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[持続と循環の食料自給経済へ]高松 幸彦

「改正漁業法」―― 沿岸漁業でも農業とまったく同じ攻撃が

全国沿岸漁民連絡協議会共同代表(北海道北るもい漁業協同組合所属) 高松 幸彦

 私自身は先生のご講演を聞かせていただいたのは今回で2度目です。最初は自分が共同代表として所属する「JCFU(全国沿岸漁民連絡協議会)」が開催した〝改正漁業法に関する勉強会〟でした。
 安倍政権下での、漁業法の「70年ぶりの改正」というわりには浜を対象にした説明がほとんどないに等しい状態で、国会審議においても衆参両院合わせてもわずか約21時間余り、「数の論理」による乱暴な国会運営でした。このため法案を通してから水産庁の担当者が説明に各地を回るというお粗末なありさまです(改正漁業法は、2018年12月成立、20年12月1日施行)。いまだに大多数の漁業者が法改正の中身を理解できてない状況です。これは当事者である漁民を愚弄し、〝漁業人口の94%にあたる家族漁業経営体を軽視〟していることの表れにほかならないと思います。まさに農業改革で農協の弱体化を狙った時と構図的には似たものがあります。

 「水産改革」の柱は、「資源の適切な管理と水産業の成長産業化の両立・漁業者の所得向上と年齢バランスのとれた就業構造の確立」ということになっています。一見誰が見ても納得し明るい未来像を思い浮かべさせる表現を使っています。水産庁の説明には、「この法改正により衰退する漁村集落の活性化を図ることができ、地域経済の底上げにつながる」的な発言が多いのが実際です。
 しかし、改正法では区画漁業権や定置漁業権において、これまで地元漁業者を優先した法条文から優先順位を廃止し、〝企業参入〟がより容易になりました(漁協の販売ルートを使わない=漁協の手数料収入が減少し漁協の弱体化)。また、大中巻き網やトロール等の〝大臣許可漁業〟の定数制をなくし漁船規模においても自由(IQ:個別割当量があるので資源は守られると国は説明しているが)にするというものです。その他、漁獲能力が増大し混獲魚の海洋投棄が起こる(海外では投棄防止・監視体制強化のためオブザーバー乗船義務がある)。しかし、改正法では企業活動の妨げになることは明文化されてない。その他にもまだまだ、「海区漁業調整委員の公選制廃止」等々、気になるところはたくさんあります。
 われわれのように沿岸の限られた海域で漁業を営む小規模零細漁業者にとって、資本投下が容易な企業参入により漁業の寡占化が進み、これによって漁村コミュニティー維持の中核的役割を果たす漁業協同組合がますます弱体化するのではないかと危惧しています。
 もっとも政権の狙いは、「地域政策」は二の次で、一次産業でも生産性の低いところは淘汰を前提としている。つまり「稼げるところ(企業)が儲けなさい(自由競争)」ということでしょう。

生産者の責任と役割を果たす行動力を強める

 こうしたことを思いながら、ご専門の農業分野のことを中心とした鈴木先生の発信でいつも勉強させていただいており、そこに示されるデータには驚かされます。
 今日も冒頭からショッキングな話で自分もNHKのこの放送を見ましたが、近い将来やってくるであろう「地球規模の食料難」は現実性のある内容でした。ここ20~30年間の、温暖化を起因とする〝大気や海洋〟の変動、生態系への影響等々、われわれのように自然界に糧を求めている農林漁業従事者であれば誰しもが、より強く危機的状況が差し迫っていると実感を持っているのでないでしょうか。昨今、国連が採択(2015年)し、目標達成を30年とする「SDGs」に対する国民意識が高まって食料に対する考え方も変わりつつあります。
 食料自給はSDGsの目標達成にも関わる人類共通の課題です。常日頃から先生が指摘されている「わが国の自給率の低さ」、特に種や鶏のヒナ等の自給率を加味した数値には寒気がするほどです。残念ですが〝政府の無策に加えて国民の危機感のなさ〟に対してどうしても悲観的になってしまいます。現政権に〝一度お下がり〟いただき次政権において大きく政策転換していただきたいものです。
 国際的には「家族農業(林業・漁業含む)」が見直され、その再評価の報告により各国の行動も明確化してまいりました。繰り返しになりますが、わが国は真逆の政策を展開していると言わざるを得ないでしょう。先生が最後の方で触れていましたが、日本には「山村地域の小規模農家」「海岸線約5・5㎞に一つの漁業集落」が多数存在し、そこが果たす多面的な機能の評価には大きいものがあります。「農林約8兆円」「水産業・漁村約11兆円」との試算は無視できないものだと思います。
 提起された問題があまりにも多すぎて理解するには大変ですが、現場に立つ者(生産者)の責任と役割を果たすための行動力が問われているような気がしました。