カーボンニュートラルなど激変するものづくりの現場(下)

労働組合として関心を払い、雇用維持へ発信強める

JAM北関東書記長 小嶋 正弘 さんに聞く

(21年11月号から続く)

 そこで、年間休日のカレンダーを統一してほしいと、われわれもカーメーカーに一生懸命話をして、今は自動車総連が「基本カレンダー」というものを作るようになって、年間のカレンダーがバラバラにならないよう調整してもらうようにはなりました。
 しかし、メーカーやその車種によって当然部品も違うわけですから、メーカーが止まっているから、それに合わせてサプライヤーも止めて、雇用調整助成金で経営をつなぐということだけでなく、一部の企業が非効率的な工場運営をやっていれば、それに合わせなくてはいけないということは会社側からすると非常に非効率です。かといって、合わせないと部品を納められませんから、非常に問題です。
 やはり中小企業ゆえの経営で多くの企業と付き合っている関係での課題ですね。
 一方で、片方だけに偏っていると、「親亀こけたら皆こける」という状況になってしまうので、そういうふうにならない経営も必要になるのですが。

技術革新の時代に対処する上でボッシュの経験から

 私は現在のボッシュ出身で、組合専従を長く務めて関連企業の面倒も見ていました。当時はその関連企業十数社ではボッシュ1社に対する依存度が8~9割もありました。その多くでは、ボッシュに吸収される以前の会社時代からずっと長い間50年以上も付き合いがある小さい会社が周りにたくさんありました。そうした企業の部品がなければボッシュも製品ができませんから、地域経済に非常に大きな影響をもっていました。
 ところがボッシュ資本100%に変わって、購買政策が転換されました。そこで何が起きたかっていうと、これまでボッシュとの取引が8~9割もあった取引先企業では、全部3~4割に下げさせろという指導が本国から来ました。当然われわれは反対でした。いきなり3~4割ということではなかったですが、中長期的には3~4割に下げろという本国からの指導だったので、組合の立場から「とんでもない」と当時の会社の購買課ともいろいろと議論したことがありました。
 でもそれは裏を返すと、やはりボッシュという会社に8~9割も頼っていたら、そのボッシュがもし倒れたら、その関連会社まですべて倒れてしまう。そうならないために、早いうちにボッシュ以外の会社ともつながるような体制をつくることが大事なんだということを購買課のメンバーから聞かされて、確かにそうだなと。ずっと右肩上がりできた時代では1社に頼るということもあるのかもしれませんけれども、これからどんなことが起きるか分からない中では、そうした政策もあるべきことなんだなと思いました。
 もちろん、中小の経営者にしてみると、もう長年1社に頼り切って、比較的安定的に経営が継続してきた経過もあって、「急にボッシュ以外に販路を求めろと言われても、そんなことできません」という声を単組回りのオルグの際に経営者から聞かされました。しかし、今はそれがほとんどの会社ではボッシュ1社への依存度が軽減されたので、ボッシュが厳しいときでも自分たちが新たに見つけた販路の仕事によって企業継続ができたという実態もあるので、その点では良かったと思っています。
 少し話は戻りますが、カーボンニュートラルの関係で、内燃機関の部品が不要になってしまうということに対して、金属機械関係の企業がどこに活路を見いだしていくかっていうことは経営者にとって大きな課題です。
 そして、もちろん働く側としても、今まで以上に関心を払わなければと思っています。自分たちの会社の強みをどう生かしていくかという点について、組合の立場からも、経営側に強く発信していかなくてはいけないという時期に来ていると感じています。
 このままいけば、雇用も守れなくなると思うので、われわれの立場からも発信を強めていきたい。これまでにない労働組合の運動の一つとして取り組まなければいけないと感じているところです。

AIなど技術革新への対応

 JAMの構成組織は中小が多いので、いわゆる太陽光だとか地熱だとかそうした次世代エネルギーの分野にどう入っていくかは非常に難しい部分です。しかし、これまでと違う着眼点を持たなくてはいけないと思っています。
 自分が住んでいる地域をどう盛り上げていくかということも課題ですね。地域で生活するためにやはりそこで働き、稼がなくてはいけないですから、その稼ぐ元がその地域にあるということは、非常に恵まれていることです。ただ「待ちの姿勢」だけではダメで、これから地域で何ができるのかということを発信しなくてはと感じています。今まではどちらかっていうと、会社や社会にモノ申す、提言する活動はあまりしなくても、一定の労働条件を確保することができました。
 しかし、これからはもう労使共に頭をひねって新たなことにチャレンジをしなければいけない時代ではないかと思い始めています。
 今回のコロナ禍の影響での部品不足という出来事が一つのきっかけになって、いろんな課題が表面化したと思っています。「もうどうしようもない」というのではなく、これをバネにして、今までと違う視点での労働運動、組合活動が大事になると思うんです。
 JAMの安河内賢弘会長もよく言われますが、今後中小でもAI化などの課題に対処しないと結局取り残されてしまうと。そこに対処できるようにするには中小に対してどのような支援が必要なのか。単純に組合と会社だけで対処できないもの、政府に対する政策・制度要求も含めて、総合的なJAMとしての仕事だと思います。そこで役割を果たせなければ、ものづくり産業自体が衰退してしまう事態になってしまいます。
 日本は資源がない国ですから、結局、製品の高い品質によってこれまで世界の中で勝ち抜いてきました。そして、それを支えているのは中小企業です。

重み増す国内でのものづくり

 ちょっと振り返ってみますと、もう十数年前に、中国などいわゆる「ローコストカントリー」と言われる国に日本の中小企業も多く進出したことがありました。
 しかし、現在では中国での賃金も上昇したこともありますし、コンテナ船の問題もあって納期面などで課題も出てきています。以前は、品質は悪いけど、コストは安い、だからトータルでは中国で作った方がまだいいという感じでした。
 今では、中国での賃金も上がり、製品の品質も上がってきました。しかし、どちらかというと、賃金と納期の問題が大きな課題になってきています。
 私が聞いた話では、JAMの中でも中国に進出したけれども日本に戻ってきている会社がけっこうあると聞いています。やはり日本国内での小回りが利くよさなどが見直されているようです。
 海外での生産というのは今後も中国に限らず、一定程度必要だと思います。しかし、やはり自分たちが生活し、食べていける範囲内におけるものづくりというのは、日本国内で継続させていかなくてはいけないと思います。
 海外での生産を100%否定したら、コスト面などで成り立ちませんから、一定の範囲内での海外生産というのは必要でしょう。また、ある程度は現地生産しないと、それを製品としてその国で買ってもらえないということもありますから一定程度は必要です。
 しかし、これまでは「外へ、外へ」と一辺倒でしたが、やはりそのことのデメリットというものが最近見えてきたと思います。そうした面も整理しながら、国内できちんとものづくりを進めていく判断が求められていると思います。労働組合としてもそのことも発信しなければ雇用も確保できません。
 地域での生活もなくなってしまいます。

■農業も同じものづくり

 農業が盛んな茨城県(かつては北海道に次ぐ農業生産額だったが、最近は鹿児島県に抜かれて3位に後退)などにもオルグでよく行きますが、田園風景であったところが休耕になっているところがけっこう目立つんですよね。あのままの状態では当然お米はもうできなくなってしまいます。
 前任の委員長と、やっぱり農業の会社を作らなきゃ駄目じゃないか、といった話をよくしていました。
 今一部の若者の人たちが、新たに農業の会社を設立して、例えば農業機械なんか高額ですから、会社組織が保有してそれを地域全体で運用して費用負担を減らしたといったようなニュースも見ました。後継ぎがいないのは分かるんですが、人は食べなければ生きていけないわけです。食料生産の農業は不可欠です。
 もちろん工業製品などのものづくりも大事ですが、農業も同じものづくりだと思います。とても重要だと思うんですよ。
 食料自給率が下がった日本が海外に頼るといっても、最近の気候変動の下、不安定な供給状態もあって価格も高騰するなど見通しは甘くないと思います。すべて自給自足とまで言いませんが、基本的な食料などは自給できるようにしていかなくてはと思います。そして、そこに若い人たちが働ける環境というのを設けることもすごく大事だと思います。
 そのため政府ももう少し助成すべきだと私は思うんですよね。
 うまくいっている好事例なんかがけっこうニュースで流れますが、こうした好事例をもっと横展開できるような仕組みを国ができないものかと思いますね。
 この北関東、田園風景が広がっていますけれど、荒れている土地が増えていますよね。自分の近所にも農家があるんですけども、後継ぎはいないようなので、この後、自分の地域の周りの田んぼはどうなってしまうのかと思うこともあります。
 当たり前ですが、「食べる」ということは人として絶対に欠かせないことですからね。地域の経済も、労働者の生活も、そこが基礎ですから。労働組合ももっと考えないといけないと思います。

「ものづくり」を次世代につなげる教育を!

 現在、少子高齢化が叫ばれる中、ものづくり現場における今後の担い手(労働者)の確保が労使共通の重要な課題となりつつあります。この問題は、単なる少子化だけでなく、子どもたちに「ものづくり」の楽しさなど、どう魅力を伝えるかが重要であると思っています。自分たちが小学校の頃の図工の授業は、絵を描く時間もあれば、カッターを片手に「ものづくり」に時間を費やすこともしばしばあったように記憶しています。中学校では技術・家庭で大工道具一式を全員が買い込み、木材を切ったり、カンナ掛けなどさまざまなものづくりに関わる授業が行われていました。
 今の小中学校における教育現場は、実際どうなっているのでしょうか。聞くところによると、図画工作の時間は、絵はよく描くが、「ものづくり」は刃物の利用など危険があるため、そうした授業はあまりない、と耳にしました。また、高校も、普通科希望の生徒に押され工業高校の全体のパイが小さくなり、予算も減り、ものづくりに必要な高額のNC機などは各学校で準備できないとも聞きます。工業高校のみならず、先ほどの農業に関する点での農業高校も同様なことが言えるのではないでしょうか。
 これからの「ものづくり」を支えるためにも、教育の在り方を考え直す必要がある時期に来ているのではないでしょうか。