台湾有事を避けるために

日本の外交・安保はどうあるべきか 
安心供与の外交こそ大事

新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士 猿田 佐世

ウクライナ紛争からの教訓

 2月24日にロシアがウクライナに侵攻し、世界は騒然としました。凄惨な被害を受け続けるウクライナの情勢を見て、元来9条護憲を掲げていた方々の中には、これまでの信念が揺らぎ、軍事力拡大が必要なのではないか、と考えを変えた方がいるとも耳にしています。私も、攻撃開始後1週間ほど、今後の自分の考えをどのように伝えるべきか、大きく影響を受けた日本社会の中で悩みました。

 大国が戦争を決意したら「抑止力」とかなんとか言っていても戦争になるんだ、そういう決意をさせない環境づくりが大事なのだと改めて実感しました。戦争が始まってしまったら取り返しはつかず、戦争を始めさせないことが重要です。


 このウクライナの事態を見て、日本でも核共有など、今までだったら考えられないような議論が次々出ています。戦争になって核兵器すら使われかねないのは、兵器がそこにあるからです。77年前の日本の人々も命からがらになりながらどうしたらよいのかを考え、二度と同じ体験をしたくないからこそ核軍縮をはじめとした軍縮を是としてきました。今、進めるべきは、軍拡、核共有ではなくて世界規模の軍縮です。特に核兵器に関して日本は唯一の戦争被爆国ですから、ここで核共有など進めてはいけません。

ミサイル大国めざす自民党提言

 4月27日に自民党安保調査会が提言を出しました。
 その中で、今まで敵基地攻撃能力と呼んでいたものを、「反撃能力」と言い換えました。反撃能力と呼べば専守防衛の範囲に入るようにも聞こえ、国民の抵抗感も減るだろうと、名前だけ変えたわけです。今まではミサイルが飛んでくる予兆があったらそのミサイル基地をたたくという意味の敵基地攻撃だったところを、指揮統制機能等も攻撃目標に追加すると。日本が北京の防衛省にあたるところを攻撃する可能性がありますよ、なんてことをウクライナのごたごたの裏に隠れて火事場泥棒のように進めていけば、当然中国も軍事力をさらに強化しなくてはということになるわけです。しかしそうすれば、相互不信の結果の軍拡競争、いわゆる「安全保障のジレンマ」が起き、地域がさらに不安定化していきます。

 内閣官房副長官補という政府の中でも防衛のトップクラスを務めた柳澤協二さんのお話では、指揮統制機関は厳重に防御されているものだから自衛隊がもっている巡航ミサイルでは効果が出ない。もし本当に指揮統制機能を攻撃するつもりであれば、核・非核両用の弾道ミサイルを日本がもたなきゃいけないという議論になってしまう。日本がミサイル大国をめざすのが今回の提言であるというふうに指摘されています。

 そうなると結局、ミサイルを日本と中国、あるいは日本と北朝鮮が撃ち合うような想定になるわけです。ミサイルの被害とは、つまり現在のウクライナみたいな状態です。「敵基地攻撃」といっても、いつ、どこを攻撃するかという情報力と能力は米軍頼みで、打ち漏らせば報復攻撃で日本が甚大な被害を受けることになります。国民にはその被害に耐え忍ぶ覚悟はあるのでしょうか。敵基地攻撃能力というのは一見聞こえはいいけれども、その結果を考えていない非常に危うい政策です。

外交が欠落した安保提言

 自民党提言では5年以内に防衛予算のGDP比2パーセント達成をめざしていくということを打ち出しています。今、日本の軍事予算は2020年で世界の9位ですが、防衛予算を2倍、すなわち10兆円にするということになると、一気にアメリカ、中国に次ぐ3番目の国になるんです。日本が今の2倍の軍事予算を使うとなると、どれだけ私たちの生活が削られるのか認識をしなければならない。

 10兆円の防衛予算をどこから捻出するんでしょうか。防衛で何が足りなくてどういうところで増やすのかという議論はほとんどされていません。武器をいっぱい買っても、その武器を使う自衛隊員が足りなくて困っているときにどうやって人員を増やすんでしょうか。「2パーセント」がシンボリックに独り歩きしていると思います。

 また、「防衛装備移転三原則」を見直すとしています。これはもともと武器輸出三原則だったものですけれども、これを見直して侵略を受けている国、今で言えばウクライナですが、そこに幅広い分野の装備移転を可能とすることを検討するといっています。武器輸出三原則というのはもともと「紛争を助長しない」との姿勢からつくられたものです。また、武器を提供すれば、実際は紛争当事国に近い存在ともなり、反撃を受ける可能性も高まる。

 今回の提言が実現すると「専守防衛」の完全な放棄となります。
 この自民党の提言の方向性は、一つ目は抑止力の強化、二つ目は戦争になったときにどうやって戦場で闘うのかということ、三つ目はアメリカをどうやってこの地域に踏みとどまらせるのかということ、この3点が念頭にあります。しかし抑止力は、外交によるお互いの「信頼供与」がなければ成り立ちません。また、二つ目についても、戦争にしてはいけないのであって、どうしたら戦争を起こさせないのか、を議論することこそが重要です。三つ目のアメリカについてですが、アメリカは中国が力をつけているので、相対的に力を落としています。そのため「世界の警察」は既にやめ、多くのことに注力できなくなっています。日本政府は、これはまずい、アメリカに見捨てられないように日本も軍事力強化を頑張らなきゃだめだ、米国が手を伸ばせないところを日本が補完しなければ、と焦っているわけです。

 しかし、こうみると自民党の安全保障提言は軍事拡大ばっかりで外交提言が全然ない。撃ち込まれたときどうするか、ではなくて、撃ち込まれることがないように、戦争を始めさせないという視点がまったく欠落している。非常に近視眼的です。

 また、日本自らが軍拡すれば世界の軍縮のリードは不可能です。この提言はいろいろ詳細に書いてありますので、一回通読してみてください。

「台湾防衛」は中国との戦争を意味する

 安倍元首相が最近「台湾有事は日本有事であって、日米同盟の有事だ」ということを言いました。これは台湾で何かあったら日本も飛んでいきますよという意味なんですけれども、台湾を防衛するということの意味はイコール「日本は中国と戦争をします」ということです。そのリアリティーが安倍さんの軽い言葉からはまったく伝わってきません。日本にある米軍基地や自衛隊基地が狙われ、私たちの家にミサイルが飛んでくるということまで考えて台湾有事に参戦すると言っているのか、非常に怪しいと思います。

 私たちの最大の課題は台湾有事をいかに回避するかということす。
 私自身はアメリカと中国の間で戦争が近く起きることはないだろうと思っています。それは、中国が現在の経済的な繁栄を維持していくためには台湾有事を起こしてはならないと考えるだろうし、ウクライナ侵攻で国際的な村八分になったロシアを見ているからです。

 台湾有事はすぐには起きない。ただ、軍拡を続けてお互いに不信感を高め、挑発を繰り返していると、ちょっとした誤解や錯誤がちょっとした衝突を生みかねない。そして、そのときに大した武器をもっていなければそれで終わるんですが、ものすごい武器やそれを使う態勢を双方取りそろえているものだから、それが一気にエスカレートして大きな戦争に拡大する可能性がある。

 この可能性がいちばん怖いし、その可能性は軽視してはいけないと思っています。だからこそ軍縮が大事なんです。

中国を追い込んではならない

 ロシアは以前から、NATOが東方拡大してウクライナやジョージアが入ることに強い懸念を示していて、結果、今回のウクライナ侵攻に至ったわけです。

 米中をみると双方が挑発行為に近いことを続けています。中国の軍拡がよくないことはもちろんですが、アメリカのほうも、日本もリードしながら始められた、「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)」を進めたり、日米豪印のQuad、米英豪のAUKUSという軍事同盟をつくったりして、中国を包囲するような形を次々つくり出しています。

 中国が軍事同盟に囲まれていることを考えると、戦争をさせない環境づくりと真逆の方向に進んでいるようにみえます。自民党の提言は中国をいっそう追い込もうとするものであり、日本の安全のためにはならないと思います。日本の抑止力は専守防衛的な拒否的抑止に限定すべきで、中国本土のミサイル施設を無力化するような先制的・懲罰的な要素を加えるべきではないと思います。弾道ミサイルの配備や敵基地攻撃能力の保有は断じて止めるべきです。

 日本としてはFOIPだQuadだとうれしそうに煽るのではなく、台湾に武器を輸出したり閣僚級の政治家を送ったりするアメリカに対して、ちょっと自制したほうがいいんじゃないですかと言わなければならない。もちろん中国に対しても自制を求めなければいけない。また、対話の推進や、衝突したときにエスカレートしないような危機管理システムをつくることを米中双方に求めていかなければいけません。

 日本と中国の首脳会談もしばらくやっていません。これも早めに実現し、民間を含めた日中間の各レベルでの外交を実現していかなければいけないだろうと思っています。

中国への「安心供与」は何か

 ウクライナ紛争の例では、欧米の軍事力があっても戦争を止めることができなかったわけです。では抑止力を機能させるために何が必要かというと、「この一線を踏み越えなければこっちも攻撃しない」という相手に対する「安心供与」です。これがなければ抑止力は機能しないのです。

 ロシアの場合であれば、ここまではNATOの域を広げても許容範囲だけど、自分の裏庭まで入ってこられては、そこはレッドラインだからだめだ、という一定の線引きはあったんだと思うんですね。そのロシアの考え方は間違いだとか、そんな傲慢許さないとか、そういう問題ではなく、そのレッドラインを認識してそれを越えると戦争になり得るということを認識して西側、米国が行動できてきたか、ということなのです。

 抑止力の論理というのは、攻撃してこようとする相手に対して「攻撃したら倍返しでひどい目にあわせるよ。だからやめなさい」というものです。

 しかし、もし中国が「台湾独立はどんな犠牲を払っても許容できない」と考えるなら、軍事的優位を保ったところで中国を抑止することはできないのです。

 だからこそ、中国に対して、「武力に訴えなくても核心的利益が脅かされない」と考える余地を残すこと、つまり安心供与が不可欠ということになります。では中国にとっての安心供与は何か。これまでなぜ中国と台湾が共存してきたのか。それは、アメリカも日本も「一つの中国」という概念を一応認めてきたからです。本当にアメリカがそう信じているかどうかは別として、中国がそういうふうに言っているということは尊重しますよという範囲で認めてきたわけです。そして「台湾の独立は支持しません」ということも確認している。日中間で言えば、そのおおもとは1972年日中の共同声明にあるわけなんです。この「一つの中国」における「中国の立場を理解し尊重する」、それが再確認され行動にもあらわれるということが中国に対する安心供与になるでしょう。

 ここで、台湾の人々の気持ちはどうなるんだ、みんな独立したがっているじゃないか、と思う方もいるかもしれません。ただ、台湾の人たちこそ独立したら中国との間で大変なことになるのがわかっているので、今すぐ独立するんだ、という人はさほど多くない。

 民主主義や民族自決権はもちろんとても大切ですが、大変残念ながらそれを100パーセント実現できない政策のほうが「平和」は実現されるという場合もあります。非常に忸怩たる思いはあるんですが、そういう意味で、現状では「一つの中国」原則の再確認が必要になるだろうと私は思っています。

折り合う余地ない「価値観競争」

 アメリカは常に「民主主義国は一致して、権威主義国と立ち向かわなければならない」というトーンなんですね。去年の末、バイデンさんが民主主義サミットを開きましたが、呼ばれた国と呼ばれなかった国の線引きも非常に恣意的だったといわれてます。もちろん民主主義はすばらしいことなんですけれども、現実的には民主主義でない国とでもコロナや気候変動などでは手をつないでいかない限り、地球が破滅してしまうかもしれない状態にある。

 中国やロシアとの対立を「民主主義と専制主義の対立」とする「思考のワナ」にはまると、まったく折り合う余地がなくなってしまいます。とにかく戦争を起こさせてはならないので「価値観をめぐる競争」とするのではなく、世界的課題に対する国際協力こそを優先課題として前面に出していかなければならないと思います。

「国を守る国民精神」論に懸念

 先日テレビで自民党の元衆議院議員の女性がウクライナの話をしながら、「息子が成人して日本を守るために戦場に行くと言ったら、私は日本のために送り出します」と言ったんです。私は、自分の息子には「どこでもいいからとにかく逃げなさい。生き残りなさい」と言います。

 ウクライナであれだけ攻撃を受けている中で女性と子どもしかポーランドに逃げられない。国境までお父さんも一緒に行ったのに、おまえは国を守る気持ちがないのかとか言われてしぶしぶ帰らなければいけなかったお父さんたち。ウクライナという国を守るより、逃げて自分や家族が生きていたほうがいいと思う人はウクライナにもたくさんいると思うんです。そして、そう思う気持ちも大事にできる社会でなければならない。

 この自民党の元衆議院議員の発言を聞いて「ああ、こうやって太平洋戦争中には国家総動員法がいとも簡単に発せられ、国民の中に広まっていったんだな」と肌感覚でスッと理解しました。先に挙げた自民党の提言でも、日本人が自国を守る覚悟をもってくれないとアメリカも助けてくれないから、皆で自国を守る意識を高めよと言っているわけです。そういう意味で、この国民精神論みたいなものが、さらなる愛国心教育につながっていくんじゃないか。強い懸念を持っています。

(本稿は、4月25日の広範な国民連合・東京総会での記念講演の一部。見出しとも文責編集部)

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