調査費に来年度予算で7000万円を計上するという。それで1億2250万の人びとの命は守れるのか。沖縄の八重山地方の自治体が求めているという住民避難計画は絵に描いたもちだ。狭い島国の日本に安全なところがあるのか。
 沖縄戦最大の教訓は、「軍隊は住民を守らない」であった。自衛隊の任務も「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つ」(自衛隊法3条)とあって、残念ながら国民の命を守ることではない。それは消防や警察の仕事らしい。「南西諸島防衛」が叫ばれるが、住民保護は自衛隊の任務ではなく、地方自治体に丸投げされる。島(国土)は守るが、住民は守らない。
 そもそも国民は、そんな戦争に心の準備があるのか。ウクライナでは、女性や子供は国外に出られるが、成人男子には「国土防衛」を強制。日本でそんなことができるのか。中国や朝鮮の脅威を叫び立てる政治家たちは真剣に考える必要がある。

近隣諸国を敵にしない
自主的な国に

 なすべきは莫大な軍事予算を費やして、中国や朝鮮を「敵」にすることではない。米国の世界戦略に縛られない自主独立の外交が必要だ。
 中国とは国交正常化以来の50年間の大半を友好的・平和的にやってこられたではないか。経済の必要さ一つを見てもどの道が必要かは明らか。
 朝鮮とはまず、20年前の小泉純一郎首相と金正日国防委員長との日朝平壌宣言で約束された国交を正常化することだ。
 戦争の危機と国民の命の危機に際し、防衛費倍増・敵基地攻撃を撤回し、国民生活を守る、国民に信頼される政治実現が、わが国の将来を保障する。

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