貧困危機打開は喫緊の政治課題

  国民から奪った富を緊急支援に回せ

『日本の進路』編集部

 3月から電力料金も都市ガス料金も大幅引き上げ、食料品も値上げラッシュ。原油価格はうなぎ上り、1月の企業物価(指数、速報値)は前年比8・6%増、輸入物価は実に37・5%増だ。遅かれ早かれ消費者物価に反映され、すでに苦しい国民生活をさらに直撃する。


 コロナ感染症発生からすでに2年を経過、感染爆発は早くも第6波。政府の無為無策、失策で終息の見通しは全く立たない。犠牲をしわ寄せされた非正規雇用者や学生や無職者・高齢者、零細な事業主などの生活と営業は限界点を超えている。とりわけ子育て中の「貧困層」や女性シングル家庭の現状は深刻だ。医療・介護・保健従事者をはじめいわゆるエッセンシャルワーカーも限界だ。
 今、現に困難に直面している生活危機者を支える「給付金」の即刻実現を強く求める。
 最後のセーフティーネットのはずの生活保護制度すら意図的に利用拒否され、貧困層は生きてゆけなくなっている。社会はこの面からも崩壊し、女性自殺者が増加し、他方では犯罪にすら結びつく。現状は、民間ボランティアの「駆けつけ支援」や「食料支援」、あるいは「子ども食堂」などで辛うじて支えられている。それも限界だ。全国でこうした民間活動に協力し支援するとともに、責任を負う国と地方自治体にきちんとした対処を求めようではないか。

闘いの時だ

 来年度政府予算案は衆議院を通過し、参議院に回った。軍事費だけは8年連続の「過去最高額」で21年度補正予算と合わせると6兆円の大台を超えた。他方、社会保障費は圧縮され続け、生活を支える給付金等の直接支援は乏しい。
 岸田首相は国会での施政方針演説で、「公平な分配が行われず、格差や貧困の拡大」が深刻だと述べた。一国の首相が、こうしたことを国会で演説せざるを得ない。だが、首相が看板にした「令和版所得倍増」も「成長と分配の好循環」も話だけ。
 私たちは、国民すべてに一人当たり100万円くらいを出すべきだと要求してきた。総額でも130兆円くらいだ。今こそ、それが必要だ。国民の富の多くは政府や大企業にすでに盗られている。生活危機の今こそ、奪われた富を取り返す時だ。
 政府の支援で労働者・国民から富を奪った大企業は466兆円もの内部留保を貯めている(20年度)。それを吐き出させる特別課税や、あるいは岸田首相が掲げたはずの「金融所得課税」強化などだけでも財源は十分だ。大企業(東証1部上場企業)の2021年度の最終的なもうけである純利益が過去最高になるという(朝日新聞、2月11日)。
 労働組合は「春闘」の最中だが、大幅賃上げ、とくに非正規雇用労働者などの生活安定は緊急課題だ。連合は、4%程度(定昇込み)の賃上げを要求しているが、物価高の中でこの程度で「底上げ」となるか。同時に、「底支え」ということで、「企業内のすべての労働者を対象に1150円の最低賃金協定締結」を求めている。結構なことだが、労働組合が社会的役割を果たすためには、企業内労働者の範囲にとどめず、すべての労働者に適用するよう闘うべきではないか。
 地方議会では来年度自治体予算の審議中だ。厳しい財政状況下で制約もあり、コロナ感染症対策も待ったなしだが、同時に、貧困者対策と地域の零細な商工建設などの事業主や農林漁家などの家族経営を「持続可能」にする対策も待ったなしだ。
 昔であればこの状況は、「むしろ旗一揆」であったろう。生活に困った人びとが、自治体首長と窓口に、政府に押しかけて何が悪い。そうした時が近づいている。沖縄市での高校生たちの行動はそんな時が近いことを感じさせる。

名護市長選結果が教えること

 名護市長選直後の地元紙「沖縄タイムス」(1月25日)は、[託した思いは―]と題して、43歳のシングルマザー冨名腰静香さんの事例をレポートした。要旨はこんな感じだ。
 貯金残高がほぼゼロ、毎月4千円近い学校給食費も滞納するようになっていた。まだ〝無償化〟が始まっていない2017年ごろだ。辺野古新基地建設に反対し、稲嶺進市政(2010~18年)を支持していたが、4年前に考え方が変わった。今回も、子育て支援の「無償化3点セット」を掲げ再選を果たした渡具知武豊さんに一票を投じた。
 民意に関係なく進む新基地建設と、逼迫する家計。二つを突き合わせると「保育料」「給食費」「高校までの医療費」の完全無償化は抗しがたかった。
 米軍キャンプ・シュワブ内のレストランでウエートレスをするなど、三つの仕事を掛け持ちしたが生活は苦しかった。以前に気管支を悪くしていた息子の医療費は毎月6万~7万円。実費負担はないが、窓口での一時立て替えにも事欠いた。
 渡具知さんが市長となった4年間、冨名腰さんは「目の前の生活は変わった」と実感する。熱心な支持者となり、選挙戦では街頭でプラカードを掲げた。周りにも同じような母親たちの姿があった。基地反対の候補者に投じてきた知人も今回は「(集票カードに)渡具知を書いといて」と頼んできた。……
 「経済か基地問題解決かの二者択一」を政府が沖縄に迫るのは断じて許せないが、「目の前の生活」の選択、この現実を認めなくてはならない。そしてこれは、沖縄だけでなく全国共通の問題である。とくに、「左」と言われる人びと、「平和運動」に熱心な人びとほど考えてほしいことだ。本誌も例外でないと痛感・自省している。「台湾有事」が叫ばれ、「敵基地攻撃」などと「戦前」を準備するかの動きが急な時だけに、しっかりと受け止めなくてはならない。

苦しさ増す母子世帯の生活保護はどうして減るのか?

 内閣府は昨年末の12月24日、子どもの貧困に関する初めての全国調査の報告書を公表した(子供の生活状況調査の分析」)。
 現在の暮らしの状況について「苦しい」または「大変苦しい」と回答した割合は、全体では25・3%だが、貧困層では57・1%、ひとり親世帯では51・8%。「食料が買えなかった経験がある」が全体では11・3%だが、貧困層では37・7%、ひとり親世帯では30・3%。コロナ感染症の影響で「世帯全体の収入が減った」が、全体では32・5%なのに対して貧困層では47・4%。
 非常に厳しい現状が浮き彫りだ。「目の前の生活」重視になるのは当然だ。そうでなくては文字通り明日がないのだから。なお、貧困層とは、世帯年間収入中央値の2分の1未満の世帯のことで、全体の約12・9%。
 問題は、この厳しい状況を強いられている貧困層「支援制度」の利用状況だ。生活保護の利用はわずか6・0%にとどまる。この人たちの83・1%が、「制度の対象外(収入等の条件を満たさない)だと思うから」と回答している。だが、収入面だけからだと、貧困層は生活保護の要件をほぼ満たしている(貧困層の世帯年収は158・77万円未満)。
 行政が利用を知らせていない、来ても追い返す。申請者が嫌がる親族への「扶養照会」を強引に迫る。こうして母子世帯(75万4724世帯、2015年国勢調査)で生活保護を利用しているのは、わずか7万1445世帯(21年11月、厚労省生活保護被保護者調査)にすぎない。しかもこともあろうに19年11月からコロナ禍の2年間で約1万世帯、1割強も減少している。地方自治体はどうなっているのか?
 文字通り、闘いなしには生きられない時代である。

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